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039 ここって、もしかして・・・!


⁡朝起きると、癖っ毛の娘の髪の毛が鳥の巣のようにからまっていて、仕方なく美容院を探してお願いすることにした。近所なのに今まで知らなかった、とても素敵な美容室を見つけた。

娘を自転車の後ろに乗せてお店に近づくにつれて、なんだか、どこか懐かしいような、そんな気持ちに私はなっていた。古い製鉄会社、曲がり角にある大木、車1台やっと通る狭い道。

着くと、人見しりな娘をスタッフの方が暖かく迎え入れてくれて、時間をかけて丁寧に丁寧に髪をほどいてくれた。そんな中私は、もしかしたら不審に思われるくらいに、その店内と窓から見える景色をキョロキョロとずっと見回していた。
なんだか、気になった。

そんな中店主が地元の方と知り、話せば話すほど共通の知り合いがいたり、お互いの子どもの話で盛り上がっていった。お店がいつできたのかと聞くと約9年前。以前そこは診療所があった場所で、先生が高齢で診療所を閉じられたということを知った。

私はそこで、ふと自分が生まれた産院がこのあたりであったことを伝えた。

私はこの街に引っ越してきた時に、母とこの街を散歩しながら、私が産まれてから4歳まで過ごしたアパートや保育園を一緒に回ったことがあった。もう取り壊されていて跡形もなかったけれど、母は場所だけは覚えていた。ただ、産院の場所だけは覚えていなくて、ネットで調べてもその産院の情報は、もうこの世になかったのだ。

私は、店主にその話をしながらここに来るまでに感じた「懐かしい」という記憶を思い出して、ハッとした。

「もしかして、ここ・・・」


「そうです、そうです。その診療所は、産院でもあって小児科の診療所でした」
⁡と店主は優しく笑った。


私は思わず天を仰いだ。「ここで私は産まれたんだ!」しばらく声が出なかった。

嬉しかった。
⁡すぐに母に電話して、この出来事を伝えると喜んでくれた。

私は兄と全く同じ時刻、夜中の0時41分に産まれた。
小さな産院で、生まれるとすぐ畳みたいな場所にゴロンと置かれた。
母は出生時の鉄板エピソードをこの時も話だしたけれど、それよりも今日、もう1つ大切なエピソードが加わった。

「そこは今、とても素敵な夫婦が営まれる美容院になっている」


サラサラに整った娘の髪の毛を見て思った。
私は今日、38年前に産まれた場所で、娘の大切な髪を切ってもらったんだ。
⁡からまった娘の髪の毛が、私をあそこへ連れて行ってくれたんだ。

私が産まれた場所。
私が産まれた意味。
母との関係。
もうすぐ、分かるような気がしている今日この頃のことであった。


おわり


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