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名前も電球も行きわたらせるのは難しい

 お笑いコンビ「爆笑問題」に太田光さんという方がいらっしゃるんです。お笑いの好きな方ならばご存じでしょうが、1988年の「爆笑問題」結成から現在に至るまで活動しており、キャリアとしてはベテランから大御所に片足を突っ込んでいる辺りかと存じます。

 私が太田さんを知ったのは子供の頃に見たトーク番組「ライオンのごきげんよう」です。司会は小堺一機さんで、ゲストが順番にさいころをふって、出た目に書かれたテーマに沿って話してゆくという内容でございました。

 そんな「ごきげんよう」に当時、勢いのある若手芸人として、ネプチューン、海砂利水魚(現・くりぃむしちゅー)、そして爆笑問題が登場した回があったんです。当然、番組は司会の小堺さんの他、サイコロに従ってトークをしていく流れになるはずなんですが、ひとりだけ全く言うことを聞かず、他人のトークにまで口を挟むと言うか、野次を飛ばすと言うか、とにかく暴れる人がいたんです。それが太田さんでございました。

 やってることは無茶苦茶なんだけど面白い。子供ながらに「なんなんだこの人は」と思いました。以降、私は太田光さんという芸人を認知し、現在に至るまでチマチマと活躍を見聞きしている次第です。

 トーク番組中、司会の言うことを聞かず、自分が面白いと思うことをやりまくる。太田光さんをご存じの方は「今と大して変わらない」との感想を抱くでしょう。実際、私がテレビで見る太田さんはいつも大体同じことをしています。もちろん、番組によってやることは多少変わりますし、場合によってウケたりスベったりするなどの違いはございますが、ベースとなる部分は大体同じです。

 太田さんと言えば「炎上」を思い浮かぶ方もいらっしゃるでしょうけれども、ネット的な意味で「炎上」が使われる前から太田さんはその手のトラブルをちょこちょこ起こしていたと記憶しています。カメラの前で言っちゃいけないことを言うし、やっちゃいけないことをやる。もうずっとです。

 爆笑問題は長年にわたりメディアに出続けておりますし、何よりそれだけ毎度毎度いろいろ起こしていれば、世間もそろそろ「太田さんとはそういう人だ」と認知されていると思っていたんです。そのうち太田さんがいくら暴れようと「太田さんだからしょうがない」となるんじゃないかと。しかし、私の予想に反して太田さんは今でも定期的に炎上しています。

 もちろん、人には相性がありますから、太田さんの芸風が苦手な方もいるでしょうけれども、その割には律儀に燃えてますし、結構な高さまで火柱が上る。これはどういうことなんでしょうか。

 ヒントとなる本がございます。「コンテナ物語」という本です。

 その序盤に興味深い記述がございました。エジソンが電球を発明したのは皆さんご存じでしょうけれども、それから20年後、アメリカの一般家庭で電球を使っていたのはたった3%だったというのです。現在の普及状態から考えても、あまりにも少ない。

 発明をするのも大変だけど、それを世間に行きわたらせるのも大変。それを痛感させる一例でございます。書籍ではそこから流通の大切さに触れ、そして、世界規模の流通網構築に一役買った発明品「コンテナ」について紹介してゆきます。

 あまりの便利さから世の流通を一変させたコンテナですけれども、こちらも世間に広まるまでは時間を要したようです。どんなものでも世間に根付かせるのは大変だし、根付いたとしても結構な時間がかかるのでしょう。

 一方の太田さんです。どれだけ活躍してきても定期的に炎上する理由はいろいろあるでしょうけれども、そのうちのひとつとして「太田さんを初めて知る人がまだいる」というのがあるんじゃないかと思ったんです。

 いくら少子化とは言え、こうしている間にも新しい子たちが生を受けており、当然ながら生まれたばかりの子らは太田さんを知りません。人生のどこかであの暴れっぷりと遭遇する形になる。それと共に、結構な人生を歩んでいる方の中にも、意外と太田さんを知らない方や、名前は何となく知っているけど芸風までは分からない人がいるんじゃないでしょうか。お笑いに興味がない方ならば可能性はございます。そして、太田さんを初めて見て、「何だこの滅茶苦茶な人は」となった。充分に考えられる話です。

 散々世界中に行きわたった電球だって、まだ普及率は100%に達していません。諸事情により電気が通っていない地方は探せばまだございますし、それこそアメリカには移民当時の生活様式を維持するため電気を使わない「アーミッシュ」と呼ばれる方々がいらっしゃいます。電球でこれですから、お笑い芸人となれば100%は更に困難です。

 つまり、今後も太田さんを初めて見て「なんなんだこの人は」と思う人が出続けることになるわけです。当たり前のような気もしますし、不思議な気もします。

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