中野時代2

告白はポカリスエット2

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 おれは河川敷を後にして駅前のショッピングモールへ行く。

 おれは書店でカフカの“変身”を買う。

 すっかり夕方を過ぎているが帰る気はしないので、

マックでダブルチーズバーガーセットを買い“変身”を読む。

昆虫になったグレゴール・ザムザが少女達に船に乗せられ水に流される所で飽きた。

つまらない小説だ。

 コーラもポテトも心許ない。

買いに行くか……。

其処に聞き知った声に話し掛けられた。

 「隣、いいかな?」

 先輩の綾乃さんだ。

 「あ……、はい」おれは驚いた。

 「清水くん、あんなにデッサン熱心だったのにサボり何て珍しいね?初めてじゃない?」

 綾乃さんは美人で評判で美術部で一番絵が上手い女子達の憧れの先輩だ。

おれはグラマーな身体と黒目がちな瞳に魅力を感じなかった。

おれは華奢なファッション通信に出てくるモデルみたいな身体で、

“ぐりっ”と目の大きな顔が好みだからだ。

 「先輩こそ受験なのに予備校いいんですか?」

 「んー、行っても意味無くなったしねー」

 「どうしてですか?あんなに上手いのに?」

 「学費出してもらえなくなっちゃってさ」

 「……家の事情ですか。仕方ないかもしれませんね」

 「そういう事。清水くん何読んでるの?」

 「カフカの変身です。つまらなかったですよ」

 「ああ、つまらないよね。夏目漱石とかも何が面白いのかサッパリだし。やっぱ澁澤先生っしょ!」

 「あ、わかりますよ。サドの翻訳なんか禁止用語使わないで、あんなに出来るって凄いです」

 「ははっ、あたし達、絵の才能よりも文学やるべきかもね」

先輩のマックのトレーにはセットとプラスでハンバーガーが三つ乗っていた。

 「先輩、食いますね。一個はビッグマックでしょ?それ」

 「そうだよ。食べる事って大好き。“命は食にあり”だよ」

 「太っちゃいますよ?」

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