見出し画像

昭和39年。エミーグランデ新発売! の年に②

こんにちは。きのうは、超ポピュラーなレース糸「オリムパス エミーグランデ」のお話を書きました。『美しいレース編』(1964)という本の裏表紙に「エミーグランデ新発売!」の広告が載っていたのです。
 今からちょうど60年前。50gで180円という衝撃のお値段です。現在は1,300円以上します。
 もう一度広告を載せておきましょう。

「オリムパスが全力をあげて製作した、本格的なレース糸です」

 さてこの本には、ほかにも面白い広告が載っています。表紙の裏面にあたるのはこちら。

(よく見るとブランコの座席にも、三輪車のそばにもレース糸が)

 裏表紙が「オリムパス」だったのに対し、こっちは「ダルマ」ですね。現在も続くレース糸のトップメーカーが顔を揃えています。オリムパスもそうでしたけど、ダルマも手芸コンクールを開催していたようです。
 広告文を見てみましょう。

ママたちは夢中です
お買物すませたママとママ ばったり出会った帰り道 はなしはいつものレース編み 教えられたり教えたり ダルマゴールドおどります ママたちすっかり夢中です

昭和39(1964)年の広告

 「はなしはいつものレース編み」ですって?
 筆者はふだん、誰かと直接顔を合わせてレース編みの話をすることはほぼありません。周囲にレース編みをする人もいません。しかし60年代にはまだ、レース編みが「ふつうの主婦の共通の話題」として成り立っていたのです。
 写真のほうを見てみると、なんといっても女性の一人が和服を着ていることが目をひきますね。普段着らしい地味な着物に、前掛けをしめています。でも年配ではなくて、若い女性のようです。つまりこの時代にはまだ「日常的に着物を着ている主婦」が珍しくなかったことがわかります。
 1923(大正12)年の関東大震災をきっかけに女性の洋装化が進んだといわれていますが、それから40年たった1964年でも、まだこういう光景はふつうに見られたのですね。
 広告は、その時代の人々の欲望を反映します。ママたちの背景には、白い団地が写っています。「団地に住む」ことはおしゃれで近代的な、憧れのライフスタイルだったのです。(詳しくはこちら↓)

 きのうに引き続き、編物専門誌『毛糸だま』のエミーグランデに関する記事を見てみましょう。

 その頃(筆者注:1960年代)、ラジオやテレビでは女性の不倫や浮気をモチーフにした『よろめきドラマ』がブームになります。昼下がりに放送されていたため、その時間帯の主婦の生活行動を大きく変化させたと言われています。(…)
 60年代は、「もはや戦後ではない」の言葉通り、生活水準は年々上がり、テレビの普及とともに婦女子の趣味として、レース編みも普及していきました。60年代初頭のレース編みの書籍は、意外にもかなり「モダン」。清純・純真の象徴である白だけでなく、原色を多用し(…)この頃から、中高齢者にも洋装が定着しつつあり、洋装に合うバッグを「手づくり」することが普及しました。どことなく、和装にも合いそうなレース編みのバッグが多いのも、時代を反映しているといえるでしょう。

『毛糸だま』2014年秋号 No.163
(執筆者不明)

 なるほど! やっぱりまだ和装が混在していたんだ。面白いですね〜。
 「あんがい昔のほうがカラフルなレース作品が多い」ということは、筆者自身も前から気づいていました。オリンピックやカラーテレビなどと関係があるのではと思えます。
 ところで広告をもう1点。今度は裏表紙の裏側です。

これと同じのを持っています!

 棒針だったら今でも竹製はふつうですが、かぎ針も竹で作っていたんですね。
 クロバーさんは、来年(2025)創業100周年を迎えるそうです。このへんも掘り下げると面白そうですが、きょうはここまでとさせていただきます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?