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卵巣がんになったつらさをことばにしてもいいんじゃない?


はじめに

1月に卵巣明細胞がんについて記事を投稿してから9ヶ月も投稿が空いてしまいました。
YouTubeも「90日で動画を2本だか3本配信したら収益化できます」と何度もアナウンスいただいているのですが全然動画作ってないですしね・・・。
どうも私は記事を書くのも動画も意識の外にあるようでなかなか尻を叩かれないと投稿をしないようです。

悪意のない言葉を前に本音を言えない

「がんになったことを愚痴りづらいんです」そういう相談を受けることがよくあります。こんなに思いをぶちまけたのは初めてですとおっしゃる方も。

卵巣がんの手術、抗がん剤をしてしばらくすると日常生活をある程度送れるようになる患者さんが一定数います。
周囲はそんな彼女らに「元気になってよかったね」と声をかけられます。その言葉に悪意がないのはわかっています。

でも、卵巣がんの治療をした患者さんのなかには手術による早期閉経で更年期障害様の症状を感じている方、手術後に排便が辛い、お腹が引き攣る様な感覚があるなど体の痛みを感じている患者さんがいます。

また、進行がんであったことの不安から寛解をしても「再発をするかもしれない」「私の受けた治療は最善だったのだろうか」と不安が湧き出てきてしまい眠れない、笑う時間が減って気がつけば涙をこぼしているなど心の痛みを感じている患者さんがいます。

卵巣がんという病気になったことで「自分の健康への自身が失われた」「自分という存在を信じられなくなった」「価値観が変わった」など魂の痛みを感じている患者さんがいます。

卵巣がんになったことで家族や友人との関係の変化に傷ついたり、仕事を休むことになった後ろめたさなど社会的な痛みを感じている患者さんがいます。

全人的苦痛とは

こうした、体の痛み・心の痛み・魂の痛み・社会的な痛みはどれか1つをもっているわけではなく、1人の患者さんのなかで複雑に絡み合い影響を与え合いながら「つらさ」を作っているのだと日頃相談支援をしながら感じています。
またそれは治療中だけに感じるわけではなく、治療後の経過観察の段階に入っても短期的・長期的に感じる患者さんは少なくありません。

それゆえに、前出の「元気になってよかったね」「元気そうだね」といった言葉のほかにも「がんになってキラキラ生きている人もいるから」「笑って生きよう」なんて言葉をかけられると、自分のうちなるつらさや痛みをわかってもらえていないのだと孤独感を感じたり、悪気のないことばだとわかっていてもよくない感情を持ってしまい、そうした感情を持ってしまう自分の情けなさにまた落ち込んでしまうという話をよく聞くのです。

あくまでも私の経験談ですが

私は20年前、30歳のときに卵巣がんと診断され子宮と卵巣、そして大網を摘出しました。
粘液性がん、ステージ1Aだと告知されましたが、当時の私は家族にがん患者がおらず「卵巣がん5年生存率」と検索して出てきた数字を見て「ステージ1でも5年生存率90%!?」と震えました。5年後に10人に1人は生きていないのだ。30歳で卵巣がんになるくらいなのだから私はそこに当てはまるのではないかと思ったわけです。

20年前ということで、今では考えられないことですが、私は手術・抗がん剤治療を3サイクルの77日間入院をしていました。
たまに他のベッドの患者さんをお見舞いに来たかたから「若いのにがんって気の毒ね」「若いと進行が早いっていうからね」なんて言葉をかけられて傷ついて泣いたとしても看護師さんなどが優しく励ましてくれました。一時的に気持ちが落ち着いても、やっぱり10人に1人は死ぬんだ、若いと進行が早いんだ・・・という不安がモヤモヤしていました。

退院後、1ヶ月は携帯の電波を拾わない京都の山奥にある別荘で療養し、その後、実家で日常生活を送れるようになっていることを確認してから東京の自宅に戻りました。
その頃、一緒に治療を受けていた卵巣がん仲間が再々発をしたという話を耳にして、不安が強くなった私はネットで見つけたある患者会に電話をしました。

その患者会の代表の方が電話に出てくださったのですが、私が話をしている途中で「あなたね、そんなメソメソしていたら卵巣がんが再発するわよ!」と言われてびっくりしました。「私たちの会に参加してがんを笑い飛ばしましょう。」ということばに、あーーーー同じ卵巣がんでも、おばさんには私の気持ちなんてわかんなんだわ(失礼すぎる!)と思って電話を切ったのを覚えています。
卵巣がんになった私に期待されているのは明るく生きることなのか???30歳で強制閉経になりホットフラッシュや偏頭痛、手のこわばり、抗がん剤治療の後遺症である痺れに苦しんでるのに???なんかモヤモヤしました。

注)卵巣がんは0歳から100歳を超えても発症するがんのため、5年生存率で亡くなったかたがおられたとしても死亡原因はかならずしも卵巣がんだけではありません
当時は福島県など地域がん登録を行なっている6府県の推計値で5年生存率などを出していたため正確性も、がん登録法が施行された2016年以降に比べると精度が低い情報が使われていました。
注)若いからがんが進行するというのは卵巣がんでのエビデンスはありませんし、もちろん笑っていたら卵巣がんが治るなんてありません。泣いていても大丈夫です!

卵巣がんになる前のからだに戻りたい

また、卵巣がん患者会を立ち上げたあとでも、たとえば患者さんから「こどもが1人いるからいいよね」「結婚しているからお金に困らなくていいよね」といった声をかけられることもありました。
いっぽうで「こんなかわいいこどもがいるんだから死んだらあかんよ(知らんがな!)」「旦那さんは病気の奥さん支えてえらいわねぇ(うちの生活いっぺんでいいから見に来い!旦那の残業時間は月に100時間超えとるぞ!)」という声をかけられることもありました。そういえば取材中に記者さんから「不妊症で苦しんでいる人からしたらあなたは贅沢ですよ」といわれたこともあったなぁ。
悪気はないからと言い返すことをグッと飲み込みましたが、子どもがいたらとか結婚してたらよく生きれるの?どんな立場になったって「病気になってその人が辛いんであったら辛いんちゃうかなぁ」と私は思っていました。

私がTwitterで「ほんとうはもっと子どもが産みたかった」「いまでも卵巣がんにならなきゃよかったと思ってる」「キャンサーギフトなんてないわ」と呟くとDMで「病気を治してもらったのにわがままだ」と言われることも少なくありません。それでも私はいまでも卵巣がんになる前のからだに戻りたいと思うことがあります。もちろん病気になる前のからだに戻って元気にいきていたとしても、年齢はあの頃とちがい50歳なんだからガタはあるんでしょうけど。
でも本当にそれを言っちゃいけなんでしょうか?

物理的に不可能であることは理解している

「卵巣がんになる前のからだに戻りたいなんて無理なことをいうんじゃない」「いま、命があるのは治療をしたおかげなんだから」と何度も言われたし、そんなことはたぶん私に相談してこられる患者さんたちもいやというほど理解しています。今更切除した子宮や卵巣が戻ってこないこともわかってます。治療を受けたら痺れなどが起きることも、場合によってはそれが永遠に残ってしまうこともわかっていても手術や治療をしなければ生きられない(卵巣がんで死んじゃう)から治療をすると意思決定したのは私だし、患者さんです。

でも、自分はこういう人生を歩みたかったって思い描いていた人はいるだろうし、それが叶わなかったショックはその人にとっては他人が想像するよりも大きい可能性があるんですよね。
命があるんだからいいじゃないで納得できるものばかりじゃないと思うんですよ。
そもそも卵巣がんになった自分を受け止めるのだって、すぐに受け止められる人もいれば、何年も時間を要する人だっていていいじゃないですか。
手術の後遺症だって、抗がん剤の副作用や後遺症だって受けるのは患者さんご自身です。
それが治療前の説明で聞いて想像していたものと違った時に愚痴ったっていいじゃない。
元気だったあの頃に戻りたいって思ったっていいじゃない。

そうやって言葉にして自分の耳で聞いて「私ってつらいんやな」「でもがんばって生きてるやん」と思うことで人はその人なりの時間をかけて受け止めていくのだと思うのですよ。

患者支援をしている人でも自分の価値観を押し付けてくる人はやまほどいる

私は、ある出来事をきっかけにアンガーマネジメントや自己認知に関するセミナーを受けるようになりました。
そうすることでいかに「自分の価値観」を間違えていないと思いこんでいたかということを感じましたし、他の人には違う価値観があって当然なのに自分の考えが良いものとして話していたかということを理解しました
実際この記事だって私の価値観だし、エゴかもしれません。

スマイリーは会員制度を持たない患者会なので卵巣がん患者さんやご家族であればどなたでも提供するサービスを受けることができます。
なので多くの患者さんは他の患者会やコミュニティに参加しており、多い人はLINEのオープンチャットなども含めて7つ8つの場所に登録をされていると伺っています。
そんななかで卵巣がんの再発をしたりして情報が欲しいといったらスマイリーを紹介されたとしてご連絡をくださるのです。

そんななかでお話をしていると「辛い」と言えない。元気だった頃に戻りたいといったら「治してもらったのに贅沢だ」と言われたというお話を聞くのです。
それを言ったのは家族や友人といったがん患者以外の場合もありますが、支援者や同じ卵巣がん患者であることも多いです。

その声かけをしたひとは悪意はありません。その人はそう感じたのでしょう。
そして私たち自身もがんが治って今の時間があることに感謝はしているのです、でも辛いことだって未だあるのです。

卵巣がんになってつらいって私は言葉にしていいと思う

思い切って心のうちを話してみたら思ってもいなかった反応が返ってきて辛いことってありますよね。
TwitterなどSNSだとそこに賛同するコメントがさらについていて「私の気持ちはわかってもらえない」という孤独を感じることもあります。
だけど私はそのつらいって言葉を言っていいと思う。
だけど相手は選んだ方がいいかもしれない。
なぜならわかってもらえなかったという辛さがまた他の辛さを増強するから。

ただ、できれば患者さんを支援する立場の人には「もとの体に戻りたいなんて、がんが治ったんだから仕方ないじゃないか。受け止めなさい」なんてことばはかけてほしくないなぁと思う次第です。
目の前の患者さんは生きてきた環境も価値観も違う人だからまずは「辛いんですね」と認識してほしいなぁと思うのです。
そのうえでかける言葉だとまたちょっと違った優しさが加わるんじゃないかなぁと個人的には思っています。

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