激烈な疾走

夢と青春の輝きを遮光するため
カーテンを締め切った部屋の
湿り切ったベッドに横たわる

天井の低い窮屈な部屋を
内側から破裂させるつもりで
真っ暗闇の虚空に
思いっ切り舌打ちをかますと
大腿骨が音叉の如く震え
「キーン」と高音を響かせる

両脚は意図せずバタバタと暴れ始め
自身に起こった実に奇妙な現象に戦慄し
私は目を見開いて眼球を硬直させる
体は跳ね起き玄関扉を蹴破り
裸足のまま走り出した

激烈な疾走!

皮膚には見る見る内に裂傷が一つ
また一つと増える
何が起きているのか
その異常な速度に肉体がついて来れず
皮や肉は風に乗り吹き飛び
来た道にはレッドカーペットが
敷かれる それは
私の先ではなく
私の後に 私の後にだ!

激烈な疾走!

その最中
私は 頭の中で
母親の健康と 世界の平和と
“自身を含む”
世の中の無智と傲慢を憂いた

白髪混じりの脳味噌
脳味噌をポリデントで洗浄
脳皺に引っ掛ける老眼鏡
本屋大賞第五位を読みながら
こくこくと舟漕ぐ脳味噌
クソっ垂れ 垂れ流すな脳味噌汁!
豆腐 茄子 わかめ かつお

________サザエでございます
目が覚めると
いつもと変わらぬ天井
そろそろ日曜日が終わる

なんだってこんなに虚しいのだ
なんだってこんなにモドカシイのだ
なんだって なんだって
なんだってこんなに情けないのだ!

目尻から涙が耳へ伝う
昨今のゲリラ豪雨かの如く
一瞬にして耳は溺れる
まるで水中に居るようだ
音も消えた 聞こえるのは
鼓動 生きているだけの
私の 鼓動

涙を拭いた左手 ぬめりとした
その甲には 血 生の 血
ヒリリとする目の下を
中指と薬指で なぞる
裂傷 確かに 裂傷

“位置について”

私は背中を
地球に突き上げられたかのように
跳ね起き 玄関扉を蹴破った
18:34  夏 西日が笑顔を橙色に染める


“よーーい”

「ははは  何度だってやってやるよ」

“ドンッ”

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