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ヲタ活で、一度だけ泣いた話② 2022/03/21

それまでリリイベで団体の特典にしか参加したことが無かった私にとって、推しの個人特典に参加することはとても勇気がいることだった。

一般客が周りで見ているショッピングモールのイベントステージで、私みたいな地味でブスなヲタクが自分の列に並ぶなんて恥ずかしいと思われないだろうか、そんな不安も頭に浮かぶ。

だけどそれ以上に、個人特典に来たことを喜んでくれるのではないかという期待の方が大きかった。

どんな反応するだろうか。
わー!っと笑って喜ぶ推しの顔が目に浮かぶ。

団体サインが終わり、いよいよ個人の特典会。
最初のメンバーがステージ上に出て来て、そのファンたちがステージ下に並び始める。

私は愕然とした。

今までのリリイベでは、個人特典の時、他のメンバーはステージ裏で待機していたのに、今日に限ってステージ横のベンチで待機していたのだ。
ステージが丸見えだった。。。

本命の推しの個人特典をするところを、2番目の推しに見られたくなくて今までやらなかったのに、なんで、、、、。

どうしよう.…しばらく迷ったが、覚悟を決めて私は推しの列に並んだ。

並んでいるところもステージ横のベンチから丸見えだった。
推しも2推しも何とも思わないだろうけど、どうにも気まずい感じがしてメンバー達の方は見ないようにして並んだ。
緊張で心臓がドキドキして、早く時間が過ぎてほしいと願った。

推しの順番が来て、私はステージに上がった。

個人特典は、推しと『あっち向いてホイ』をして勝ったらツーショットセルカ、負けたら私物サインだった。
他のヲタクに訊いたら、推しは最初にセルカとサインどちらが良いか聞いてくれて、ゆっくりあっち向いてホイをして希望通りの特典をしてくれると言っていた。

私は私物サインがほしくて、サインを書いてもらうためのトートバッグを持参していた。

推しの前に進む。

推しは下を向いたまま、何も訊かずに『あっち向いてホイ』をしようとした。
何の反応も無いどころか、顔も見てくれなかった。

「え、、あの、、」
サインがいいと言う隙も無かった。

推しは下を向いたままだった。

『あっち向いてホイ』は私の負け。
希望通り私物サインだ。
セルカじゃなくてホッとしたけれど、どうして顔を上げてくれないのだろう。
俯いたまま、面倒臭そうに…

私は、テーブルの上に持参したトートバックを置いた。

推しは無言でペンを持ち、油性ペンをカチカチと振った。

あの…どこに?

うつむいたまま小さな声でそう質問した。

顔も見てくれないことが、私はとても悲しかったし、怖かった。

「ここに、大きく書いてほしいな」
精一杯笑って、そう伝えた。
推しはずっと下を向いたまま。
足が震えて、早く終わってほしかった。

そして推しは無言でトートバックにサインを書いて、終わった。

私はステージから降りて、トートバックをしまい、トイレへと向かった。

トイレの個室ドアを閉めた途端、ポロっと涙がこぼれた。

私…何か嫌われるようなことをしてしまったのだろうか。
それとも、やっぱり私みたいなヲタクが自分の特典に並んでるところを見られるのが恥ずかしかったのだろうか。

ポロポロと涙がこぼれて、動揺が収まるまでしばらくトイレに座ったまま立ち上がれなかった。
今日、個人特典をやらなければよかった、、、。
いつも通り団体の特典にしておけば、こんなことにはならなかったんじゃないか。。
喜んでくれるだろうと期待した自分が、馬鹿みたいだった。

ちょうどそのリリースイベントは長期公演の終盤で、推しが自分の最後のソロステージを見に来てほしいと日にちを教えてくれた頃のことだ。
(最後のソロについては以前noteに書いた)

ソロを見に来てほしいと何度も言われ、日にちまで教えてくれた。
そのソロステージは、このリリイベの2日後にある。

もしかしてソロを聴いてほしいと言ったのは私の勘違いだったのだろうか。
それとも、それは皆に言っていることで特別でもなんでも無かったのかもしれない。
私が舞い上がって、勝手に期待しただけだ。

しばらくトイレに座って気持ちを落ち着かせ、涙を拭いて化粧を直した。
周りに泣いたことを知られたく無かった。

トイレから戻るとまだ他のメンバーの個人特典会をやっていた。

その日はいつも一緒に来るヲタ友は都合が悪かったから私は1人でリリイベに参加していた。
もしヲタ友が一緒だったら、泣いたことがわかってしまうだろうから1人で良かった。

美人ちゃん(2推しのファンで仲良くなった子)がリリイベに来ていたが、その頃はまだ現場で会ったら話す程度の関係だった。

涙は収まったものの、私の気持ちは沈んでいた。
最後にメンバー全員とのハイタッチの特典があったが、やるのは辞めようかと思った。

だけど、そうなると2推しと何も話さないまま終わってしまう。
沈んだ気持ちを隠して、ハイタッチの列に並んだ。

ハイタッチ列の先頭に並ぶのは皆避けていたが、成り行きで私が先頭になってしまった。

そしてハイタッチの順番は、推しが1番手に並んでいた。。。
気まずくて逃げ出したい。
さっさと終わらせて帰ろう。

スタッフに促されステージの上に上がると、

ハルさ〜ん!

さっきの態度が嘘みたいに、推しはご機嫌だった。
ハイタッチは通常、メンバーたちは片手を上げて待っているのだが、推しは両手を上げてニコニコ笑って待っていた。

な、、何なんだろう、、、さっきの態度と全然違う、、、

私は戸惑いながらも推しの前へと進んだ。

推しは自分から前に出てきて私の両手を握り、おどけてはしゃいでいた。

他のメンバーはいつも通り、片手を上げて待っていて「ありがとう〜」と言いながらハイタッチをした。

推しの対応の変わりように、私は気持ちがついていかなかった。
特典会が終わり、誰とも話さないまま1人駐車場に向かった。

その日はリリイベの後、SHOWBOXで公演があったから、既にチケットを購入していた。
個人特典の推しの対応のショックがあまりにも大きくて、SHOWBOXへ向かう道中も気持ちが沈んでいた。

ヲタ友とSHOWBOXで待ち合わせをしていたし、私の名前で一緒にチケットを購入していたから行かないわけにはいかない。

車を運転しながら、サインの時の推しの態度を何度も頭の中で思い出しては泣きそうになる。
たぶんあれは推しにとっては普通のことで、私が期待しすぎただけなのだ。
嫌われたわけではない、ただ、自分の期待通りでは無かったというだけ。

SHOWBOXでヲタ友と合流し、リリイベはどうだったかと訊かれたが、私は本当のことは言えなかった。
楽しかった、と嘘をついた。

沈んだ気持ちで見た公演は、楽しくなかった。
勘違いして期待した自分が恥ずかしく、ここから消えてしまいたかった。

公演後の特典会、推しは「今日はリリースイベント来てくれてありがとう」と言いながらチェキにサインを書くとペンを置き、改まった感じでこう訊いた。

ハルさん、次はいつ来ますか?

アイドルの定型文。
だけど、推しは今まで一度もそんなことを訊いたことが無かったのに、ついに定型文対応になってしまったのかと戸惑った。やっぱり定型文の対応は悲しくなる…

「あさって、、あさって来るよ」
そう答えると、推しはパァっと笑顔になった

ほんと?良かった!
歌詞が本当に良い曲だから、楽しみにしてて!

2日後は、推しの長期公演最後のソロステージだ。
ソロを聴いてほしいと言われたものの、仕事が忙しくて平日の公演に行けるかどうか確約出来なかったから、返事は曖昧に濁していたが、ようやく都合がついて行けることになった。

推しが、、最後のソロの日に私が来るかどうか気にしてくれていたことが嬉しかった。
聴いてほしいと言われたことが、勘違いではなくて安心した。
うん、大丈夫、私は嫌われてない。そう自分を慰めた。

今日のことは自分への戒めにしよう。
周りから、推しはハルちゃんには特別だと言われて勘違いしていた自分への戒め。

決して特別なんかじゃない。
最後のソロも、きっと皆に「聞いてほしい」と言っていたのだ。

そうして、このリリイベの記憶は自分の中で封印した。

それからしばらく経って、美人ちゃんとこの時の話をするまで、誰にも泣いたことを言わなかった。


③へ続く

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