見出し画像

燭台、そして反復の1年 2020年12月 文京区本郷カレー店前

    2020年の暮れ、安ローソンにピクルスなど買いに出た帰り、インドカレー店の前に置かれた「ご自由にお持ちください」ボックス」から金属製のカブトガニ・オブジェを拾ったのだが、「引っ越しに際し、物品を整理している」との旨が記載されていたため「この不要品は更新される筈」と察知、仕事帰りにその箱をチェックしに行く日々が続き、カブトガニから4日ほど後に燭台を頂戴する事となった。

    この場合は実際に、数日後に燭台を獲得する結果へ結び付いたが、再び出向いたところで、同じ場所にまた目ぼしい物がある確率が上昇する訳でもない。なのに向かってしまう自分の習性は、犯行現場に戻って逮捕される、犯罪者の混乱した精神を思わせる。
    巧く進んだ事例を再現すれば、同じように事が進む、といったジンクス・験担ぎ思考に偏るのは、動物ではない人間の感覚として当然とはいえ、自分はどうもその傾向が強い。
    その愚かしさは、20歳の夏にリゾートバイトに出掛けたら人生で初めての彼女という存在が出来たのだが1年を待たずに別離を経験したので、翌21歳の夏にリゾートバイトに出掛けて何も起こらなかったにも関わらず、更に翌22歳の夏までもリゾートバイトに費やした程だ。
    そして更に、22歳のリゾートバイトを終えてから出来た二人目の交際相手は吉祥寺に住んでおり、これもまた1年もせずに終了したのだが未練が残り、5年ほど後に、もう既にその相手が住んでいない吉祥寺に引っ越したりもした。
    他に、自分は以下のような習慣、思い込み、反復を持っている。

・4年周期で気分が変動する
・強く願うと叶わず、薄く思い浮かべた事のみ実現するので、神社などでは神に気付かれぬよう柏手を打ってはならない
・曇りの日、幸運に見舞われるため、勝負事は曇りの日に設定する
・埼玉県民とは仲良くなれない
・イライラした時は「キューポラのある街、キューポラのある街」と呟くのだが理由は分からず、それで何かが改善した例はないし、だいたい吉永小百合が主演したその映画を見たこともない
・上記に関し、少し前までは「アフリカ人、アフリカ人」だった。

    これらに意味がない事を理解はしているし、何かしらの精神的な問題や、加齢による頑強な人格なども、何か一発のショックから発生するというよりは、こういったジンクス的なるものが蓄積されて、徐々に形成される気がしてならず、やはりこれは不健全な事なのだ、と考え、反復やパターンの思考を回避すべく、日々、「毎日、違う道を歩いて職場に向かう」「猫背が常になっているので、反対方向へ背骨を伸ばす」「歩道橋があったら、青信号でも歩道橋を使用して道を渡る」等の対症療法を行っているのだが、それさえも、反復を回避するための反復に陥ってしまっている。
    ならば、と、2020年の正月には、もう願掛け、ジンクス、験担ぎの一切を「意識しない」という事に決めて生きよう、と決意したのだが、「意識しない」事を意識するのは人間にとってあまりにも難しい課題で、自縄自縛としか言いようのない境地に達してその年の大晦日を迎えようとしていた。

    燭台は、拾ってから今まで一度も使用していない。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?