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歩く力。

尾瀬小屋は木曜日と日曜日に歩荷さんが荷物を背負って来てくれます。今日はその歩荷さんの運搬日だった。

歩荷(ぼっか)という言葉に聞きなれない人の方が多いと思うが、主に山岳地帯の山小屋に歩いて荷物を運ぶ仕事である。それが歩荷というお仕事だ。背負子(しょいこ)と呼ばれる道具に、荷物を何段にも積み重ね、片道10キロ近くある距離を荷物を担いで歩いて運んで来て下さるのだ。自分の山小屋スタッフが歩荷をしたり、ボランティアさんが歩荷をしたりする山域はあるが、シーズン通して6人もの歩荷さんが生業として働いている山域は尾瀬くらいであろう。現在では車で行ける車道が整備されたり、ヘリの物輸技術が向上しているので、尾瀬国立公園の物資輸送はヘリコプターと歩荷さんの二つの手段となっている。

日本青年歩荷隊の石高さん 2023.6.8撮影

今日の歩荷さんは、石高徳人さん。
彼は日本青年歩荷隊という組織のリーダーで、日本中で歩荷業をしている。若くして歩荷という職業を選択し、自身の組織を作り上げたガッツある若者だ。
普段は80キロ程度の荷物を担ぎ、最盛期の夏には100キロ近くになり、最大で140キロを担いだこともあるスーパーマンだ。尾瀬シーズンの4月下旬から10月末までの間、6人の歩荷さんで10軒の山小屋に野菜や肉、日用品などを届けます。我々の小屋だけで総重量4トン~5トンほど運んで下さっている計算になります。週6回、鳩待峠から台風でもない限り荷物を運び続けてくださる。どんな角度や視点で捉えても、ありがとうを超越する仕事なのだ。

ベテラン五十嵐さん 2023.6.7撮影

もっと歩荷さんのお仕事を知ってもらいたい、山小屋で提供される物資価値を理解してもらいたいとの想いで、この三年間歩荷さんの姿を撮り続けている。
小屋の仕事をしながら歩荷さんが来る時間を逆算し、行けそうなタイミングで見晴付近の湿原にダッシュして歩荷さんを写す事が多い。彼らからしたら、僕を見て、あっまた工藤来たなくらいに思っている事でしょう。力強さ、過酷さ、優しさなど自然体の表情を写すには、歩荷さんとの信頼関係を築き上げる事が大事で、ありがとうを全力で伝え、会話を重ねて彼らの仕事に貢献する。そういった絆がなければ無理だろう。

リーダー渡辺さん 2022.7.14撮影

渡辺さんは、歩荷歴36年の超人だ。
尾瀬と共に歩み、尾瀬の歴史の一部を担う重要人物だ。とにかく、渡辺さんの笑顔は素晴らしい。
歩いている時の覇気と、話した時に発する笑顔のギャップはレンズ越しでも身震いするレベルだ。一歩ずつ進む目の前の歴史をリアルに撮影していると思うと、幸せな瞬間に立ち会っているのだと感じる。渡辺さんは冬の間、土田酒造で蔵人として働きながら『歩く荷』というレザー工芸にも挑戦している。一品ずつ丁寧に仕上げられたカウベルなど人気商品が揃っているので是非ともチェックしてほしい。

歩荷YouTuber萩原さん2023.6.7撮影

養蜂家、歩荷として活躍する環境活動家。
去年から始めたYouTubeチャンネルJapaneseporterは、人気チャンネルとなり多くの支持を得ている。
今年チャレンジしたクラウドファンディングでは、発起人として成功を納め今は尾瀬のアイドル的存在だ。是非この若いエネルギーを俯瞰的な温かい目で見守って欲しい。失敗も成功も、彼らの糧になるはずです。

2022年行われた歩荷感謝祭

尾瀬小屋は、山小屋グルメというキーワードを使って、国立公園のPR、鹿の食害訴求など、食が持つ力を最大限活かして山小屋が持つ可能性の模索と、国立公園の活性化に取り組んでいる。その中で、食材が届かないという事はそもそも論で、我々の取り組みはテーブルにも乗らない話なのだ。逆を言えば、山小屋が経営難に陥り、食事提供や売店営業がなくなった場合、歩荷さんの荷物はなくなり歩荷さんの職業存続も危ぶまれる。だからこそ、どちらが欠けても成立しない絶妙なバランス関係で保たれているのが尾瀬歩荷と山小屋だ。一蓮托生とはまさにこのことである。
もしかしたらこの先、更なる物資輸送技術が発達し、ドローン輸送などが始まるかもしれない。でも、尾瀬歴史の一部でもある歩荷文化は絶対に継承していくべきものだと私は考えている。

何が正解かなんて今は明確な答えはないけども、私が見てきた世界でハッキリ言えることは、彼ら歩荷さん達は職業に高き誇りを持ち、荷物だけでなく尾瀬の歴史を運んでいるという事。その彼らが望む事を私は全力で支援するという事だ。

出来る事なんて微々たるものだけど、彼らの仕事を世の中に伝え続けること、夢に繋がる活動資金を蓄えてあげる事、イベントなどを開催して売上を還元したり、直接ありがとうが伝わる場を設けることくらいしか私には出来ない。それも必要かどうかも分からないけど、僕がやりたいからやる。ただそれだけでいいよね。そう思いながら私自身もゆっくりと歩いている。

尾瀬小屋
工藤友弘

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