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学問の始まりを見た

 「学問の始まりは分類だ」と言っている友人がいたんです。学問とは多かれ少なかれ何かを調べる行為です。その「調べる」のスタートラインは、対象となるものをいくつかの種類に分けることだと言うんです。

 学問の対象は何でもいいんです。例えば、河原の石だっていい。石も集めれば、いくつかの種類に分けられるでしょう。大きいもの、小さいもの、角ばったもの、丸いもの。色で分けてもいいでしょう。白いもの、黒いもの、青っぽいもの、赤っぽいもの。分けていくうち、「こんな石もあるのか」みたいな発見が生まれると同時に、「どうして石によって色が違うんだ」みたいな疑問も生じるでしょう。調査して疑問を解けば新たな発見が生まれ、発見はまた新たな疑問を生む。そうやって、学問は発展していった。

 確かに、そう説明されればそんな気がします。でも、私が出会ってきた学問はみんな大昔に生まれたものばかりで、生まれたての状態を見たことがございません。ですから、友人の言うことを疑うつもりはありませんが、でも学問の始まりは本当に分類なのかどうかは確認できずにいたんです。

 かくなる上は私が新しい学問を立ち上げて、友人の言っていたことが本当かどうか確かめるべきでしょうか。しかし、学問は現在に至るまで様々なものを対象にしてきました。手に触れられるものはもちろんのこと、触れられないものだって学問となって調べられてきた。新たに学問を立ち上げるということは、先人たちが散々調べまくってきたはずなのになお調査対象になっていないものを見つけなければなりません。明らかに大変です。一体どれだけの時間をかければ新しい学問が立ち上げられるのか、私には見当もつきませんでした。

 新しい学問の立ち上げをすっかり諦めていた時、こんな動画を見つけました。

前編

後編

 「世界で唯一」とされる片手袋研究家、石井さんの話を取り上げた動画なんですけれども、「世界で唯一」ということは、石井さん以外に研究者がいないわけです。しかも、石井さんだって生まれた瞬間に片手袋を研究していたわけではなく、大人になって初めて研究に手を染めたようです。つまり、学問としてはかなり生まれたてと言っていい。

 私は友人の言葉を思い出しながら動画を見ておりますと、後編の序盤で石井さんは片手袋調査の最初に分類図を作ったとおっしゃっています。まさに「学問の始まりは分類」でございます。もう寸分違わずというやつです。早速、友人に上の動画を見せたところ、満足そうに「だろ?」と言ってきました。いや、本当にその通りです。

 しかし、現代で「じゃあ、まずは分類するか」という段階、すなわち萌芽とも呼べる状態の学問ともなりますと、道端に落ちている片方だけの手袋「片手袋」の研究みたいに特殊も特殊、超マニアックなジャンルしか残ってないんだなあと痛感いたしました。これまで多くの専門家にスルーされ続けてきた手つかずの分野なんですから当然ではございますが、片手袋の研究とは。

 仮に私が無理にでも学問を立ち上げようとしていたら、なんか特殊性癖が暴走した成れの果てみたいなジャンルを立ち上げていたかもしれません。それをしなかったのは惜しい気もしますし、これで良かった気もします。

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