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【レポート】東京芸術祭2023 ファーム スクール:学生トークサロン①「同世代とつながり、お互いの活動を知る」

2023年10月11日、東京芸術祭2023 ファーム スクール:学生トークサロンの第1回目が開催されました。
東京には様々な方法で演劇について学ぶ機関がありますが、それぞれが関わりを持つ場はあまりありません。コロナ禍を経て舞台芸術に触れる環境が変化する中、学校の枠を超えて東京の舞台芸術の「いま」に触れ、同世代の学生やプロフェッショナルの人々との交流の場を提供する全3回のプログラムです。
今回のテーマは「同世代とつながり、お互いの活動を知る」。東京芸術劇場の一角に設けられた「芸術祭ひろば」に集まった参加者とのやりとりの一部を、レポートにてお伝えします。

参加者
Aさん
アートプロデュース専攻の大学3年生。大学では様々なジャンルの芸術表現を学びつつ、プレゼンテーションやデザインなど、プロジェクトを運営する上で必要なスキルもあわせて学んでいる。今年の文化祭でサークルの旗揚げ公演を実施。

Bさん
演劇学専攻の4年生。主に座学で演劇の理論や歴史を勉強しながら、サークル活動で演劇を実践。3人で主催をしている劇団と、小規模に思いついたことを気軽に試せる劇団、2つの団体に所属し、演出を担当する。

Cさん
写真専門学校の1年生。中国出身。身体表現に興味があり、自分でパフォーマンスを行い、その様子をセルフポートレートとして撮影する作品を制作。

Dさん
大学で演劇のサークルに所属し、卒業後に一度就職をして3年ほど働いたのち、今年の4月から劇場が運営する2年制の演劇学校に通い始める。演技や演出などの実技と、演劇の歴史、劇場運営やファンドレイジングといった座学をどちらも学ぶ。

ファシリテーター:藤原顕太(一般社団法人ベンチ)
アシスタント・ファシリテーター:関あゆみ

舞台芸術との関わり 〜きっかけから今の関心まで〜

まずは自己紹介として、「演劇に興味を持ったきっかけ」「いま関心があること」のふたつをテーマに話が始まります。

Aさんの通う大学には、美術・音楽・演劇・映像など様々な表現を学ぶカリキュラムがあります。その中で演劇の授業が一番しっくり来て、パフォーミングアーツを中心に活動することを決めたそうです。「私は多層構造がすごく好きで。同時多発でいろんなことが舞台上で起こるような表現をやってみたいです」

演劇の理論を学ぶBさんは、小さい頃から芸術全般に興味を持っていました。その中でも特に、音楽・演技・舞台美術など、複合的な芸術表現であるミュージカルが好きでよく見ていました。友人が出演していたことをきっかけに見た演劇作品に衝撃を受け、そこから演劇にのめり込むようになりました。

身体表現に興味のあるCさんは、舞台芸術には「怖さ」があると言います。日本に来てすぐの頃はあまり勉強する気が起きず、よくナイトクラブに遊びに行っていたそうです。そこで見たドラァグクイーンのショーやヴォーギングといった表現に強く惹かれていきます。「パフォーマンスを見て、舞台上の表現は怖いな、と思いました。子どもの頃、特別な日におばあちゃんが連れて行ってくれた町の伝統劇を思い出して。パフォーマーのお化粧や動きは、日常にはないものです。日常と表現の境界線について考えていきたいです」

Dさんの原体験は、通っていた中高一貫校の学園祭。高校3年生の際、演出として演劇に携わったときの楽しさが忘れられず、大学では演劇サークルに入りました。卒業後は就職をしたものの、もう一度演劇をやってみようと、関西から上京し、演劇学校に入学します。「演出として本番を客席から見る充実感と同じくらい、俳優として本番前の幕裏で待っている時間とか、俳優同士の輪ができる瞬間も好きで。どちらも諦めずにやってみたいんです」

理論を学ぶひと、実践を積み重ねるひと、写真という他の表現手段から舞台を見るひと、さまざまな視点から舞台芸術に興味をもつメンバーが集まる中で、それぞれ「演出」に興味があるという共通点が浮かび上がってきました。そこから「演出の学び方」について、話が展開します。

「演出は教えられない」?

旗揚げ公演を間近に控えたAさんは、俳優として公演に関わる中で、演出や脚本に興味を持ち始めたそう。「でも、どこから何を始めたら良いのかわからなくて」と話し始めます。「脚本も書く演出の方が多いから、私も書いた方が良いのかな、と思ったり。演出の仕方の教科書もないし、どうしたら良いんだろう」

演劇学校に通うDさんは「先輩や先生に聞いても、『演出は教えられない』と言われてしまいました」と同意します。演出の授業自体はあるものの、舞台配置の設計から考える人がいたり、どういう感情で台詞を言うかを重視する人がいたり、人それぞれやり方が違う現状を共有しました。

藤原さんからは、脚本も演出もひとりが担当する「作演」というやり方は、日本国内ではよく見られるが、世界的に見ると必ずしもスタンダードではない、というコメントがありました。「ひとつの答えがあるわけではなく、演出家ごとに方法論をつくっていく面白さもありますよね。いろんな演出家のお話を聞いて、ヒントをもらいながら自分の現場で試していくことが大事かもしれないですね」

舞台とハードル

会の後半は、「演劇活動をする上でもやもやすることはありますか」という藤原さんの問いかけから。

留学生のCさんは、演劇を見に行くこと自体にハードルがあると言います。「映画と違って、演劇には字幕があまりないです。演劇は対話を理解することが重要ですが、外国人にはちょっと難しいです。だから、あまり見に行くことができなくて」

Dさんは、小劇場の演目を見に行った際に、通路が座席として詰められ、途中で退出するのが難しい空間での観劇に不安な気持ちを覚えた経験から、「安全な上演」について考えるようになったと語ります。Aさんも、光の点滅や大きな音が伴う作品を鑑賞した際に似たような経験をしました。外からの刺激にあまり強くない友人が、フードをかぶり下を向いてやり過ごしていた様子を見た際「作品内容の事前告知があればよかったのかも」と考えたそうです。
そういった経験から、Dさんが主催する公演では、大きな音や派手な効果を用いた演出を行った際、音の感じ方などを元に席を色分けしたものを受付に掲示することで、安全に観劇できる工夫を試してみたという実践も共有されました。

障害のある方との活動を長くされてきた藤原さんは、これまでの話を受けて「舞台芸術はつくる側と見る側のコミュニケーションで成立します」と話し始めます。舞台芸術には暗黙のルールがたくさんある中で、藤原さん自身は「車椅子に乗っているAさんはこの作品をどうやって見られるだろう」と、具体的なひとりを思い浮かべてからルールの見直しを行ってきたそうです。「全ての人の困難さに対応できる作品をつくることはできませんが、お客さんが相談しやすい環境をつくることは大切だと思います。もし100%満足できる体験を提供するのが難しいと思ったときも、どういうふうに鑑賞を楽しんでもらえるかを当事者の方と一緒に考えて、提案できる仕組みがつくれると良いですね」

おわりに

自分が所属する機関についての説明や、その中でそれぞれが何に興味を持って活動しているのか、そして活動する上での悩みなど、幅広いテーマに触れながら、あっという間に1時間半が終了しました。お互いの話に丁寧に耳を傾け、議論を重ねる姿が印象的でした。ここでの対話がそれぞれの日常に持ち帰られ、また新たな会話が生まれることを期待しています。

写真:古田七海
テキスト:関あゆみ