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プロンプト時代の波に乗れ

コネチカット州スタンフォードを拠点として、IT分野の調査・助言を提供するガートナー社は、新技術に対する市場の評価をハイプ・サイクルという独自の図表を用いて発表しています。

ハイプ・サイクルとは、新しいテクノロジーの登場によって生じる過度の興奮や誇張(hype、ハイプ)、そしてそれに続く失望を、下記のようなグラフで表したものです。

ガートナー ハイプ・サイクル

ハイプ・サイクルの仕組み

ハイプ・サイクルには5つのフェーズがあります。

各ハイプ・サイクルは、テクノロジ・ライフサイクルの5つの重要なフェーズを深く掘り下げます。

黎明期: 潜在的技術革新によって幕が開きます。初期の概念実証 (POC) にまつわる話やメディア報道によって、大きな注目が集まります。多くの場合、使用可能な製品は存在せず、実用化の可能性は証明されていません。

「過度な期待」のピーク期: 初期の宣伝では、数多くのサクセスストーリーが紹介されますが、失敗を伴うものも少なくありません。行動を起こす企業もありますが、多くはありません。

幻滅期: 実験や実装で成果が出ないため、関心は薄れます。テクノロジの創造者らは再編されるか失敗します。生き残ったプロバイダーが早期採用者の満足のいくように自社製品を改善した場合に限り、投資は継続します。

啓発期:テクノロジが企業にどのようなメリットをもたらすのかを示す具体的な事例が増え始め、理解が広まります。第2世代と第3世代の製品が、テクノロジ・プロバイダーから登場します。パイロットに資金提供する企業が増えます。ただし、保守的な企業は慎重なままです。

生産性の安定期: 主流採用が始まります。プロバイダーの実行存続性を評価する基準がより明確に定義されます。テクノロジの適用可能な範囲と関連性が広がり、投資は確実に回収されつつあります。

多くのテクノロジーは過度な期待を持って迎えられ、期待以上の成果が得られないと分かると幻滅期を迎えます。そこから啓発の時期を経て、社会に受け入れられれば安定期が訪れます。

新たなテクノロジーが社会に広がるには、それなりに時間がかかります。世の中に浸透して定着するテクノロジーもあれば、幻滅期を乗り越えられず静かに姿を消していくものもあります。

生成AIは過剰期待のピーク

ガートナー社は、2023年のハイプ・サイクルにおいて、生成AIを「過度な期待」のピークに位置づけました。

2023年のハイプ・サイクル

生成AIがハイプ・サイクルの頂点に達した理由として、今年に入ってChatGPTなどの生成AIを組み込んだサービスが、大量にリリースされたことが挙げられています。

プレスリリースを配信できるPR TIMESで「生成AI」というキーワードを検索すると8202件の記事がヒットします。日本国内だけでもこれだけの数のアクションが起きているのですから、世界規模で見ると途方もない数であることが想像できます。

PR TIMESの検索結果

多くのサービスはAPIを使って実装されていると思われますので、GPT-3ベースのベータ版APIが使えるようになった、2020年6月以降に開発されたものでしょう。これらのサービスがどのぐらいの成果を生んだのかを評価するには、まだ時期尚早だと考えています。

ガートナー曰く、2~5年以内には生産性の安定期に到達すると予想しているそうです。それまでに幻滅期を経ると考えると、生成AIで大騒ぎしているのは年内ぐらいかもしれません。

今のうちに、お祭りを楽しんでおきましょう。

最大の発明はプロンプト・エンジニアリング

幻滅期~安定期には、どのようなことが起きるのかを予想してみます。

今はまだ、生成AIを組み込んだというだけで話題性があり、プレスリリースも捗ります。幻滅期に入ると新規性も色褪せ、わざわざ生成AIを活用していることをアピールする価値がなくなります。

ただ、生成AIを実装したサービスは、今後もリリースされ続けます。加えて、既存のアプリケーションやサービスにも、Copilotのようなかたちで生成AIが組み込まれていくことでしょう。

安定期には、サービスに生成AIが組み込まれているのはもはや当たり前になります。このとき、社会にどんな変化がもたらされるでしょうか?

ユーザーは、あらゆるサービスでプロンプトを利用できるようになります。プロンプトのどこが革新的かというと、高度な生成AI技術を自然言語で誰でも簡単に操作できるところです。

プロンプト(Prompt)とは、AIとの対話やコマンドラインインタフェース(CLI)などの対話形式のシステムにおいて、ユーザが入力する指示や質問のことです。AIがユーザの要求や問いに対して適切な応答や結果を生成するためには、明確で具体的なプロンプトが必要です。不適切なプロンプトを使用すると、AIが望ましくない結果や誤った情報を生成する可能性があります。

プロンプト(AI用語解説)

Prompt Engineering Guideには、プロンプトの要素として「命令・指示、背景・文脈、入力、出力形式」という4つが挙げられています。ユーザーはこれらを踏まえたうえで、適切なプロンプトを入力するだけで、求めていた情報や機能を得ることができます。

命令・指示(Instruction):
AIに実行してもらいたい特定のタスクまたは命令

背景・文脈(Context):
より適切な回答に導くことができる外部情報または追加の文脈

入力(Input Data):
私たちがどのような回答を求めているか

出力形式(Output Indicator):
出力のタイプまたは形式

Elements of a Prompt(Prompt Engineering Guide)

コンピュータを操作するにあたり、人間には0と1のみで表現された機械語を理解するのが困難であるため、人間が理解しやすい言語で指示を出し、それを機械語に翻訳してコンピュータに渡せばよい、という発想からプログラミング言語が生まれました。

プロンプトはそれを更にアップデートして、自然言語を機械語に翻訳して指示を出すことができるようにしました。AIからの回答もまた自然言語で返ってきます。自然言語でよいということは、言葉が理解できれば誰でも使えるということです。

現在はChatGPTなど個別のサービスの話題で盛り上がっていますが、実際はプロンプトでAIを操作することができるようになったことのほうが画期的であり、個人的にはプロンプト・エンジニアリングこそが最大の発明だと考えています。

プロンプト時代のスピードを体感しよう

ChatGPTにCode Interpreterという機能が実装され、生成AIはもうひとつ上のステージに突入しました。

Code Interpreterとは、ChatGPT上でプログラミングコードを生成・実行する機能です。ユーザーが実現したい内容をプロンプトで書くと、AIがPython言語でプログラムをリアルタイムで実装し、結果をテキストやファイル形式で返してくれます。

ユーザー自身がコードを書く必要はないので、学習コストゼロのプログラミング能力を手に入れたことになります。プロンプト・エンジニアリングならぬプロンプト・プログラミングです。

これがイラストであればプロンプト・ドローイング、音楽であればプロンプト・コンポージング…といった具合に、あらゆるクリエイションがプロンプトベースに置き換わっていくでしょう。

もちろん、すべてのクリエイティブが生成AIに駆逐されるわけではなく、人間が手を動かす分野もいくらかは残るでしょう。ただ「AIで充分」「AIのほうが費用対効果が高い」といった領域に関しては、おそらく人間に勝ち目はありません。

毎日のように生成をしていると、とにかくアウトプットの速度に感動します。とにかく速い、速いから大量にアウトプットできる。あり得ないスピードでトライ&ラーンのサイクルを回すことができます。

このスピード感で物事を進めるのが当たり前になっていくのだろうと思うのと同時に、生成から逸脱するものの価値も相対的に上がるのではないかとも考えています。たくさん生成したからこそ、生成AIが得意ではない領域というのも分かってきました。

いずれにしても、波はもうすぐ頂点に達します。まだの人は体感しておいたほうが良いですよ。

では。



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