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脚本家志望者のための映画・テレビドラマ制作の知識 その3<ロケ撮影とセット撮影>

 映画やテレビドラマを撮影するには、どこで撮影するかが事前に決まっている必要があります。撮影する場所は、大きく分けてスタジオでの「セット撮影」と、外で行う「ロケーション撮影」の二種類があります。ロケというと屋外というイメージがありますが、家や会社などを借りて撮影する場合は屋内でもロケです。屋内で撮影することを「ロケセット」という言い方をする場合もあります。

 ロケーションをする場所を事前に見て回り「ここで撮ろう」と決めていく作業を「ロケーション・ハンティング」、略して「ロケハン」と言います。
ロケハンは脚本ができて、メインスタッフの顔ぶれが決まったあと、大体撮影の1,2ヶ月前に行います。テレビドラマの場合はもっと直前の場合もあるでしょう。歴史や大自然を背景にした作品を撮る場合などは、どういう場所が撮影に使えるか脚本を書く前にわかっている必要があり、早い時期にロケハンを行うこともあります。

 ロケする場所の候補を探し、撮影許可を取るのは制作部の仕事です。制作部は、その他撮影当日の弁当の調達や移動のための車両の手配などが仕事です。まず、事前に監督と制作部のスタッフが打ち合わせをして、監督がそれぞれのシーンでどんな場所で撮影したいかを話します。例えば「工場」といっても最新の機械が揃った工場か、古い機械ばかりの年季の入った感じかでイメージが変わって来ます。脚本に具体的に書いてあればそういう場所を探すのですが、公園などはただ「公園」としか書いていない場合が多く(つまり脚本家の意図は公園ならどこでもいいということ)、監督がどんな場所をイメージするかで探す場所が変わります。
 制作部のスタッフはその打ち合わせの結果を元に候補となる場所を探します。そのとき、撮影許可が出るのか、撮影可能な曜日や時間、またお金がかかる場合の料金なども確認します。

ロケハンは遠足気分?

 ロケハンの当日はワゴン車を仕立てて数人で候補となる場所を回ります。参加するのは監督、カメラマン、その他メインスタッフです。その作品の全ての撮影場所を決めないといけないので、当然一日では終わりません。何日かに分けて行います。地方なら泊まりがけで行く場合もあります。

 候補となる場所に着くと、みんなであたりを見て回ります。このとき、監督はその場所でどんなふうに俳優を動かし、演技してもらうかをイメージして、そこで行けそうかを判断します。
 他のスタッフは演出的なこと以外のことも確認します。例えば電源はあるのか。機材を置く場所はあるか。俳優がメイクや着替えをする支度部屋は確保できるか、など。騒音問題も結構重要です。場所はいいんだけど車の騒音がひどいために音声が録れないだろうと諦めるということもあります。その場で即決する必要はなく、他の候補も見て比較した上で決めていきます。 

 いくつかのシーンの撮影場所を近くにまとめることができるかどうかも考えます。撮影場所の間を車で移動するのは時間がかかるし、機材の積み下ろしも結構時間を食うものです。だからできるだけ撮影場所はひとつ(または近所)にまとめて移動を少なくしたいのです。

 許可が出るかどうかも結構厄介な問題です。民間の場所はそこの持ち主の判断次第ですが、公共の場所は決まりがあって、ある境界線を境に「ここは道路だからOK、このラインから先は公園なのでダメ」みたいなことがあります。また民間の場所でも撮影許可は出るけど使用料が高いということもあります。

 これらの要素を考慮しながら最終的にロケ場所を決めていきます。そして決まった場所をいかに効率的に撮影をするかを考えながらスケジュールを組むのです。

 ロケ撮影の他にセット撮影があると書きましたが、低予算の場合はセットを組む予算はないので「オールロケ」となる場合が多いです。

 僕はロケハンが好きです。車であちこち行って遠足気分が味わえるし、車の中でスタッフの過去の撮影の面白エピソードなどを聞くのも楽しいです。

 自分の経験でわかったことは、ある場所を見ているとき、少し足を伸ばして広い範囲を見ることが大切だということです。あるロケ候補で一階を見たときに「いまいちだけど仕方ないか」と思っていたところ、「二階もある。行ってみよう」となり、行ってみたらそこでベストの場所を発見したことがありました。

セット撮影のこと


 セットについても書いておきます。撮影所(テレビドラマの場合はテレビ局)の中にスタジオがあり、そこにセットを組みます。撮影所全体をスタジオということもあります。スタジオの個々の建物をステージと言う場合もあります(「第一ステージ」というように)。撮影所(テレビ局)>スタジオ>ステージという感じです。テレビドラマも外部の撮影所を借りて撮影する場合もあります。
 スタジオの機能は、まず第一には体育館のような広い屋内にセットが組めるということです。そして防音がちゃんとしていることが必要です。その他に俳優の控え室、メイク室、スタッフルーム、食堂などがあり、機材も揃っていて初めてスタジオと言えます。
 なぜロケではなくスタジオを使うのか?というと、その方が効率的だからです。先にも述べたようにロケは移動や機材の積み下ろしに時間がかかるし、機材置き場や支度部屋がなくて不便だったりします。スタジオでセットを組めば、朝そこに行けば一日中撮影ができるし、俳優は空き時間は控え室で過ごせるし、暑さ寒さを気にしなくていいし、便利で快適なのです。天気に関係なく撮影できるというのも大きいです。
 もうひとつセットの便利なところは、壁を取り外せるということです。ロケだと壁ギリギリまでしかカメラが下がることはできませんが、セットなら壁を外してその外にカメラを置けば、カメラの画角や動きの自由度が格段に増します。

 ロケでは見つけることが困難な設定の場合もセットを組みます。例えば主人公の部屋の窓のすぐ外に向かい合わせに隣の家の窓があってそこには気になる異性の部屋、みたいな設定の場合、それにぴったりな場所をロケで探すのは難しいのでセットを創るしかないでしょう。

 セットはロケよりもコストはかかりますが、セット撮影の分量が多ければその分コスパはよくなるので、連ドラなどはコストと時間の兼ね合いでセットの分量をある程度多くするのが普通です。
 先に述べたように低予算の場合は最初からセット撮影の選択肢はなく、オールロケで撮影をします。僕はロケハンが好きと書きましたが、オールロケの場合、「脚本ではこういう設定の場所なんだけど、都合よくそういう場所が見付かるか?」が心配だったりもします。設定が特殊であるほどぴったりの場所が見付かる確率は低くなります。具体例を挙げると、『炎上シンデレラ』の中で悪者をやっつけるために廃工場の穴に落とすというのを書いたのですが、そんな穴が都合よくあるか?というのが心配でした。ところが行ってみると……おあつらえ向きの穴がちゃんとあるではありませんか。どうやら上のフロアに物を上げたり下ろしたりするために、こういった向上ではこういう穴が設置されているのは珍しくないようです。

二階で発見した「穴」

脚本家とロケ場所の関わり


 ロケ場所をどこにするかは脚本を書いてからの話なので、あまり脚本家に関わることはないですが、いくつか関わってくる場合があります。

①ロケとセットのバランス
先に述べたように、コストやスケジュールの兼ね合いでプロデューサーが「セットを増やしたい」と言ったりすることがあります。そういうときは、外の道(ロケ)で話していたのを家(セット)で話す設定に変更するなどします。
②ロケ場所と俳優のスケジュールの兼ね合い
例えばある会社でロケさせてもらうことになったものの、借りられるのは日曜日など限定された日程だった場合、そこに登場する俳優とスケジュールが合わないなどということが発生します。この場合も場所を変更するなどで対応します。
③イメージに合う場所がない
脚本家が、このシーンはこういう場所がいいと思って何か特殊な設定の場所を書いたとします。スタッフはそのイメージに合う場所を探しますが、どうしてもない、またはあるけど許可が出ないなどということがあります。こういう場合もどんなところなら可能かを聞いて修正することになります。

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