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僕はおまえが、すきゾ!(22)

優作と古賀朝子は、何だか映画の話に華を咲かせながら歩いていた。
「お~~~い!」
僕は優作たちの背中にむかって、叫んだ。優作は驚いた顔をして、何だよ、お前、と言った。
僕は両ひざに両手を突き、前かがみになりながら、息をゼーハーゼーハー言わせていた。
男、二人の方が安全だろ?、とまだ息荒く僕は二人に向かって言った。
僕は、僕の顔を覗き見る二人の間に割って入ると、行くぞ、と何食わぬ顔をして歩き出した。
優作は、僕の事を邪魔な奴だと、顔をしかめていた。古賀さんの方は、さっきと同じで何食わぬというような表情をして僕を間に挟んで優作と三人で歩き始めた。
優作は歩きにくそうに、僕と並走していた。
お前、何しに来たんだよ、と優作は僕に言う。
古賀さんは黙って微笑んでいた。その微笑みの奥には、優作を亡き者にしようという目くるめく計画が次々に考えられているに違いない。
僕を間にしながら、優作は古賀さんに話しをしていた。
おい、と言って優作は僕の服の袖を古賀さんに
見えないように引っ張った。
僕は袖を引っ張られないように、腕組みをした。
優作の気持ち、古賀さんの気持ち、そして僕の気持ちがそれぞれ三人で歩きながら、それぞれ思いにふけっていた。
そうして僕達は古賀さんの家に着いた。
古賀さんの家は、モダンなクリーム色の壁に、スロープが付いた入り口、あと入り口には、何か木のようなものが植わっていた。
僕がその植物を見ていると、彼女はその木を指差して、「それ、金木犀なの」と言った。
金木犀……。名前だけは知っているが、初めて僕は金木犀を見た。いつの季節に花を咲かせるのか、花言葉は何なのか、全く僕には分からない分野のものだった。
古賀さんは優作に向かって、金木犀の花言葉を教えていた。
謙虚、陶酔、初恋、それが金木犀の花言葉らしい。
優作はそれを聞くと、パッと顔を明るくして照れていた。
「それじゃあ、ありがとうございました」
と古賀さんは手を振って、家の中に入って行った。
僕と優作は、お互いの顔を黙ってジロリと見合わせるのだった。
 
 
 
 
 
 

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