【しをよむ094】まど・みちお「おさるが ふねを かきました」——しっぽをつけましょ。

一週間に一編、詩を読んで感想など書いてみようと思います。

まど・みちお「おさるが ふねを かきました」

石原千秋監修、新潮文庫編集部編
『新潮ことばの扉 教科書で出会った名詩一〇〇』より)

なんだかひたすら和む詩です。
いとうひろしの絵本「おさるシリーズ」を思い出すような。
南の島でバナナを食べて暮らすおさるさんたちのお話。
ゆるい雰囲気の絵もイメージぴったりです。

樹の上から見た、遠い洋上の船でしょうか。
それとも時々やって来るちいさな連絡船や観光船でしょうか。
それとも(絵本に出てきた)ウミガメのおじいさんから聞いた、クジラよりも大きくて一日中かけてもおしりが見えない豪華客船でしょうか。

バナナも食べ終わってのんびりした気分のときに、木の枝を拾ってなんとはなしにお絵かきを始めて。
きっと、おさるが知っているのは海に浮かんでいる姿だけで、
船底は想像で描いているのでしょう。
泡を集めて雲にして、煙突からもこもこ出しているのかなあ、とか
考えているのかもしれません。

人間がなにかキャラクターを作るときに、まず目を、そして手をつけるように、
おさるにとっては「しっぽ」が感情移入するための必須アイテムのようです。
なんにもないとさびしいから、しっぽ。
見えない波の下に、しっぽ。
「しっぽ」という響きも愛嬌がありますね。
『家にある物にたぬきの尻尾をつけると心に余裕ができる』というネット記事を思い出しました。

「ほんとに じょうずに かけたなと
 さかだち いっかい やりました」
というのも頑是なくてかわいいです。
できたできたー、とひとりでにまにましている感じ。

これから寒い季節がやってきますが、
この詩を読み返すとなんとなく南の島のおさるさんを思って
ほわっと暖かくなれる気がします。

お読みいただき、ありがとうございました。
来週は石垣りん「シジミ」を読みます。

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