見出し画像

【古谷真知子のおいしい話】うま味はどこにある?

教室再開へのウォーミングアップとして、clubhouseで食に関する小さなヒントを「古谷真知子のおいしい話」と題して、不定期でお話することにしました。

第1回目は「うま味はどこにある?」と言うテーマで、家庭料理における出汁とうま味との付き合い方について、お話ししました。

clubhouseのアカウントをお持ちで無かったり、Androidをご利用だったり、予定が合わず聴けなかった方のために、アーカイブではありませんが、まとめnoteを公開します。
(文章化するにあたり、前後関係が変わっている場合もございます。)
お聴き下さった方はメモ代わりにお使い頂けましたら幸いです。

1、そもそも「うま味」ってなんなの?

1908年に池田菊苗博士が昆布からグルタミン酸の抽出に成功し、昆布出汁の美味しさの素となるものが、このグルタミン酸と言うアミノ酸の一種であることをつきとめ、「うま味」と名付けました。

「うま味」と表記するとアミノ酸類に由来する成分的な意味、「旨味」と表記すると「おいしい味」の意味で使い分ける場合もあります。

うま味成分としてのグルタミン酸の発見は1900年代に入ってからなのですが、昆布や鰹節の歴史はもっと古く、奈良時代の「続日本紀」には昆布と鰹の記述が出てくるそうです。
昔の人は理論ではなく、経験で知っていたのでしょうね。

2、うま味の素となるアミノ酸の種類

池田菊苗博士が発見したうま味の1つはグルタミン酸ですが、うま味はグルタミン酸だけで無く他のアミノ酸からも得られます。
代表的なものとしては、イノシン酸、グアニル酸、コハク酸などがあり、グルタミン酸を含めた4種類を覚えておくと便利です。

3、うま味はどんな食材に含まれているの?

うま味を含む食材を考える際、まず思い浮かぶのはやはり昆布と鰹節。2大風味原料(出汁の材料)ですね。
他にも干ししいたけ、いりこ(煮干し)と合わせ「かしこいお出汁」と覚えると良いでしょう。

か … 鰹節
し … しいたけ(干し椎茸)
こ … 昆布
い … いりこ(煮干し、あご等)

代表的な出汁の材料としては、これら4つが挙げられますが、うま味はこう言った出汁の材料以外の食材にも含まれているものがたくさんあります。
うま味の多い、代表的なものをいくつかご紹介しますね。
ここで声を大にしたいのは、野菜にもうま味があると言う事です。

◇グルタミン酸
・昆布、海苔
・パルメザンチーズ
・干し椎茸
・トマト
・マッシュルームなどのきのこ類
・グリンピース
・ニンニク
・白菜
・大豆
・じゃがいも
・とうもろこし
・大根
・人参
・玉ねぎ、長ネギ
・キャベツ
・アスパラガス

◇イノシン酸
・鰹節
・ハマチ
・カツオ
・真鯛
・豚肉
・鶏肉
・いわし、さば、アジなどの青魚
・海老
・牛肉

◇グアニル酸
・海苔
・干し椎茸
・ドライトマト

◇コハク酸
・帆立貝
・あさり
・しじみ
・はまぐり

植物性の食材にはグルタミン酸、動物性の食材にはイノシン酸、と覚えておくとだいたい間違い無いので、うま味の多い野菜とタンパク源となる肉や魚を組み合わせたメニューは、栄養面だけでなく美味しさの上でも合理的で、出汁を使わなくても美味しく作れる場合があります。

野菜の中でダントツでうま味が多いのはトマトです。トマトとオリーブオイルとニンニクだけのシンプルなパスタが美味しいのは、トマトのうま味がたっぷりあるからなのですね。

我が家で作るビーフシチューやカレーはこのトマトや野菜のうま味を上手く使うことで、市販のルーも顆粒のコンソメの素も使わずに作ります。

4、鰹と昆布の出汁を合わせるのはなぜ?

和食のお店で出されるお吸物、とっても美味しいですよね。
お吸物はお出汁を味わうお料理なので、ほとんどの場合、鰹節と昆布の合わせ出汁が使われています。この合わせ出汁が使われるようになったのは江戸時代前期頃からと言われています。

鰹節だけの出汁も昆布だけの出汁もとっても美味しいのに、なぜ両方を合わせた「合わせ出汁」にするのでしょうか?

それは、上の一覧を見て頂くとわかるように、鰹節に多く含まれるうま味の種類が昆布に含まれるそれとは異なり、違う種類のアミノ酸をかけ合わせると相乗効果でより美味しくなるからなんです。

だからご家庭でも、食材に含まれるアミノ酸の種類を少し意識して組み合わせると、出汁を使わなくても美味しいお料理が作れるようになるんです。

わかりやすい例を挙げると、豚汁などは出汁のいらない料理の代表です。
豚汁に使う代表的な食材は、豚肉と大根、人参、ごぼうなどの根菜類、お味噌です。
豚肉にはイノシン酸、野菜にはグルタミン酸が含まれていて、さらに発酵調味料であるお味噌にもグルタミン酸が含まれています。
使う食材にうま味がたっぷり含まれているので、出汁を使わなくても十分美味しくなるのですね。

普段出汁や和風出汁の素を使った豚汁を作っている方は、是非一度出汁なしで豚汁を作ってみて下さい。使う食材の種類やバランスによっては少し物足りない場合もあるかもしれませんが、お野菜を3種類以上使った具沢山の豚汁なら出汁は必要ありません。

同じように、モツ煮込みや牛すじ煮込みも出汁が要らない料理として試しやすいものの1つですので、出汁なし料理の入門編として是非お試し下さいませ。

5、うま味が多ければ多いほど美味しくなるの?

異なる種類のうま味をかけ合わせると、相乗効果でより美味しくなる、とお話しましたが、ではうま味の素であるアミノ酸(グルタミン酸やイノシン酸)が多ければ多いほど美味しい味になるのでしょうか?

答えはNO

うま味成分であるアミノ酸が多ければ多いほど美味しいのであれば、究極的に美味しいのはいわゆる「うま味調味料」のはずですね。ほぼうま味だけで出来ているのですから。
でも、うま味調味料をそのまま舐めても全然美味しくありません。むしろ不味いくらい。

美味しさは、うま味の量に正比例しないのです。人の味覚は、ある一定量を超えると、それ以上多くても美味しく感じられないのですね。
うま味調味料を入れ過ぎるとなんだか美味しくなくなってしまうのは、そう言う理由なんです。
ですから、素材に含まれているうま味を上手く利用すれば出汁を使わなくても十分美味しいお料理が作れると言うわけなんです。

子供の頃の2〜3年の違いは身長や体格差、発達度合いなどで全く違いますが、大人になると60歳と75歳の違いってほとんどわからないのと似ています。

多過ぎても、それに見合う美味しさは得られないので、無理にうま味を足す必要は無いんですね。

6、まとめ

出汁は世界に誇る日本の素晴らしい食文化の一つですが、毎日の家庭料理には必ずしもなくてはならないものではないので、うま味を多く含む食材を上手く組合せて、毎日のお料理を楽に美味しくしちゃいましょう!

最初から和風出汁の素を入れずに、味を見て足りなかったら足すようにすると、調味料や出汁の素を使う量や頻度が減らせます。

もちろん、今まで作っていたお料理の味とは違った仕上がりになりますので初めは物足りなく感じることもあるかと思います。
無理せず少しずつ減らしたり、出汁を使わない味に慣れていけば「出汁がなくてお料理が作れない!」と言うことにならずに済むようになります。

是非お試し下さいませ。

試作のための食材費や、子供達が使いやすい調理器具の購入に使わせて頂きます!