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天神ビッグバンの現在地―福岡市・天神は生き返るか

天神ビッグバンとは、福岡市天神地区の高層ビル建て替え計画の呼称である。天神は福岡空港から地下鉄で11分という好立地の反面、空港から近すぎて高さ規制があったものを、高島宗一郎市長が時限的に緩和、だいたい100mのビルなら建ててもいいよ、ということになった。これに乗ったディベロッパーや地権者がこぞって高層ビルを竣工、現在なんと50棟の高層ビルが建設中である。


50棟の高層ビルが建つ予定

今回は、下手な写真とともに天神地区の現在地をお伝えしたいと思う。

天神の名称の由来である水鏡天満宮は、現在は天神地区の北東に位置する。菅原道真(天神様)が901年、京から大宰府に落ちる際、立ち寄った四十川の水面に映った自らのやつれた姿を見て嘆いた、という逸話から建てられ、1612年、初代福岡藩主・黒田長政が福岡城の鬼門であるこの地に移した。扁額が広田弘毅の字である説を以前紹介したが、そのような痕跡は見つからなかった。

移転が予定されている水鏡天満宮


この由緒ある水鏡天満宮も、「天神ビッグバン」の一環として立ち退くことになった。まあさらに東の薬院新川沿いに移転するということなのだが。明治通りの自動車の轟音が響くビルの隙間の小さな社は、約400年の歴史を閉じることになる。

水鏡天満宮から福岡市を東西に走る明治通りを西に進むと、「天神ビッグバン」の第1号ビルとして2021年に竣工した「天神ビジネスセンター」がある。ジャパネットたかたのほか、グーグル日本法人が入居して注目を浴びた。ガラス張りの前衛的な外観は賛否あるものの、満室だからいいじゃないか。

天神ビッグバン第1号の天神ビジネスセンター

その西隣となりの天神交差点にある仮称・新福ビル街区は、2024年12月竣工に向けて大規模工事中である。2600坪もの土地が現在更地になっているので、西鉄天神駅の渡辺通り口は(語弊があるかもしれないが)爆心地のような様相である。かつての天神のランドマーク・天神コアをはじめ、ビブレ、福ビル、そして南隣のイムズという天神の象徴が無くなったのだから、喪失感は半端ない。


建設中の新福ビル街区

天神交差点。残った商業ビルはかつて岩田屋デパートがあったパルコビルくらいだが、隣の商店街・新天町とともにここも再開発のうわさが絶えない。

かつては天神の中心だった天神交差点。パルコビル(旧岩田屋デパート)も再開発の噂。

あえて明治通りを西進し、となりの大名地区に行くと、福ビル街区とともに天神ビッグバンの目玉である「福岡大名ガーデンシティ」(25階、基準階面積804坪)がそびえたつ。ここも全面ガラス張りだが印象的なのは一棟が傾いたように見えるこれまた前衛的なビルだが、まあ東京駅とか虎ノ門とかのビルを見ている人にとっては普通のデザインか。リッツカールトンが入居することで、福岡市にもやっとグローバルスタンダードの高級ホテルができると胸を撫でおろしている関係者も多い。裏庭は市民のビオトープといううたい文句なのだが、行ってみると小さな人工芝の校庭のような作りでがっかりした。あと地下鉄天神駅から地上を5分程度歩くため、オフィスの入居が苦戦していると聞く。

大名ガーデンシティ。リッツカールトンがオープンする

大名から天神に引き返すと、新天町商店街が天神まで通っている。かつては天神の象徴であったが、今はダサい(←口が悪い)普通の商店街で、それを知らない観光客は一様にがっかりして引き返す。タレントの今田美桜がここでスカウトされたとの触れ込みなのだが、地元民は「なんの用で新天町に?」との反応である。

新天町商店街

もっか休業中の天神東側にかわって、岩田屋本館と天神西通りを中心とする繁華街に若者は向かうのだが、東京に慣れてしまった人にとってはなんてことのない繁華街である。

天神西通り

――なんでこんな記事をわざわざ書いたかというと、最近急に増えた韓国人客を含め、せっかく足を運んでくれた観光客に申し訳ない思いがあるからである。最近、キャリーバッグをゴロゴロと転がして街を徘徊する若者たちから、はっきりとこんな声が聞こえる。「えっ(新天町って)これだけ?」「これが九州一の繁華街?」「(食事やショッピングは)どこに行けばいいの?」などなど。
地元の西日本新聞も煽っている。「ミニ東京になって個性が無くなる」「家賃の高いオフィスビルばかりになって若者の活気が失われる」「中心地は博多に移った」などなど。
しかし、高島市長のそもそもの構想も、おひざ元である西日本鉄道も、ファッションの街からオフィスの街に転換させようというものであった。東京に負けないアジアの拠点都市、金融の街という構想でもあった。それをマスコミも市民もさんざん盛り上がっておいて、今になって商都・天神の個性が無くなるといわれたって、というのが正直な思いである。
個人的には、「商都・天神」のブランドを維持しておけばよかったのになあという思いがある。しかしもう立ち上がった以上、東京・丸の内や虎ノ門、日比谷のような、オフィス街と繁華街が融合した新しい街に生まれ変わってほしいと思っている。というか、そうならなければ福岡市は衰退する――という危機感を持っている。

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