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悪夢のように美しい映画!

アレクサンドロ・ソクーロフの『独裁者たちのとき』が公開になる。


日本では、イッセイ尾形が主演した『太陽』(2006年日本公開)が有名だが、わたしは以前、カンヌ映画祭金獅子賞を受賞した『ファウスト』(2012年日本公開)を見て感激した。

また、『エルミタージュ幻想』(2002年日本公開)、『フランコフォニア -ルーヴルの記憶-』(2015年制作)も壮大なスケールのロケを敢行し圧巻だった。

その巨匠ソクーロフが、今回はヒットラー、スターリン、ムッソリーニ、チャーチルをダンテ『神曲』の煉獄を彷彿とさせるような場所に配し、不条理な対話を繰り広げさせる。実在の人物の生前の映像を使いデジタル技術を駆使して仕上げた恐るべき作品だ。(4月22日からユーロスペースで上映)


“人生の道の途中で気づくと深い森の中にいた”

“偉大な天国を築くのだ。果てしない天国を”

“神は存在しない。なぜ我々はここに来たのか”

“どん底から民衆の頂点に登り詰めた”

“夢を見ているようだ”

“私は孤独な旅人”

※『独裁者たちのとき』セリフより抜粋


http://www.pan-dora.co.jp/dokusaisha/#unit
『独裁者たちのとき』公式サイト


この映画だけでなく、めったにみられないソクーロフ作品を日替わりで観ることができる。パンフレットには、わたしも寄稿しているのでぜひ、この巨匠の偉業を体感してください。



なお、『エルミタージュ幻想』『フランコフォニア -ルーヴルの記憶-』は、amazon primeでも観られます。以下、忘れられないセリフやナレーションを記しておきます。

ここは初めてだ。寒いな。
どこにも誰もおらん。
死体と棺桶だけさ。
その変な話し方はなんです。
なぜエルミタージュに棺桶が?

戦争ですよ。
どことの戦争?
 ドイツと。
ドイツとはなんだね?
ゲルマン人の連合体。
20世紀半ばにそこと戦争を。
この街は、包囲され100万人が死にました。
100万人以上?
高くつきましたな?
街にもエルミタージュにもやけに高くついた。
自由に値段はつけられません。

この美しさと豪華さのことで罵るべきではなかった。
どうかお静かに
でも美しいでしょう?
何が見えます、あれは誰です?
もしかしてエカテリーナ2世では?

この豪華さと壮麗さは大好きだ。
やはり貴国のスターソフは、なかかなかの建築家です。
規律は好むが、息をつける場所を残す。
セーブル焼きだ。
私はこれには、目がなくて。
きれいです。
これが例のカメオ付きの食器かセットだな。

※『エルミタージュ幻想』のセリフより抜粋。

文化財の保護は、今も神聖な義務であります。
ヨーロッパ団結の名において徹底して…….
フランス スランス
あなたの姉妹ドイツがあなたにー
生きる権利を認めたのは幸運だ。
あなたの姉妹が人類とみなさないものはどうなる?

ボリシェヴィズムのロシアだ。
ああボリシェヴィズム。
どれほど抵抗したことか。
ロシアのすべての村
すべての街のために戦った。
ドイツ軍は、ヒトラーの命令を遂行した。
東部戦線の文化財は、価値がないから破壊すべきだ。

ソビエトロシアの大都市はレニングラードは、
完全に孤立した。
美術館、図書館、劇場、大学
学問、音楽、生活
砲撃
飢餓
寒さ
毎日数千人という人が死んでいき
通りも階段も
部屋にも中庭にも死体。
地下にも死体。
埋葬する力は
誰にもなかった。

この街では、100万人が
共同墓地に埋められている。
日記から引用しよう。
“ネヴァ川沿いに
赤ん坊と女性の死体あり”
“翌日、赤ん坊と母親の足が消えた”
“食べられたようだ”
地獄にまさる惨禍。

 ロシアの復興。
エルミタージュ美術館は、
 封鎖の歴史に閉じ込められた。
地下室で怪我人が治療を受け
ホールでは、棺が作られた。
爆撃と砲撃。

ここでもっとも貴重なものは疎開できた。
戦線からきた兵士が
空の額縁の前を歩いていく。
“これがエルグレコ”
“これがダ・ヴィンチ”
“ここにはダ・ヴィンチがあったのか!”

このすべてを忘れてしまいたい。
そしてこれを
そしてこの捕虜たちを
そしてこの眼差しを
これはすべて現実ではないのだろうか?
すべて
我々ヨーロッパ人がー
でっちあ上げた?
ただの夢なのか?

ここには、こんな非凡な
作家や哲学者がいる。
芸術家は、大変な夢想家だ。
彼らは、人間を熱愛している。
 ルーブルにあるものもー
人々の苦悩、愛、殺戮
後悔、嘘
そして涙だ。

これは私だ。
自由、平等、博愛
フランス、ベルギー、ギリシャ
セルビア、イタリアに支部があり
ロシア支部も計画されたが
戦闘が続いておりー
実現しなかった。

メッテルニヒ伯爵は、
 占領地における文化財のー
保存や保護を司令部に任された。
その結果が次の
ドイツ兵への注意書きだ。
“これらの建物の多くは
芸術品で歴史的文化財だ”
“下記を遵守のこと”
“暖房の使用に注意”
“火事を起こせばドイツ兵が非難される”
“電線の新設には細心の注意を”
“芸術品を大切に取り扱うこと”
“壊れた家具や壁紙を焼却しないこと”
“ブロンズの枝付き燭台に服を掛けないこと”
“東のボルシェヴィキに勝利した
あのドイツ人だと示すこと”


今に教えてくれる。
彼にしかできない。
チェーホフさん!
彼も黙ったままなのか?
ぐっすりだ。
すぐには、目を覚まさない。
最もつらい時代に
チェーホフさん
目を覚まして。
新しい世紀。
20世紀の夜明けなのに
誰に尋ねたらいいのだろう。

ああここに
民衆がいる。
なんという顔。
なんという魂。
天使。
子供たち。
だが子供たちは、
いつも残酷なものだ。
特に親が眠っているときは。
追わないで。
父親たちが眠り20世紀がはじまった。

教えてくれ
この先に何があるんだ。
自由、平等、博愛。
我々の心地よい住まい。
生活。
美しさ。
民衆にとって海は、
周りにあるものだ。
そして、自分の中にも海を持つ。
この頃、この街について
よく考える。
どこかにルーヴルがある。
パリに敵の軍隊が入ってきた。
最も幸せな街にも
時に災いが降りかかる。
1940年の夏。
パリに敵の軍隊が入ってきた。
6月14日のことだ。
街は、空っぽだった。
そう空っぽだったのだ。
フランス政府は、南へ退いた。
パリは、無防備都市だと宣言したのだ。
初めてルーヴルを訪れた時、
これらの顔に衝撃を受けた。
民衆の顔。
民衆の顔なのだ。
こういう民衆をー
私が理解できる民衆をー
見たかった。
それぞれの時代の人々。
だが彼らがわかる。
なぜだろう。
フランス人。
ヨーロッパの血筋。
肖像画がなかったらー
ヨーロッパ文化は、どうなっていた?
これは非常に興味深い。
どういうわけか
ヨーロッパ人にはー
民衆や顔を描くことが必要になったのだ。


※『フランコフォニア -ルーヴルの記憶-』よりランダムに抜粋。

一挙35mmにて上映!
特集上映 歴史をみつめるソクーロフ

http://www.pan-dora.co.jp/dokusaisha/#unit_reviews


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