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サリーガーデン


リュート用にアレンジ

サリーガーデンは1889年に出版されたアイルランドのイェイツの詩集「The Wanderings of Oisin and Other Poems」に収録されている比較的、新しい民謡です。ある村の農婦が口ずさんでいた詩だったそうです。リュートが活躍した時代の民謡ではありませんが、ケルト文化残るところでは古いものがそのまま伝承されています。リュートにもよく合う歌だと思います。コンサートのアンコール用に編曲したものです。お気に入りの1曲です。


オランダ・ハーグの公園

オランダのハーグの街には緑豊かな公園が至ることころにあります。留学中は近くの公園をよく散歩しました。緑の芝生が美しく、目に優しい感じがお気に入りでした。モネの水連にでてきそうな小川のほとりをゆっくり歩くと、大きな柳の木の下にはお約束のベンチがあります。座って何もしない、何も考えない、いま思えばなんとも贅沢な過ごし方でした。

公園から急ぎ戻りハーグの音楽学校へ。リュートで歌の伴奏を頼まれていました。今日お相手は、少し赤みが混じった短い金髪でとても元気の良いアイルランドのソプラノ歌手です。

「アイルランドの歌だから、英語ではなく、自分の国の言葉で歌いたいの。」

彼女から英語とアイルランド語の二つの言語の歌詞が掲載されている楽譜を渡されました。アイルランドの17世紀の楽譜でリュートや鍵盤楽器で伴奏できるバロック時代の通奏低音のスタイルでかかれた楽譜です。

「英語とはちょっと違うけど。笑わないでね。」

ヨーロッパの北側、アイルランドの彼女の歌声は透明感があり独特でした。そばかすが少し残るチャーミングな彼女のアイルランド語は、たしかに訛りのある英語のようにも聞こえました。私、秋田出身の男児としては大いに親近感がわきました。メロディーはどこか懐かしく、でもちょっと切ない気持ちも湧きあがります。北の人の共通の感性でしょうか。


サリーガーデンの意味は?


「saileách」アイルランド語で「ヤナギ」を意味するそうです。
これから「salley(サリー)」?

英語では柳の木は「willow tree」。
シェイクスピアのオセロ中で「willow、willow」と歌われる悲しい歌があますね。

「salley gardens」の訳し方は

柳の庭?
柳の木の林?
柳の茂み?

サリーガーデン で良いことにしましょう。


歌詞の場面を創作してみました

僕はアイルランドの小さな村に住んでいる。僕の村から見下ろせるお気に入りの場所がある。村外れの川のほとりにある柳の木々が生い茂るところだ。
柳は村の家々の屋根の材料となったり、杖を作ったりと村人にとって大事な木だ。僕はそこを「サリーガーデン」と呼んでいる。ある日、そのサリーガーデンに寝そべっていると・・・・・。


Down by the salley gardens
My love and I did meet;
She passed the salley gardens
With little snow-white feet.
She bid me take love easy,
As the leaves grow on the tree;
But I, being young and foolish
with her did not agree.


サリーガーデン沿いの道で
愛しい人と僕は 出会ったのだ
あの人がサリーガーデンを通る
かわいらしい足がみえる 雪のように白い足だ
あの人は僕を諭すのだった
「恋は焦らずにね。ほら、緑の葉がゆっくり木に茂るように」
でも若い盛り おバカな僕は
あの人のいう意味が わからなかった


In a field by the river
My love and I did stand
And on my leaning shoulder
She laid her snow-white hand.
She bid me take life easy,
As the grass grows on the weirs;
But I was young and foolish
And now am full of tears.


川のほとりの野原に
愛しいあの人と 僕は立っていた
僕の肩にもたれかかっているのは
雪のように白いあの人の手
あの人は諭すように告げた
「あるがままに生きるの ほら緑の草が川の堰に生えるように」
でも僕は若かった 愚かだった
そう 今の僕には とめどない涙が

(訳 サクラダ トオル)


リュートマニア ★☆☆

CD紹介 「FOLKSONGS」


この曲を歌うアルフレッド・デラー(Alfred Deller)のCD「FOLKSONGS」が好きです。表情豊かな彼の歌声に一つ一つの言葉の持つ感情が心にしみてきます。ちょうど少し英語が聞き取れるようになった時期にこのCDを入手したのも良かったのかもしれません。古楽の黎明期の録音なのでリュートの音はギターに近い感じです。でもデスモンド・デュプレ(Desmond Dupre)のリュート伴奏のアレンジはセンスが良いのです。さらに、自由奔放に歌うデラーにぴったり寄り添い、リュートもよく歌っています。こんな風にリュートを弾きたいと思いました。1972年の録音なので入手は困難かもしれないがお薦めの1枚です。


サリーガーデン収録 櫻田亨|CD



リュートに興味を持ってくれる方が増えると嬉しいですね。