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上海の女性起業家から聞いた「言葉は音楽だと思うと傷つかない」の話

 上海にある雲南料理のレストランで、中国人の女性起業家と話をしていた。自分の外見を気にして小さい頃からコンプレックスを抱えていたという彼女は、コンプレックスから抜け出せた時の話をしてくれた。

「本当のところを言うとね、すごくコンプレックスになっちゃったきっかけがあるの」
「へえ、どんなですか?」
 私は優しい味わいの雲南料理をほおばりながら、彼女の話に耳を傾ける。
「好きな男の子がいたのよ。初めて告白した時に、その子に言われちゃったの。ブスだって」
「ああ、それは辛いですね」
「今から思うと、その子もただ恥ずかしかっただけだろうとか、あんまり深く考えてなさそうだなとかって思うのよね。でも、お互い子どもだったでしょう。私は初めて好きになった人に言われたのが辛くなっちゃったし、彼は彼で、そんなにモテるタイプでもなかったから、私の告白にどう対処していいか分からなかったと思うのね」
「確かに。言葉って難しいですよね。大人でもちょっとした言葉遣いに敏感になってしまうことってありますし。子どもだったら余計に、適切な言葉遣いとか分からなさそう」
 彼女は小皿に取り分けたチャーハンを少量ずつ口に運ぶ。食べすぎないように意識的に時間をかけて食べていると言っていた。

「私はやっぱり体型のこととか、顔がキレイとかいう言葉にすごく敏感なのね。別の女性をキレイな人だって褒めているのを聞いているだけで、私のことをブスだって言ってるような気までしちゃうし。完全に自分の思い込みって分かってても、簡単に割り切れないところもあって」
「そうですよね。自分はそんなつもりじゃなくても、責めてるように取られてしまったり、自分が責められてるような気がしてしまったりすることもありますよね」
 英語圏でヘタクソな英語を使っていると、言葉がきついと思われやすい。言葉は便利だけど、人によって解釈や受け取り方が大きく違うので、簡単に武器になりえてしまう。

「相手のことを思って使うっていうことが、もっとできればいいんですが。自分は反省することばかりだなぁ」
 私がそう言うと、彼女は「音楽だと思うといいよ」と教えてくれた。
「相手の言葉を音楽だと考えるの。音楽には、激しく強いメロディーのところもあれば、か細く消え入りそうなものだってあるでしょう。言葉も同じだなって考えると、強い言葉を使われてもそんなに傷つかないの。
 自分が発する時も、音楽をつくってるつもりで考えると、どの言葉が強いとか弱いとかけっこう分かりやすいよ」
「ああー、なるほど。強い言葉がくると、強い言葉を返してしまいそうですけど、自分がどんな音楽をつくりたいかって考えたら、返し方も受け取り方も変わっていきそう」
 彼女はうなずきながら、店員を呼んでお茶を頼む。

「うん。私が一番やめたかったのは、自分の価値観で相手はこんな人だって決めてしまうこと。たとえパートナーだとしても、人のことはそこまで分からないじゃない。ましてやちょっと話したくらいだったらなんにも分からないはず。それなのに、相手はこんなだって決めたいのは、自分を守ってるだけだって思うのよね。
 守りたがりな自分から自由になりたかったの。そしたら芸術だと思うのが一番なんじゃないかなって思って。音に良い悪いもないでしょう? 音楽にはあるのかもしれないけど、言葉ほどじゃないじゃない。合う合わないはあっても、悪い音楽はないと私は思ってるわ」
 香りの良いジャスミン茶を、私たちはポットから分け合いながら飲む。

「言葉が音楽だとしたら、美しい曲がつくれるといいなぁ」
 私はお茶で乾杯しながら彼女に言った。

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