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Yes / Close to the Edge (危機)

■Yes / Close to the Edge
■収録曲:Side 1 - Close to the edge(i.The solid of change ii.Total mass retain iii.I get up I get down iv.Seasons of man)(18:12) // Side 2 - 1.And you and I(i.Cord of life ii.Eclipse iii.The preacher the teacher iv.The apocalypse)(10:09) 2.Siberian Khatru(8:57)
■パーソネル:Jon Anderson(vo) Chris Squire(b) Bill Brufford(dr) Steve Howe(g) Rick Wakeman(key)
■リリース:1972年9月
■カバー・アート:Roger Dean

 PCの隅から、昔作ってたイエス関係のHPの残骸を見つけました。ロック史における最重要アルバムなので、長文注意です!

 イエスが危機をレコーディングした時期は、第3回アメリカ・ツアー(1972年2月15日〜3月27日)の後の6月ころでした。ロンドンのアドヴィジョン・スタジオでツアーの合間を縫うように断片的に録音が続けられたようです。危機等の楽曲は、最初から今聴けるような構成で譜面等が出来上がっていたのものではなく、パートの録り直し等々でメンバー間の確執があったようで、これを曲として纏め上げたのはプロデューサー兼エンジニアのエディ・オフォードの手腕でした。当時は、コンピューターはありませんでしたから、彼が、アナログ録音されたテープを切り貼りして曲を完成させたのだそうです。気が遠くなりますね。

 こうした最中に、ビル・ブラッフォードがイエスを脱退しました。真相は不明ですが、脱退に関するインタビューの断片を拾ってみると次のようなことが分ります。エディ・オフォードは、ビルは好きだったけど、イエスにはロックっぽさが必要だとしてアラン・ホワイトを推薦したと話しています。イエス内の大勢側がビルを脱退させたのでしょうね。クリスのインタビューには、「以前からちょっと弾きすぎていた。アランになってそんなに弾かなくても自分の音が前に出るようになった。」というものも見られます。ビル・ブラッフォードが叩きすぎているのでバンドのバランスが悪いとでも感じていたんですね。アランは、シベリアン・カートゥルのレコーディング前に一度イエスとセッションをしています。ビルも、当時他のメンバーと上手くいっていなかったというようなことを言っています。さらに、ビルは、ジャズのようなアドリブ演奏を志向していたようで、当時、クリムゾンの方が面白そうに見えたと言っています。メンバーのインタビューについては、ティム・モーズ著のイエスストーリーズがオススメです(もう手放してしまいましたが・・・)。こうして、1972年7月22日、Melody Maker誌の表紙にキング・クリムゾンのメンバーとしてビル・ブラッフォードが紹介されました。見出しはYES MAN TO JOIN CRIMSONでした。

 一方、アランホワイトは、アラン・ホワイトがジョー・コッカー&クリス・ステイトン・オールスターズのヨーロッパ・ツアーの最中に加入を要請され、しかも、同ツアー終了後わずか1週間でイエスの全曲をマスターしてアメリカ・ツアーに加わったのだそうです。

 1972年9月8日、第5作、Close to the edgeが発売されました。Close to the edgeは、前作及び前々作でブレイクしたイエスの名声そして力量を決定付けた極めつけの1枚であるとともに、大作志向の第1歩でもありました。アルバムの構成は、LP当時A面1曲、B面2曲の3曲です。メジャーどころの大作としては既にPink Floyd/Atom Heart Mother(1970.10)、King Crimson/Lisard(1970.12)、Pink Floyd/Echoes(1971.11)が存在し、Close to the edgeの直後にGenesis/Supper's Ready(1972.10)も発表されていまして、当時は、ロック・シーン全体に大作志向が見られます。Lisardへのジョン・アンダーソンの参加が影響しているかどうかは分からないのですが、ついに、イエスも大作時代に突入したわけです。

 Close to the edgeは、ジョンアンダーソンの観念詩を題材にした4部構成の楽曲であり、数多い小曲を寄せ集めた組曲形式のもではなく交響曲的に非常によく練られた曲であるように聞こえます。しかし、実際には、前掲のような作られ方をしたものが結果的にそうした完璧なものとして仕上がったものであったようです。また、ジョンの歌詞についていえば、ジョンがインタビューで、危機の歌詞は美しい死に関するものである旨、そして中間部の荘厳なオルガンがムーグでぶち壊されてロックっぽいソロに入るあたりについて、教会への反感の現れであるというようなことを述べています。ジョンの頭の中はぶっ飛んでいてよくわかりませんので、以下、曲に関する単純な感想です!

Close to the edge
 冒頭、「i)着実な変革」では、小川のせせらぎと鳥のさえずりを導入部にしてスティーヴ・ハウのギターの見せ場がいきなり登場します。数回ジョン・アンダーソンのヴォイスでブレイクした後テーマの序奏が奏でられてヴォーカル・パートに移ります。
 「ii)全体保持」は着実な変革のメロディーを保持しながら、クリス・スクワイアのベースを前面に出した力強い演奏となります。ビル・ブラッフォードのドラムスとの相乗効果でリズムを強調した、曲中最もヘヴィーな演奏ですね。私は、オーディオの音の出方を実はこのクリスのベースがちゃんと再生できているかで測っていまして、今のシステムはなかなかいい感じで鳴ってくれています。ちなみにソースの音ですが、写真の1972年国内盤はスカスカです。UK初盤は持っていないのでわかりませんが2001年リマスターのミックス・バランスが最も自然で聴きやすいので、普段はそれを愛聴しております。
 「iii)盛衰」はトーンダウンし水滴のしたたり落ちるような音を効果的に使い、コーラスを交えてジョン・アンダーソンの澄み渡るヴォイスを浮き立たせるパート。そして、後半リック・ウエイクマンのチャーチ・オルガンが高らかに鳴り響きます。
 そして、「iv)人の四季」のアンサンブルに突入、リック・ウエイクマンのオルガン・ソロ・パートに移行します。・・・曲の流れを単に説明してみただけですが、何て完璧な構成なんでしょうね。リックのオルガン・ソロは、テーマに沿ったソロながら、以降のソロ・アルバムで爆裂する独特のフィンガリングの片鱗を感じさせるものです。このソロは、元はギター・ソロの予定だったようですが、オルガン・ソロの方がよかったので差し替えられたのだとか。つづくヴォーカル・パートはフィナーレに相応しい力強いもの。I get up,Iget downのリフレインの後、再び小川のせせらぎで幕を閉じます。・・・もう、完璧です!やはりエディ・オフォードは偉大ですね。ジャケットの裏面右上にメンバーの写真と並んで載っている写真がエディです。彼なしでは、この曲は世の中に存在しなかったわけですね。また、以降のイエスの大作も世に出なかったでしょうし・・・感謝、感謝です!

And you and I
 ・・・同志は、牧歌的なアコースティック・パートと、キーボードによる厚みのあるオーケストレーションとの対比が鮮やかな曲です。ジョン・アンダーソンのヴォイスが透き通って響きます。ジョンが3コードで作った曲が元になり、それをメンバーで拡大していって曲が出来上がったようですね。一言で言うと悟りの曲とでもいった感じでしょうか。ジョンはPolitical endsas sad remainswill dieの歌詞に思い入れがあるようです。私が好きなフレーズは、all complete in the sight of seed of life with youです。イントロでは、スティーヴ・ハウがハーモニクスでチューニングの確認をしているような場面から、続いて曲が始まるところがライヴな感じでいいですね!素人ギター弾きとしては、このイントロの部分を、夜中に静寂の中で弾いてみると気持ちいいですよ~。ためにためて押さえ間違うとすごく間抜けな感じになりますが・・・。

Siberian Khatru
 シベリアン・カートゥルは、アルバム中最もハイ・テンポでロック色の強い曲です。途中、アルプス一万尺だろうと思うのですが、あのフレーズが出てきてビックリします。ステージではオープニングに使われることが多い曲です。スティーヴ・ハウが気に入っているようですね。2003年のフルサークル・ツアーの来日公演でも最初に演奏されましたね。同ツアーではイントロをハウ爺が異常に遅く弾くので、ちょっと引いてしまいましたが(^^;;

 内ジャケットに描かれたロジャー・ディーンの絵画も完璧ですね。こわれものに描かれた世界の延長線上にある異空間です。CDの見開きでは細い線が潰れ、紙質から微妙なトーンが味わえないので、ロジャー・ディーンのファンの方は是非LPの入手をお薦めします。てもとのLPは大分傷んでいるので、そろそろ新調しないといけないかなぁと・・・。アルバム危機の3曲は、この内ジャケの絵をぼんやりと眺めながら聴いてこそ、ジョン・アンダーソンの観念世界にトリップ出来るような気がするのですがどうでしょう(^^ゞ


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