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「寸法の事」

僕が、仕事で使ってる材料の寸法の話をしよう思う。

僕が制作で使う銅や真鍮の板は、365×1200ミリの寸法で販売されている。
「小板」と呼ばれる。
問屋さんに注文する時「厚み1ミリの銅の小板1枚、お願いします」と言う具合である。
その上のサイズが1000×2000ミリの「メートル板」なので、余程大きな作品の注文が来ない限り「小板」で注文する。

よく使う板厚は、1ミリ、1.2ミリ、1.5ミリ、2ミリぐらいで工房にストックしてある。
これにデザイン画をスプレー糊で貼り付けて糸鋸で切って行くことから仕事は始まる。

この小板の縦寸法365ミリは、メートル法に慣れている人には中途半端な寸法かもしれないが尺貫法からきているようだ。

365ミリは、ほぼ一尺二寸「シャクニ」と呼ばれる。
シャクニの直径を持つ材料や、シャクニの短辺の正方形や矩形の材料で作品を作ると、人の生活空間で調和のとれる大きさの作品になる。と昔から良く言われてきた。
陶器のお皿で八寸や六寸と呼ばれる大きさもシャクニからの影響があるようだ。

だから僕は「シャクニ」の大きさ感覚に慣れており、例えば靴べらなどの小さな作品を作る場合、どう寸法を割付けていくと歩留まりの良い(無駄の無い)材料取りができるか考える。
全体が綺麗に割付けられると、ひとつひとつのシルエットも美しい!

しかしそれは全てでは無い。
例えば、直径50ミリ高さ100ミリの銅の鍛金ビアカップの注文を受けたとする。
お客様は大抵ミリやセンチで寸法を指定される。
制作に必要な材料の直径は約150ミリになる。
シャクニからの残り材料は365一150=215ミリ(材料として150×215ミリの端材)
こういう端材はすぐには使わないで、工房の1番眼につくところにしばらく立てかけておく。
この端材の有効な使い方はないか?と言う事から生まれる新作もある。
これはこれで楽しい😁

銀や金も仕事で使う事もあるが、これは寸法では無く重さで注文する事も多かった。
例えば「950銀の6ミリ角棒100グラムでお願いします」と言う感じである。
金、銀、プラチナなどの貴金属はその日の朝10時頃にグラム単価の相場が決まる時価である。
なので制作で出た粉や端材は貴重で、しっかり管理して分析に出す。
モノ作りには大切な事である。
金銀細工師は仕事が終わって手を洗う時、桶で洗いそこに沈殿した貴金属も回収したぐらいだ。

ちなみに銅や真鍮の端材は分析に出して再度材料にはしない。
分析のコストの方が高いからである、なので端材として売る。
以前、立川錦町の工房を解約した時、銅や真鍮の端材を売りに行った事がある。
12年目で初めての事だった。新しい材料が数枚買えるほどの買値だった事にビックリした記憶がある。

話を寸法に戻す。

30代前後、鉄を使って作品を制作していた。
鉄材も、やはり尺貫法で表されている事が多かった。
良く使っていたのが、三尺×六尺の板材「サブロク板」と呼ばれる。(909×1818ミリ)
「厚み9ミリのサブロク板1枚、お願いします」と言う注文の仕方。

この「サブロク」のサイズは畳や襖の寸法の原型であり、ベニヤ板など建築資材などもこの寸法のものが多い。
「シャクニ」同様ヒューマンスケールな寸法なのである。
畳は、座って半畳、寝て一畳の世界である。

「サブロク」の上が、四尺×八尺で「シハチ板」その上が五尺×十尺の「ゴットウ板」
人力で扱えるのは「ゴットウ」が限界かなぁ。

市販の鉄材は、表面が黒い革に覆われている「クロカワ(そのままやん)」とても硬い。
精錬の時に生じたものなのか?錆びを防ぐ処理なのか?はたまた…?
今度ちゃんと調べておきますね。

「クロカワ」をヤスリで剥がそうとすると、直ぐにヤスリが切れなくなった。
「クロカワ」の上から線を引こうとすると、直ぐに毛描き針が丸くなった。
鋼のヤスリや毛描き針が負けるほど硬い皮だ。

なので特注で「クロカワ」を取ってもらう事もできたね。
酸洗いした「サンセンの板」と呼んでいた。値段は高いが作業はとても楽だった。
「厚み9ミリのサンセンのサブロク板1枚、お願いします」と言う注文の仕方。

書きながら思い出した事がある。
銅や真鍮、金、銀などの材料は以前は「ナマシ材」で売られていた。
「ナマシ」とは素材を高温の再結晶温度(溶かす溶解温度では無いですよー)で加熱し柔らかくした状態で売られていた。

最近は「ナマシ材」にしますか?と聞かれる。別料金なのだ(手間やもんね)
なので「ナマシ」がいらない時は、硬上がり「カタアガリでいいですので」と返事するのが職人としての正しい姿である😁

まあ、老舗問屋での楽しいやり取りである。
しかし間に受けてホームセンターなどで「尺貫サイズ」や「ナマシ」「カタアガリ」などのお問合せをしない方が良い。多分量販店では対応出来ないだろうからね。
切売りで我慢して下さい😁

終わりに

テーマの寸法の話とほぼ同量の脱線があり、纏まりの無い事、失礼しました。
最後まで読んで頂き感謝致します。

日本工業規格のレベルはとても優れていて、金属材料に関しては寸法や厚みに少しの狂いもない。
その材料で人が暮らす家や電車や車などの乗り物など生命に関わるものを作るので当たり前の事なのかもしれない。

モノづくりとして
そんな正確で均質な素材を作る方、その素材で仕事をさせて頂いている事に心より感謝申し上げます!

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