食物アレルギーは皮膚から──皮膚細菌と腸内細菌との複雑な関係(1)

ハウスダスト中の食物成分とアレルギー

 ヒトの免疫系は、簡単にいえば「異物=非自己を排除するしくみ」だ。ウイルスや細菌、寄生虫、さまざまな生物由来毒素、がん細胞など──実際にはそれらを構成するタンパク質や多糖類の一部である分子──を自分自身を構成するものとは異なると判断して排除し、感染症や中毒、がんなどから、からだを守るのである。免疫系が反応する分子を抗原という。しかし、ここで困ったことがある。食物のなかにも抗原となりうるさまざまな分子が含まれている。それらにいちいち反応していたのでは、栄養・エネルギーをとることができない。そこで、働くのが「経口免疫寛容」というしくみである。要するに口から入って消化管を通ってきたものにたいしては、抗原として認識しないよう免疫系がお目こぼしするわけだ。これには腸管免疫システムがかかわっており、そこに共生する腸内細菌も重要な役割を果たしているとされている。乳幼児期には食事内容が母乳や人工乳から、離乳食・普通食へと変わるなかで腸内細菌叢も変化し、その助けを借りて免疫系も発達していくと考えられているが、経口免疫寛容もそのなかで形成されていくようだ。

 ところが経口免疫寛容がうまく形成されなかったり、形成以前に腸管以外の場所で抗原となりうる分子に触れてしまうと、免疫系はその分子を有害なものとして認識し、IgEという抗体をつくる(感作)。次に同じ分子が体内に入ってきたときに──それが腸管であったとしても──つくられたIgEがそれにたいして反応(これを抗原抗体反応という)し、さまざまなアレルギー物質が放出される。これが食物アレルギーであり、アレルギーの原因となる抗原をアレルゲンと呼ぶ。

 卵、牛乳、小麦、そば、落花生、クルミ、エビ、カニ、といえば、いずれも食物アレルギーの原因となり、特定原材料として表示が義務づけられている。これ以外にも大豆やバナナなどアレルギーの原因となる食物はあるが、上記8品目は症例が多く、アナフィラキシーショックなど命にかかわる重篤な症状を引き起こすおそれがあるからだ。

 そのなかでクルミアレルギーが近年急増している。国立成育医療研究センター(東京・世田谷区)は、同病院のアレルギー外来を受診した子どもの家庭45軒(うちクルミアレルギーのある子どもの家庭11軒、ピーナツアレルギー13軒、卵アレルギー18軒<以上重複あり>、食物アレルギーのない子どもの家庭13軒)のハウスダスト(ほこり)を株式会社ダスキンと共同で調査した。すると、家庭内のクルミの消費量が多いと、ダスト中にアレルギーの原因になりうるクルミタンパク質(アレルゲン)の量も多くなる傾向があること、主要なアレルゲンにたいする抗体(IgE)を保有している子どもの寝具ダストからより多くのアレルゲンが確認されたことを、2023年7月に発表した[1]。この調査結果は、クルミタンパク質とクルミアレルギー発症の直接の因果関係を示すものではないが、ダスト中にクルミタンパク質が多いとクルミアレルギー発症がふえる可能性を示唆している。

変わってきた食物アレルギー予防の考え方

 かつては、母親が妊娠期・授乳期に卵などアレルギーを起こしやすい食品を避けたり、乳児の離乳食を遅らせたりすることで食物アレルギー予防できるという考えがあったが、現在ではほぼ否定されている。それにたいして、乳児がアレルゲンを含む食品を少量ずつ早期からとることで、経口免疫寛容を促す「早期経口介入」という食物アレルギー予防法が注目されるようになった。

 イギリスのキングス・カレッジ・ロンドンを中心とした研究グループは、2015年に有力医学誌『New England Journal of Medicine」に発表した論文で、4~11か月の乳幼児をピーナツを与えるグループと与えないグループに分け、生後60か月(満5歳)の時点でピーナツアレルギーの有無を調べると(皮膚テストによる)、ピーナツを与えなかったグループでは17.2%がピーナツにたいしてアレルギー反応を示した一方、ピーナツを与えたグループでは3.2%だったとした[2]。つまり、早期からピーナツを食べさせることで、ピーナツアレルギー発症リスクは80%以上低下するという結果だ。そのフォローアップとして同研究グループは、さらに12か月間、試験参加者にピーナツをらないよう指示したが、生後72か月(満6歳)時点で、生後60か月以前にピーナツを与えられていたグループと与えられていなかったグループでピーナツアレルギー発症率に有意な変化は見られず、ピーナツ摂取グループのピーナツアレルギー発症リスク低下は維持されていた[3]。

 沖縄県内の4病院は「スペード試験(SPADE Study)」として、牛乳アレルギーの予防効果を調べている。生後1か月~3か月直前までの2か月間に、1日あたり10㍉㍑以上の牛乳タンパクを含む粉ミルクを与えたグループ(摂取群)では、大豆粉ミルクを与えたグループ(除去群)に比べ、生後6か月時点での牛乳アレルギーの発症が有意に少なかったと報告している(発症率=摂取群0.8%、除去群6.8%)[4]。

 このように、近年では生後1年以内の早いうちにアレルゲンを含む食品を少量与えることで、その食品にたいするアレルギー発症が抑えられるという考えが有力になってきている。これは積極的に経口免疫寛容を成立させようするものだといえよう。

アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係

 同時に食物アレルギー発症のメカニズムにかんしても、ここ10年ほどのあいだに新たな知見が積み上がってきた。ひとことでいえば、食物アレルギーは皮膚からはじまるのではないか、ということだ。

 やはり成育医療研究センターでは、アトピー性皮膚炎を発症している生後7~13週の乳児650人を、湿疹部位だけでなく湿疹がないように見える部位にもステロイド軟膏を塗布する「積極的治療」をおこなうグループと、湿疹部位だけにステロイド外用剤を塗布する標準的治療をおこなうグループ(対照)に分けて、その後の鶏卵アレルギーの有無を調べた。その結果、生後28週時点で積極的治療グループでは標準的治療グループに比べて鶏卵アレルギー発症を25%減らすことができたという[5]。

 この結果について、同研究センターでは「『二重抗原暴露ばくろ仮説』を実証する研究成果だ」としている。「二重抗原暴露仮説」とは、食物中の抗原にたいする生体への暴露には2つの経路があり、その1つが「経口」で、こちらは前述のとおり「経口免疫寛容」が成立すれば、アレルギーは発症しない。もう1つの経路が皮膚だ。幼少時にアトピー性皮膚炎を発症し、のちに食物アレルギーやぜんそく、アレルギー性鼻炎、花粉症など他のアレルギーを併発することを「アレルギー・マーチ(行進)」と呼ぶ(アトピー性皮膚炎があとから出ることもある)が、アトピー性皮膚炎患者は食物アレルギーを合併することが多い。その理由として、アトピー性皮膚炎では「皮膚バリア機能」が損なわれてしまうため、皮膚を通じて食物に含まれるタンパク質が取り込まれ、それが免疫反応を引き起こすと考えられる[6]。アトピー性皮膚炎ほどひどくなくても、赤ちゃんの皮膚に湿疹があると食物抗原が皮下に取り込まれやすくなる。もし経口免疫寛容が成立する以前にこうした免疫反応が赤ちゃんの体内で起こってしまうと、口から取り込まれた食物抗原にたいしても免疫系が反応するようになる。すべてではないにしろ、食物アレルギー発症には、こうしたメカニズムがかかわっているだろうと、考えられているのだ。先のハウスダスト中のクルミタンパク質とクルミアレルギーにかんする国立成育医療研究センターの研究も、皮膚を経由したクルミタンパク質の取り込みが関係している可能性がある。


図1 食物アレルギー発症の「二重抗原暴露仮説」
参考:Kiwako Yamamoto-Harada et al., 2023[7]

皮膚バリア機能と「皮膚細菌叢」

 皮膚は24時間つねに外界と接しているため、細菌などの病原体やさまざまな異物の侵入を防ぎ、紫外線や化学物質からからだを守るとともに水分を保持する機能を備えている。これが「皮膚バリア機能」だ。皮膚は外側から表皮、真皮、脂肪組織で形成され、表皮は4つの層からなる。そのいちばん外側は死んだ細胞(角質細胞)同士が固く結合した角(質)層、その内側に数層からなる顆粒層があって、その2番めの層は「タイトジャンクション」と呼ばれる構造で細胞の隙間が埋められている。さらにその内側に順に有棘ゆうきょく層、基底層がある(図2)。角質細胞間とその外側、つまり皮膚の表面は皮脂腺から分泌される脂質で覆われており(皮脂膜)、水分の蒸発を防ぐとともに重要なバリア機能の一部である。塩分やカリウム、尿酸などを含む汗も、バリア機能の一翼をになっている。

 皮膚バリア機能の維持にとってもう1つ重要なのが、皮膚表面に生息する常在細菌群=皮膚細菌叢だ。腸内細菌叢同様、皮膚表面にも細菌以外にウイルス、真菌(カビ)その他の微生物、ニキビダニのような多細胞生物もいる(ニキビダニのサイズは0.3㍉㍍程度で半透明かつ夜行性のため人の目にふれることはほとんどない)ため、厳密には皮膚微生物叢(skin microbiome)という。日々種々雑多な食物が送り込まれる腸内とは異なり、皮膚には微生物の餌となるようなものはほとんど存在しない。そのため皮脂や死んだ表皮を分解して生きているものがほとんどだ。もちろん、外気に直接接する皮膚上には、大腸に生息するような絶対嫌気性細菌は生息しない。ただ、ニキビの原因細菌とされるアクネ菌 Propionibacterium acnesは酸素のない環境を好むため、毛穴に潜み皮脂を分解してエネルギー源としている。毛穴には皮脂腺が開口しており、毛穴が詰まってそこに皮脂がたまるとアクネ菌が増殖して炎症を引き起こすことがある(これがニキビ)が、通常は無害で、むしろアクネ菌がつくるプロピオン酸には、皮膚表面を弱酸性に保ち、皮膚バリア機能を高める働きがあるとされる。

図2 皮膚の構造とバリア機能
出典:Norito Katoh et al., 2020(一部改変)

 ヒトの皮膚上にはこのアクネ菌を含むプロピオニバクテリウム属 Propionibacterium、ブドウ球菌属 Staphylococcus、コリネバクテリウム属 Corynebacterium、ベータプロテオバクテリア属 Betaproteobacteria、「乳酸菌」の仲間であるラクトバチルス属 Lactobacillusなどが共生する。このうち最も普遍的なのは表皮ブドウ球菌 Staphylococcus epidermidisだ。ほかにも数多くのブドウ球菌属細菌が皮膚に生息しており、表皮ブドウ球菌という名称はS. epidermidisを含む「コアグラーゼ陰性ブドウ球菌類」の総称として用いられることもある。

 新生児は無菌状態で生まれてくるのだが、産道で感染するほか、母親に抱かれ、頬ずりされるだけで皮膚細菌は簡単に赤ちゃんの皮膚に移動する(カビやニキビダニも)。新生児の皮膚には、おもにブドウ球菌属、レンサ球菌属 Streptococcus、ラクトバチルス属、そしてプロピオニバクテリウム属が共生するという[8]。しばらくすると産道由来の細菌の多くは消え、上記の細菌群が定着して、安定した皮膚細菌叢では表皮ブドウ球菌が優占するようになる。皮脂や湿り気の多い頭皮や腋下など、他のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が優占する部位もある。

 一方で皮膚には病原性の細菌もいる。黄色ブドウ球菌は通常は無害だが、皮膚表面が弱アルカリ性になると増殖し、湿疹を引き起こしたり、傷などに入り込んで化膿させたりすることがある。乾癬(皮膚が赤く厚くなって表面がはがれ落ちる皮膚疾患)を起こした皮膚には、黄色ブドウ球菌のほか、レンサ球菌属細菌も健康な人より多く見られるという[9]。

 それに対して表皮ブドウ球菌などの常在細菌は、皮脂を分解して遊離脂肪酸をつくり表皮表面を弱酸性に保つことで、黄色ブドウ球菌のような有害細菌や真菌などの増殖・侵入を防ぐ皮膚バリア機能の一部を担っていると考えられる。皮膚常在ブドウ球菌(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)のなかには、皮膚角質を分解して、有害細菌の定着・増殖を抑えるペプチド=一種の抗生物質をつくるものもある[10]。表皮ブドウ球菌は皮脂の代謝物であるグリセリンから乳酸などの短鎖脂肪酸をつくる[11]が、これらがアクネ菌の増殖を抑制するという報告もある[12]。

 表皮ブドウ球菌は皮膚の免疫応答にも重要な役割を果たしており、炎症を抑える働きをもつこともわかっていて[13][14]、いわば、皮膚細菌のなかの「善玉菌」だといえる。ただ表皮ブドウ球菌にはさまざまな系統があることが知られており、後述するようになかには「悪玉系統」もあるようだ。

皮膚細菌叢の乱れがアトピー性皮膚炎をもたらす

 以前から、アトピー性皮膚炎患者の患部には黄色ブドウ球菌が増殖していることが知られていた。黄色ブドウ球菌のつくる毒素が、角質細胞を刺激し、炎症を引き起こすらしい[15]。黄色ブドウ球菌の増殖には、表皮ブドウ球菌が減少して、皮膚細菌叢のバランスが崩れる「ディスバイオシス」が関係していると考えられるようになってきた。ディスバイオシスによって短鎖脂肪酸がつくられなくなり、弱アルカリ性の環境を好む黄色ブドウ球菌がふえることで、皮膚に炎症が起こった状態が湿疹であり、放置すればアトピー性皮膚炎を発症してしまう。一方で、アトピー性皮膚炎の患部には、異なる系統の表皮ブドウ球菌が増殖していたとする報告がある[16]。

 成育医療研究センターの研究報告でみたように、現在では食物アレルギーの予防のために、アトピー性皮膚炎の発症早期から速やかに治療を開始することが重要だと考えられるようになった。それ以前に、皮膚細菌叢のバランスを保ち、皮膚バリア機能を損なわないようにすることが重要なのだ。並行して経口免疫寛容を促進するためにも、離乳食時期を遅らせず、幅広い食品を与えたほうがよいと考えられている(すでにアトピー性皮膚炎や食物アレルギーを発症しているなら、専門医のアドバイスを受けてください)。

 そして乳幼児期に健全な腸内細菌叢を養うことが、経口免疫寛容を含む免疫反応の発達に寄与する。腸内細菌叢と皮膚細菌叢の免疫系を通じた関係は、「腸-脳相関(gut-brain axis)」になぞらえて「腸-皮膚相関(gut-skin axis)」とも呼ばれる。最近、アトピー性皮膚炎の発症や悪化そのものにも腸内細菌がかかわっている可能性を示す報告が相次いでいる。それについては次回紹介することにしたい。


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<文献>
[1] Hiroki Yasudo et al.:Association of walnut proteins in household dust with household walnut consumption and Jug r 1 sensitization, Allergy International, 72(4), 2023
[2]George Du Toit et al.:Randomized Trial of Peanut Consumption in Infants at Risk for Peanut Allergy, The New England Journal of Medicine, 372(9), 2015
[3] George Du Toit et al.:Effect of Avoidance on Peanut Allergy after Early Peanut Consumption, The New England Journal of Medicine, 374(15), 2016
[4] Tetsuhiro Sakihara et al.:Randomized trial of early infant formula introduction to prevent cow's milk allergy, The Journal of Allergy and Clinical Immunology, 147(1), 2021
[5] Kiwako Yamamoto-Harada et al.:Enhanced early skin treatment for atopic dermatitis in infants reduces food allergy, The Journal of Allergy and Clinical Immunology, 152(1), 2023
[6] 猪又直子:Dual allergen exposure hypothesis(二重抗原暴露仮説), アレルギー, 65(9), 2016
[7] Norito Katoh et al.:Japanese guidlines for atopic dermatitis 2020, Allergy International, 69(3), 2020
[8] Nonhlanhla Lunjani et al.:Recent developments and highlights in mechanisms of allergic diseases: Microbiome, Allergy, 73(12), 2018
[9] Xiaoqian Liang et al.:Interplay Between Skin Microbiota Dysbiosis and the Host Immune System in Psoriasis: Potential Pathogenesis, Frontiers in Immunology, 12, 2021
[10] Alexander Zipperer et al.:Human commensals producing a novel antibiotic impair pathogen colonization, Nature, 535(7513), 2016
[11] Neha Salgaonkar et al.:Glycerol fermentation by skin bacteria generates lactic acid and upregulates the expression levels of genes associated with the skin barrier function, Experimental Dermatology, 31(9), 2022
[12] Yanhan Wang et al.:Staphylococcus epidermidis in the human skin microbiome mediates fermentation to inhibit the growth of Propionibacterium acnes: Implications of probiotics in acne vulgaris, Applied Microbiology and Biotechnology, 98(1), 2014
[13] Shruti Naik et al.:Compartmentalized Control of Skin Immunity by Resident Commensals, Science, 337(6098), 2012
[14] Y. Erin Chen et al.:Decording commensal-host communication through genetic engineering of Staphylococcus epidermidis, boiRxiv, Posted June 10, 2019
[15] Seitaro Nakagawa et al.:Staphylococcus aureus Virulent PSMa Peptides Induce Keratinocyte Alarmin Release to Orchestrate IL-17-Dependent Skin Inflammation, Cell Host & Microbe, 22(5), 2017
[16] Allyson L. Byrd et al:Staphylococcus aureus and Staphylococcus epidermidis strain diversity underlying pediatric atopic dermatitis, Science Translational Medicine, 9(397), 2017

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