見出し画像

【レポート】東京芸術祭2023 ファーム スクール:学生トークサロン② 「アーティストと話し合い、作品を考える」

2023年10月15日、東京芸術祭2023 ファーム スクール:学生トークサロンの第2回目が開催されました。
東京には様々な方法で演劇について学ぶ機関がありますが、それぞれが関わりを持つ場はあまりありません。コロナ禍を経て舞台芸術に触れる環境が変化する中、学校の枠を超えて東京の舞台芸術の「いま」に触れ、同世代の学生やプロフェッショナルの人々との交流の場を提供する全3回のプログラムです。
今回のテーマは「アーティストと話し合い、作品を考える」。高校生、大学生、演劇の専門学校などさまざまな年代や背景をもつ方が集まりました。

前半では、10名の参加者が3名程度のグループに分かれ、東京芸術祭2023上演作品のロロ『オムニバス・ストーリーズ・プロジェクト(カタログ版)』を鑑賞した感想を共有しました。


後半は、本プログラムの設計を行った藤原顕太さんがファシリテーターとなり、ゲストにロロ主催の三浦直之さん、俳優の端⽥新菜さん、東京芸術祭プログラムディレクターの長島確さんをお迎えし、作品の裏話や創作プロセスを伺いました。

ここからは、トークイベントの様子を対話形式でお届けします。


プロフィールの役割

参加者:この作品はプロフィールからシーンをつくる形式でつくられていますが、プロフィールに書かれている設定がそのままいかされている人もいれば、必ずしも舞台上で明言されていない人もいて。全てが見えてこないからこそ、「もしかしたら現実にいるかもしれないな」と想像できる余地がありました。
また、緻密なプロフィール設定がある50人を、俳優の皆さんはどのように役作りをしていたのか気になりました。

三浦:この作品を見終えて街に出たときに、そこを歩いている人を見るまなざしが変わるといいな、と思って作品をつくっていたので、そのような感想をもらえてとても嬉しいです。プロフィールについては、その存在がシーンを書くことへの制約になってしまったら面白くないな、とは思っていて。プロフィールを読んで思いついたことをシーンにするのであって、それを説明するためにシーンをつくることはしないようにしていました。

端田:役作りはあまりしていないと言えばしていませんでした。観劇した友人から「俳優にとってプロフィールはどのくらい大事なの」と聞かれたときに、料理に入れるハーブみたいな感じだと思ったんです。そう伝えたら「それはとても大事ね!」と返信をもらいました。
そもそも最初は誰がどの役かは決まっていなくて、性別や年齢も限定せずに、みんなで試す中で少しずつ決まっていきました。お気楽で良かったのが、配役が決まったら、その度に祝福することになっていて。「このプロフィールは○○さん、お願いします」と決まると「わー!やったー!」「おめでとうございます!」と言いあっていました。

参加者:あるシーンの背景にいた人が、別の場所ではメインになっていたり、それぞれの話がパズルのようにつながっていくのがとても素敵でした。シーンごとのつながりは、最初からある程度決まっていたのでしょうか。

三浦:シーン同士が呼応していく瞬間をたくさんつくっていきたいと思っていましたが、執筆段階ではどういう順番で上演するかは決めずに書いていて。稽古をしながら構成を決めていきました。35シーンの中から、俳優に5シーンを選んでもらうというセットリスト制作のワークショップをやったんです。その際に端田さんが「このセットは青のイメージ」と名付けてくれて、そこから連想して風や空のイメージを繋げて……とパズルが始まりました。結果、始まりはひとつずつシーンが切り替わることを意識して明確にオチがあり、だんだんとシーンごとの境界が曖昧になり、最後はふざけて終わる、という今回の形が出来上がりました。

端田:パズルの段階になったときに印象的だったのが、三浦さんがみんなの前で考えていたことです。もちろんひとりで思考していた時間もあると思いますが、ホワイトボードの前で「うーん」と言っている三浦さんの頭の中をみんなでのぞくような時間を持てたのは、とても良かったです。

三浦:シーンの中の動きも、今回はどういう間で動くかあまり細かく決めないようにしていました。きっかけを伝えて動きを固めようとしたこともありましたが、それよりも俳優がのびのびと「今日はこういう感じかも」と試すことを採用していく方が、全体を見たときにハッピーな気持ちになれたんです。



「書けなさ」への接し方

藤原:ここまでは作品の作り方の話題が多く出てきましたね。では、そもそもどうしてこのような形での表現をするに至ったのでしょうか。

長島:三浦さんとは、2年前の東京芸術祭で『Every Body feat. フランケンシュタイン』という新作をつくってもらいました。今年もぜひ、とプログラムディレクターとして三浦さんにお声がけした際に「多分新作は書けない」というお話がありました。現に三浦さんは引っ張りだこで、次々と新作を求められている状態が何年も続いている様子を我々も見ていました。だったらそれを突破するチャレンジができる機会を、芸術祭として設けられたら良いな、と思ったんです。

三浦:2年前にご一緒した際にも「ロロだとチャレンジできないことをやってみる場にしてほしい」と声をかけてもらったのを覚えています。劇団の主催公演だと、ロロらしさを期待してくれるお客さんを裏切りたくないし、お金の問題もあり全く違うことをするのは難しい。そんな中でチャレンジする場をもらえたのはすごく大きな経験で、今回もこれまでできなかったことをやってみたいという思いがありました。
今後市民や学生の方々と演劇をつくる機会が多く控えている話をしたところ、長島さんから「プロフィールをたくさん用意して、それらを選んで物語を立ち上げる演劇キットをつくったらどうだろう」とアイデアが出て。参加人数が毎回違う環境でも適応できますし、それぞれが連動できるようなプログラムを一緒に考えていきました。

参加者:プロフィールを集めたキットという形で、関わる人たちが一緒に何かをできる仕組みがすごく面白いなと思いました。多くの人と一緒にものをつくることは大変な面もありますが、それを作る過程で、やっている人たちも含めて新しい関係が生まれそうです。

三浦:今回プロフィールをつくる上で、フィクションであることを大切にしています。今後演劇をプロとしてやっていない人たちと関わる中でも、当事者の物語から立ち上げるのではなく、フィクションにこだわることで、これまであまり見たことがないものになるかも、と期待しています。

長島:最近、演劇やダンスなど劇場で行われる「パフォーミングアーツ」と、現代美術の文脈で行われる「パフォーマンスアート」の中で価値観の違いが生まれているんです。前者は自分ではないものを演じることや、つくりものであることを大事にする一方で、後者では本物であることを重視して作品制作をする傾向があります。つくり込むことにこだわりすぎると、作家が決めたことをただ再現するだけになってしまうし、当事者性や素であることだけ重視すると、人のプライベートな部分をネタとして消費してしまう可能性がある。そんな中で、プロフィールという決まったものがありつつ、俳優もスタッフも創造性を膨らませる余地がある、バランスの実験のような企画ができたと思っています。

端田:フィクションであることは俳優にとってもありがたくて。作品においてプライベートな部分を使いすぎると、何かがはみ出てしまい、意図せずに自分をすごく傷つけてしまったり、人に押し付けてしまったりすることもあるので。それに、ベースがフィクションであっても、プライベートを添えることはできるんです。観客にも共演者にも関係ないけど、こっそりあの日あの時のことを思い、ここで昇華させてもらいます、みたいな。

参加者:私は自分が演出をやる団体を持っています。私も書けないことが多い中で、自分の頭の中を稽古場で開示するのが苦手です。作演という立場は作品の中で大きな権力を持っていて、ある種リーダーのようにふるまう必要がある場面もありますが、三浦さんはどのような演出家としてどうやって悩みに向き合っていますか。

三浦:気持ちはすごくわかります。最近は、書けないことを深刻化したくないな、と考えています。作家が「書けない」というと神秘的に聞こえてしまうこともあって。そういった際に制作や演出助手がケアを担いすぎる構造がある中で、どうやって周りに過剰にケアをさせず、でも自分が潰れずに話せるか、日々弱音を吐く練習をしている感じです。だから、今回長島さんに「書けない中で何ができるかやってみよう」と言ってもらえたのはとてもありがたかったです。

長島:僕の本職であるドラマトゥルクという立場から補足します。これまでさまざまなアーティストをそばで見てきて思ったのは、インプットがないと絶対にアウトプットはできないということ。何も出てこないと悩む人は多いですが、その前に何を入れるかに目を向けて、インプットができない状況を解決するのが大切だと思います。

藤原:後半の話を聞いていて、舞台作品の作り方や、その環境を含むあり方自体を見直す意識を多くの方が持っている状況を改めて感じました。公演を見るだけではなく、背景を知り、感想を交わすことで、作り手のみなさんに帰っていくという循環が生まれていたような気がします。改めて、本日はご参加いただきありがとうございました。