小澤祥司

環境ジャーナリスト/科学ライター 生物多様性保全、自然エネルギー、環境エネルギー政策、…

小澤祥司

環境ジャーナリスト/科学ライター 生物多様性保全、自然エネルギー、環境エネルギー政策、持続可能な地域社会などをテーマに執筆・講演。飯舘村放射能エコロジー研究会(IISORA)共同世話人、原子力市民委員会アドバイザー、高木仁三郎市民科学基金顧問、トウキョウサンショウウオ研究会会員。

マガジン

  • 新型コロナウイルスはどこから来てどこへ行くのか

    2023年5月8日をもって。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は「5類感染症」に移行し、社会は「新型コロナ以前」に戻りつつある。しかし、新型コロナウイルスによる感染者は出つづけており、死者も発生しており、ウイルスが人間社会から消え去ったわけではない。COVID-19の発生以来、世界中の研究者がCOVID-19と原因ウイルスの研究に取り組んできた。そのなかで多くのことが明らかにされたが、わかっていないことのほうがはるかに多い。なぜ、動物のウイルスがヒトに感染し、重い症状を引き起こすのか。新型コロナウイルスはどこから来て、どのようにヒトに感染したのか。パンデミックは完全に終息するのか。ウイルスは人間社会から消えてしまうのか、それとも残っていくのか……。  このウイルスの由来、そして行く末を知ることは、次の新たな動物由来感染症パンデミックに備えることである。

  • 腸内細菌に訊け!

    腸内には1000種類以上、100兆〜1000兆もの細菌(バクテリア)が生息し、ホストである私たちと共生関係を結びながら、免疫系の発達や調節にかかわり、心身の健康に重要な役割を果たしていることがわかっています。そのバランスが崩れると、体調をくずすばかりでなく、さまざまな病気を引き起こすこともあります。そんな腸内細菌についての最新情報を不定期にお届けするマガジンです。 『うつも肥満も腸内細菌に訊け!』、『メタボも老化も腸内細菌に訊け!』(以上、岩波科学ライブラリー)、『からだとこころの健康を守る腸内細菌入門』(電子書籍)もぜひお読みください。

最近の記事

家族の再生をめぐるタイムループ・ミステリー

<ブックレビュー> 『ロング・プレイス、ロング・タイム』 ジリアン・マカリスター著 梅津かおり訳  弁護士のジェンは、亡父が設立した事務所を引き継ぎ、内装業者の夫ケリーと18歳になる息子トッドの3人で、イギリス・リバプール郊外に慎ましくも幸せに暮らしていた。ところがハロウィーンを控えた夜、深夜に帰宅したトッドが家の前で、見知らぬ男をナイフで刺し殺してしまう。トッドは、その場で警官に逮捕された。パニックに陥ったジェンは、ケリーとともに警察署へ向かうが、息子と面会することもで

    • 飲み物に含まれるマイクロ/ナノプラスチックは予想以上に多いのかもしれない

       アメリカ・コロンビア大学のウェイ・ミン博士らが、従来より10分の1~100分の1の微細プラスチック片を検出できる技術を用いて市販のボトル水を調べたところ、平均して1㍑あたり2万4000個ものプラスチック片を検出したと、今年1月、『米国アカデミー紀要(PNAS)』に発表した( Naixin Qian et al.:Rapid single-particle chemical imaging of nanoplastics by SRS microscopy, Proceedi

      • 新型コロナウイルス──オミクロン系統の新たな変異株JN.1が流行の主流に

         新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」上の5類感染症に移行して8か月が経過した。社会は「コロナ禍」以前の状態をほぼ取り戻したが、新型コロナウイルスが消えてしまったわけではない。いまだに感染流行はつづいており、免疫をくぐり抜けやすく、より感染が広がりやすい株へと、変わらず変異を繰り返している。  日本では、定点医療機関あたり感染報告数・入院患者数とも昨年11月を底に増加に転じた(国立感染症研究所感染症疫学センタ

        • 食物アレルギーは皮膚から──皮膚細菌と腸内細菌との複雑な関係(2)

          食品成分を「異物」として排除しないしくみ  口から入ってきた食物成分に対して免疫系が反応しないように抑制する「経口免疫寛容」というしくみについて、前回簡単に紹介した。これをつかさどるのが、制御性T細胞(Treg)という免疫細胞だ。T細胞は免疫細胞のうちリンパ球と呼ばれるものの1つで、ヘルパーT細胞と細胞障害性T細胞という2種類が知られていたが、1980年代から2000年代にかけて、坂口志文博士(現・大阪大学栄誉教授)が制御性T細胞の存在と機能を明らかにした。ヘルパーT細胞は

        家族の再生をめぐるタイムループ・ミステリー

        • 飲み物に含まれるマイクロ/ナノプラスチックは予想以上に多いのかもしれない

        • 新型コロナウイルス──オミクロン系統の新たな変異株JN.1が流行の主流に

        • 食物アレルギーは皮膚から──皮膚細菌と腸内細菌との複雑な関係(2)

        マガジン

        • 新型コロナウイルスはどこから来てどこへ行くのか
          14本
        • 腸内細菌に訊け!
          4本

        記事

          食物アレルギーは皮膚から──皮膚細菌と腸内細菌との複雑な関係(1)

          ハウスダスト中の食物成分とアレルギー  ヒトの免疫系は、簡単にいえば「異物=非自己を排除するしくみ」だ。ウイルスや細菌、寄生虫、さまざまな生物由来毒素、がん細胞など──実際にはそれらを構成するタンパク質や多糖類の一部である分子──を自分自身を構成するものとは異なると判断して排除し、感染症や中毒、がんなどから、からだを守るのである。免疫系が反応する分子を抗原という。しかし、ここで困ったことがある。食物のなかにも抗原となりうるさまざまな分子が含まれている。それらにいちいち反応し

          食物アレルギーは皮膚から──皮膚細菌と腸内細菌との複雑な関係(1)

          清涼飲料に含まれる「糖分」が腸内細菌を通じてメタボリック症候群を引き起こす

           9月7日の記事で、腸内細菌叢の変化(ディスバイオシス)が腸管バリア機能を低下させ、非アルコール性脂肪肝や肝硬変、さらには肝がんを引き起こす可能性があるという研究報告をいくつか紹介したが、その原因の1つとして、砂糖(ショ糖や異性化糖)の過剰な摂取がクローズアップされてきた。  一般に「砂糖」と呼ばれているものは、サトウキビ(甘蔗)やテンサイ(甜菜)から精製されるショ糖だが、異性化糖はトウモロコシなどのデンプンを酵素や酸などで分解したブドウ糖液から、さらに酵素などを使って果糖

          清涼飲料に含まれる「糖分」が腸内細菌を通じてメタボリック症候群を引き起こす

          肝がんの発症や進行に腸内細菌が関与か

           男性では、罹患率・死亡率ともに5位にある肝がん(正確には肝細胞がん)の発症や進行に、腸内細菌が関与しているという研究報告が、日本の研究機関から最近(2022~2023年)あいついで発表されている。  いまや男性の65.5%、女性の51.2%が、一生のうちになんらかのがん(癌)に罹り、男性の4人に1人、女性の6人に1人はがんを原因として亡くなる(国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」)。国民病ともいわれるまでになったがんだが、膵がんなど一部のがんを除き、治療による

          肝がんの発症や進行に腸内細菌が関与か

          新型コロナウイルスはどこへ行くのか

          <第14回>  日本では、2023年5月8日にCOVID-19が「2類相当」から「5類感染症」に移行し、季節性インフルエンザ並みの扱いとなった。それ以前は、毎日感染者数や死亡者数が報告・発表されていたものが、定点医療機関からの週1度の報告に基づいて感染者数が公表されるだけとなった。国内の全感染者数は正確には把握できず、「定点あたり」で増減を判断するしかなくなった。感染を防ぐための行動制限はなく、陽性者も陽性者の家族など「濃厚接触者」も外出自粛は求められない。マスク着用も自己

          新型コロナウイルスはどこへ行くのか

          強毒ウイルスを生み出すコウモリの免疫系

          <第13回>  第2回および第3回でも書いたように、SARS-CoV-2の起源動物はコウモリ(キクガシラコウモリ属)でほぼ間違いないと多くの研究者は考えている。エボラ出血熱、ニパウイルス感染症、ヘンドラウイルス感染症、SARS、MERS、そして今回のCOVID-19と、新興感染症には原因ウイルスがコウモリ類由来のものが少なくない。古くからある狂犬病もそうだ。幸い人間に感染することはなかったが、2017年に中国広東省で養豚場の子豚2万4000頭以上を死に至らしめた、ブタ急性下

          強毒ウイルスを生み出すコウモリの免疫系

          奇妙な変異株オミクロン

          <第12回>  日本では、2023年5月8日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が感染症法上の「第5類感染症」に移行してからも感染者数がふえつづけており、7月に入って日本医師会が「現状は第9波と判断するのが妥当」と発表した[1](ただし、数日後政府はこれを否定)。第5類移行で全数把握されなくなり、定点あたり報告数から推測するしかないが、6月、7月と明らかに感染者数は増加している。この波をもたらしたのはオミクロン変異株の亜系統であるXBB株の下位系統XBB.1.5お

          奇妙な変異株オミクロン

          パンデミックをもたらした「D614G変異」

          <第11回>  SARS-CoV-2は変異しつづけている。初期に採取されたPANGO系統分類のA系統(A株)とB系統(B株)のうち、その後世界的に広がったのはB株だった。2020年のはじめ、そのB株からB.1株が派生する。はっきりとはわかっていないが、出現時期は1月はじめと考えられており、おそらく中国国内で出現して、それが旅行者とともにヨーロッパにもたらされた。イタリアでは、2020年2月から3月にかけて北部のロンバルディア州や隣接するエミリア・ロマーニャ州を中心に爆発的な

          パンデミックをもたらした「D614G変異」

          最初の感染はいつ、どこで、どのように起こったか

          <第10回>  これまでのところ、SARS-CoV-2の起源にかんしては、野生動物か研究所漏出か、2023年6月現在、結論は出ていない。多くの研究者は野生動物起源と考えているが、その決定的な証拠はない。そこで、感染のはじまり(大元)を探ろうと、さまざまな方面からの研究が試みられている。その1つが、進化生物学や生物情報科学(バイオインフォマティックス)からのアプローチだ。  SARS-CoV-2の遺伝情報を収めたRNAには、3万弱のヌクレオチド(塩基とリン酸基を糖がブリッジ

          最初の感染はいつ、どこで、どのように起こったか

          野生動物取引と動物由来感染症のリスク

          <第9回>  A型インフルエンザウイルス同様、ヒトコロナウイルスも人獣共通感染症=動物由来感染症であり、オリジナルはすべて動物にある。すでに書いたように、SARS-CoVはコウモリが自然宿主でありハクビシンあるいはタヌキを介してヒトに感染したと推測されている。MERS-CoVもまたコウモリ由来で、ヒトコブラクダが媒介したことがほぼ確実である。  これに対してOC43の自然宿主はネズミの仲間だと、武漢ウイルス研究所のシー・ジェンリー博士らが2019年に発表している[1]。O

          野生動物取引と動物由来感染症のリスク

          19世紀の「ロシアかぜ」の原因はコロナウイルスか?

          <第8回>  スペインかぜに先立つこと四半世紀、記録が残る最初の呼吸器感染症パンデミックとされるのが、19世紀末、1889年〜1893年にかけて世界中でおよそ100万人を死亡させたといわれる「ロシアかぜ(Russian flu)」である(表参照)。ただし確実とはいえないが、歴史上の文献からは、インフルエンザによるパンデミックが1510年以降、何度か発生したと考えられている[1]。  ロシアかぜパンデミックは、1889年5月に当時ロシア帝国領だった中央アジアの都市ブハラ(現

          19世紀の「ロシアかぜ」の原因はコロナウイルスか?

          人獣共通感染症としてのコロナウイルス

          <第7回>  21世紀の初頭、ヒトに感染するコロナウイルス(ヒトコロナウイルスHCoV)として知られていたのは、HCoV-229E(229E)とHCoV-OC43(OC43)の2種類だけだった。両者は1960年代に相次いで確認された。229E、OC43とも、研究者のサンプル番号に由来する。OCは組織培養(Organ Culture)のイニシャルである。  後述するHCoV-NL63(NL63)、HCoV-HKU1(HKU1)と合わせ、かぜの症状をもたらすウイルスとして秋か

          人獣共通感染症としてのコロナウイルス

          100年前の「スペインかぜ」パンデミック

          <第6回>  インフルエンザウイルスによる歴史的なパンデミックが、1918〜1919年にかけて流行した「スペインかぜ」だ。スペインは発生国でもないし、最大の流行国でもなかったが、ヨーロッパは第一次世界大戦の真っただなかで、参戦国では報道統制により感染者や死者の報告が公表されなかった。それに対して中立国であったスペインでは統制がなかったため、まるでスペインだけで流行していたように見えた。それで、スペインにとっては不名誉なことだが、こう呼ばれるようになったのだ。  最初のアウ

          100年前の「スペインかぜ」パンデミック