忘れがちな12月4日(F.Z.)

 私が彼のことを知ったのはいつぐらいだろう?少なくとも15歳くらい(今から30年ほど前)には存在を認識していたはずだ。というのも、ビートルズを聴き始めたのが中1か中2で、洋楽の刺激を求めて地元のCD屋さんに足しげく通い詰めていた頃、ひときわ異様な雰囲気を放つ棚があったことを鮮明に覚えているからだ。その棚には彼の名前が書いてある黄色い帯のCDが数十枚ずらりと並んでいた。物量の圧迫感。手に取って収録曲を見てみると、当時の私には聞いたことのないタイトルばかりで、曲の長さも20分を超えるものから1分を切るものまで。各々のアルバムは20曲くらい入ってるものもあれば、4曲しか入ってないものもある。中学生の素人でも知っているようなヒット曲が1曲も見当たらないのに、その棚だけが鮮明な黄色が並んでいて目を引き付ける。そんなトラウマにも似た妙なインパクトを私の潜在意識に植え付けた。(今考えると、そのCD屋さんはかなり玄人趣味だったのかもしれない。とても小さな店舗だった。残念ながら今はもうなくなってしまったけれど。)
 しかしながら、その当時は彼の音楽を実際聞いてみることはなかった。今と違ってその頃はネットなんてなかったので、簡単にYouTubeなんかで試しに聞くことはできなかったし、未知の音楽に小遣いをつぎ込むことは非常にリスキーだったわけで。結局、私が彼の音楽を耳にするまでにはその時点から10年以上の時を要することになった。20代後半になって手を出すことになる。そしてハマる。

 彼は生前、四半世紀ほどのキャリアで60枚以上のアルバムをリリースした。更に彼の死後にも遺族たちの手によって新しい音源が定期的に発表され、2023年現在ではカタログは倍ほどに膨らんでいる。私はその半分も聞いていないが、ふとした瞬間にCD棚からお気に入りのアルバムを引っ張り出して聞いている。私にはとても魅力的な音楽である。
 
 彼はよく「変態」と言われる。これが私が彼の音楽に触れるまでに10年かかった要因の一つでもあるが、実際はそこまででもない。とても分かりやすい楽曲も沢山ある。ただ、とっつきにくいものもある程度あることも否定はできない。というのも、彼の音楽的なルーツが多方面にわたっていて、例えば、ブルースやロックなんかは案外わかりやすい分野だが、ジャズや現代音楽という「難解」とされる音楽にも造詣が深かったりする。さらにドゥーワップを好んでいたり、そんなものたちがごちゃ混ぜになっていたり、変拍子や転調、あんまり見たこともないような連符が出てきてリズム取りにくかったりと、まあ「変態」と呼ばれるよな、と納得せざるを得ない面も大いにある。しかも、歌詞の面から見ると、かなり低俗な下ネタやナンセンス、政治や宗教に対する皮肉や批判、時には著名人の実名を出してコケにすることもあるので、詞に重きを置いて音楽を聴く人間には苦痛かもしれない。ただ、私個人的には(語弊があるかもしれないが)「ポップミュージック」の枠に収まっているように感じられる。かしこまったり、斜に構えて歯ぎしりしたりしながら聞くものではなく、単純に楽しんで聞ける音楽群だと思う。
 
 でもいかんせん、オススメのアルバムを選ぶのには困るんだよな…。

 今回はここではあえて触れないが、彼の人物像や生前の語録もとても面白い。ネット上にいくらでも転がっているので興味があれば。

 毎年忘れがちなんです。12月8日はジョン・レノンの命日だって思い出すのに。今日は彼の30回目の命日なんです。
 考えてみれば、私がCD屋さんで彼の作品を目にした頃、彼は亡くなっていたのかもしれないわけで、彼の存命中には私はディープ・パープルの有名な曲の中に彼の名前があったことにも気付いてなかったわけです。
 丁度1ヶ月くらい前に、個人的な彼のベスト盤を作ってみました。全58曲、5時間弱。それでも漏れた曲が多いです。個人的なベスト盤なので「その曲はいらないし、それ入れるんだったらあっちの曲だろ!!」みたいなのが沢山あるのは重々承知なのですが、作業しながらだらだら聞きたかったので。今も聞いてます。我が家にはMDという太古のテクノロジーが現役で稼働しているので、そいつにブチ込みました。しかもLP4。(何のこっちゃわからん人は気にしないでいいです。大きな問題ではありません。)

 彼の名前はフランク・ザッパ。素敵な天才ミュージシャンです。安らかに。

(Frank Vincent Zappa 1940.12.21~1993.12.4)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?