いろんな人がいろんなものに美学と申しますか、理想像のようなものがあると思うんです。それはお笑いでも同様です。そして、そんな美学は、言ってしまえば個人の好みでもあるためか、他の美学とぶつかり合う場合があるんです。それもまた、お笑いにも言えるものだと考えております。

　お笑いの美学にもいろいろありますが、その中のひとつに「笑いに徹する」というものがあると思います。常に笑いを狙うのが理想であり、泣き顔や真剣な姿は見せるべきではない。そういう美学です。

　この美学は、昨今の大型賞レースとはあまり相性がよくありません。主な原因は、大型賞レースは芸人が心血を注いでネタに挑む様子をドキュメンタリー形式で追っている点です。そこに笑いはほとんど存在せず、ネタへ舞台へ真剣に挑む芸人の姿が映し出されます。「笑いに徹する」美学を持つ人が見たら、「芸人が真剣な姿を見せるとは何事か」と憤る方が現れるかもしれません。

　同時に「真剣な姿を見せて何が悪い」という方もいらっしゃるわけです。真剣にやっているのは事実だから、それを見てもらうのは何の問題もない。芸人だって頑張る姿は格好いいし、それを見て感動して元気になってもらうのはむしろ素晴らしいことだ、というようなスタンスです。私の推測も大いに入っていますが、そんな気持ちの芸人がいても不思議ではありません。

　この「笑いに徹しろ」派と「真剣さがあっていい」派が直接バチバチやりあうところを見てはいませんが、どちらの派閥の方も主張している様子をチラホラ見てまいりました。最近は大型賞レースに勢いがあるためか、真剣派が多数を占めているようにも見受けられますが、笑徹派も根強いように思います。

　どちらの主張も分かるんです。真剣さや感動なんかが入るとキャラがブレてしまい、下手すれば笑ってもらえなくなる危険性がある。そもそもお笑い芸人は笑いが本分なはずで、真剣なところはいわば舞台裏にあたる。そんなものを見せずにお笑いで勝負すべきというのが笑徹派でしょう。一方の真剣派は、別に裏側を見せたとて笑いが減るなんてことはないし、そもそもお笑いだけで勝負できる人が今は少ない、などなど、そんな言い分だと思われます。

　このふたつの主張、何かに似てると思ったんですけれども、あれでした。努力を見せたがる人と見せたがらない人の差に似てるんです。というか、そのものにも見えます。「お笑い」という「努力した結果」だけを見せたい人と、「努力の過程」も見てほしい人。

　個人的な感想としては、どちらのタイプも特に珍しくないと思うんです。きっと皆さんの周囲にも普通にいる。これまでだって多分そうでしたし、これからもそうでしょう。ということは、真剣派と笑徹派は、時代によってどちらかが優勢になったり劣勢になったりするかもしれませんが、基本的にはなくならないのでしょう。

　何の解決にもなっていない結論ですが、なんかスッキリしました。