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【レポート】東京芸術祭2023 ファーム スクール:学生トークサロン③「キャリアのことを考える」

2023年10月22日、東京芸術祭2023 ファーム スクール: 学生トークサロンの第3回目が開催されました。
東京には様々な方法で演劇について学ぶ機関がありますが、それぞれが関わりを持つ場はあまりありません。コロナ禍を経て舞台芸術に触れる環境が変化する中、学校の枠を超えて東京の舞台芸術の「いま」に触れ、同世代の学生やプロフェッショナルの人々との交流の場を提供する全3回のプログラムです。
最終回となる今回のテーマは「キャリアのことを考える」。東京芸術祭事務局ではたらく20代のスタッフ2名にも協力いただき、これからの働き方について考える時間となりました。

インタビューと他己紹介

まずは参加者と若手スタッフが2人1組になり、お互いにインタビューをするなかで聞き出したことを発表する「他己紹介」を行いました。他己紹介で聞き出した、それぞれの舞台芸術との関わりと、キャリアに関する考えは下記の通りです。

参加者
Aさん 法学部 法律学科 2年生
大学のサークルで、俳優・制作として演劇活動をしている。サークルではストレートプレイ、お笑いなど幅広いジャンルを扱っており、演劇祭にも積極的に参加している。小学校から高校まではサッカーをしていて、現在も審判など支える側で携わっている。サークル出身者が劇団を立ち上げるのを見る中で、舞台芸術にまつわる仕事についても考えてみたいと思っている。

Bさん 舞踊専攻 2年生
5歳の頃にチアダンスを始めたのをきっかけに、高校での創作ダンスを経て、大学では実技・座学両面から舞踏について学び、生活の中心にダンスがある状態がずっと続いている。最近は舞踊教育にも興味があり、保健体育の教員免許取得を目指して授業を選択している。

スタッフ
Cさん
4年前に教育学を卒業。非常勤で小学校の教員をしながら、所属する劇団にて俳優・制作を担当。外部の劇団の制作なども行う。企画やプロデュースに興味を持っている。

Dさん
3年前に演劇学科 企画制作コースを卒業。在学時に立ち上げた劇団での制作業務と並行して、新卒で公共ホールに就職し、企画制作を行った後退職。今年度はフリーランスとして働きつつ、今後の働き方を考えている。

進む道の選び方/広げ方

後半では、ファシリテーターの藤原顕太さん(一般社団法人ベンチ)、アシスタント・ファシリテーターの関あゆみが加わり、それぞれの紹介の中で気になったキーワードから、自由に議論を膨らませていきました。
印象的だったのは、参加者のふたりが大学2年生なこともあってか、舞台芸術に関する仕事に就くかどうかを含め、目の前に選択肢がたくさんあるのが悩みとなっていたこと。

幼い頃からダンス1本の生活だったBさんは、今後もダンスに関わっていきたいと思っています。海外留学してプレイヤーとして踊り続ける、教員として舞踊教育に関わる、大学院に進学して理論的な面を追求する、などさまざまな選択肢に期待を持ちつつ、他の大学に通う人たちが就活に向けて準備を進めるのを見る中で、踊り続けるのかどうかの分かれ道がそろそろ来るかもしれない、と思ったそう。

法学部で法律を学ぶAさんは、演劇、サッカー、国際交流、教育とさまざまなことに関心が向いている中で、まだ軸が見つかっていない焦りがあると話します。「舞台の分野だと、役者として出ることが一番楽しいです。でも、仕事にするとなると一番実現が難しいのもわかっていて」

それを受けて、小学校で教員をしながら俳優活動をしているGさんが、自身の働き方を振り返ります。「自分は”複業”をしていると思っています。主な収入源となる仕事が1本あるからこそ、劇団の方では好きなことばかりやっています。演劇からの収入だけに頼らず劇団活動ができるのは、自分にとっては健全な続け方です」

劇団で制作をするDさんは、大学1年生の頃に参加したF/Tキャンパス*1で、他大学の人やアーティストと話したことや、プロの制作者に会ったことが大きな経験になったと語ります。「おふたりは選択肢の多さに悩んでいましたが、2〜3年生の間はたくさんの場所に足を運び、選択肢をできるだけ広げて、自分が居やすい場所を見つけるのは大事なことだと思います。そういった場所で会った人と数年後に現場で再開すると『あ、あの時の!』と思い出してもらえることもあります」

ファシリテーターの藤原さんからは、自分の軸を見つける上で、インプットを続けることが大切だと指摘します。「いろんな場所に行って、いろんなものを見て、”イマイチだった”という経験をすることも意外と大事かもしれません。好きなことだけでなく、苦手なことも説明できるようになると、自分の軸が見えやすくなるような気がします」。また、インプットの場として、さまざまな作品や人が集まる芸術祭のような場所をうまく活用してほしいと締めくくりました。

1対1のインタビューから始まり、全員の顔が見渡せる範囲で実施された今回の学生トークサロン。大きな劇場の中に親密な空間が生まれ、個人の活動や仕事に対する思いを深く共有する場となりました。

*1
フェスティバル/トーキョーで実施された、文化政策や芸術・演劇に関心を持つ学生がともに学び、交流する合宿ワークショップ。

写真:古田七海
テキスト:関あゆみ