君はそう言うけれど、ぼくはそうじゃないと思っている。

なんで好きになったかって？
いつから好きかだって？

そんなことは覚えちゃいないよ。

君にはそう言うけれど、ぼくはぼくで実は考えているんだ。
なんで好きになったのか。
いつから好きになったのか。

顔？
性格？
話しやすさ？
髪型？
雰囲気？
笑い方？
食べ方？
話し方？
どれもが合っていて、どれもが決定的ではない。
どれかひとつではないし、どれかひとつでも欠けてもダメだ。

なんで好きになったのだろう。
きっと「きっかけ」はあったはずなんだ。
自分でも気づいていないけれど、絶対に好きになったスタート地点はあるはずなんだ。

よく考えてみるよ。
記憶を辿ってみるよ。
答えはぼくしか知らないはずだから。

いつからなんだろう。
君を好きだと自覚する前から、きっとぼくは君を目で追っていたはずなんだ。
それがいつなのか、ぼくも知りたいから。

記憶をどんどん辿っていく。
君を愛称で呼ぶようになったとき。
名前で呼び合うようになったとき。
ふたりで飯を食べに行ったとき。
夜中に長電話をしたとき。
大人数でカラオケに行ったとき。
飲みかけのコーヒーを君が俺にくれたとき。
はじめて会話が弾んだとき。
思わず手と手が触れちゃったとき。

辿れば辿るほど、ぼくも君も若くなっていく。
良いことも悪いことも、今となっては笑い話だ。
そんなときもあったよねって、ふたりで笑える話だ。

それはそうと、意外とぼくは記憶力が良いことに気づいたよ。
けっこう覚えているもんだね。

もちろん君とはじめて会ったときのことも覚えているよ。
はじめて君を見たときのことを。

やっぱり、君が言っていたとおりかもしれない。
ぼくはそうじゃないと思っていたけれど。
記憶を辿れば辿るほど、そうじゃないかと思えてくる。
どの記憶から辿っても、結果は変わらない。

そうだ。
ぼくははじめて会ったときから君を目で追っていた。
はじめて君と会ったときから気になっていた。
君の言うとおり「一目惚れ」なのかもしれない。

でも一目惚れという確固たる証はない。
記憶力はいいはずなのに、ごめん、そこの記憶は曖昧なんだ。

ほろ酔いのときのように、頭の中がふわふわした感じ。
ほろ酔いのときのように、ふわふわした結論。

ちょうどほろ酔いだから、思い切って言ってしまおうか。
ふわふわした答えでも、君に伝えてしまおうか。
これ以上酔ってしまうと、あとからきっと後悔する。

だから、やっぱりやめとくよ。
答えは素面のときに見つけて、君に伝えるよ。