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恋してオムレツ(西軍:円城寺正市、延野正行、誉田龍一)

(お題:唐揚げ)

第1章(円城寺正市)

「せんせー。アタシ、今日の体育見学でいいっすか?」
「ダメだ。今月何回めの生理だ。どっち向いて進化する気だおまえ」

 体育教師のゴリ先生は、そう言って明らかに疑わしげな目をアタシに向けてくる。

 いつもは確かに仮病なのだけど、今日は違う。

「ちがうってばー! ちゃんと診断書だってあるんだよ。負傷だよー。 ふしょー」
「なんだ、どこか怪我でもしたのか?」
「うん、野球肘」
「ん? なんだって?」
「野球肘。要、トミージョン手術」
「……なあ、山岡」
 ゴリ先生はそう言って、あたしの顔を覗き込んでくる。

「おまえ、調理部だったよな」
「うん」
「調理部が? 野球肘?」
「仕方ないじゃん。投げ込んじゃったんだから」

 中学にあがった弟が野球部に入ったので、キャッチボールの相手をつとめたのだけれど、カーブを曲げることに夢中になった結果。

 気がつけば野球肘。

「おかげで鍋も振れないから、今日の課題メニュー、チャーハンだったんだけど、オムレツにかえてもらったんだんだもん」

 ちなみに、かかりつけのお医者様にはアメリカに渡ってトミージョン手術を受けることを勧められた。

「だから、今日は見学ねー」
「調理部が……野球肘」

 ゴリ先生は呆然とつぶやいて固まった。

 そして放課後、私は野球肘に痛む腕をさすりながら、部室へと向かう。 今日のメニューはオムレツ。つけあわせにはからあげにしようかな。

 そんなことを考えながら部室の扉を開けて、「やっほー」と声をかける。

 すると、中から思いもかけない返事が返ってきた。

第2章(延野正行)

「へいへーい! ピッチャー、ビビってるよ!」
「あと1球! あと1球!」

 調理部から聞こえてきたのは、野球場から聞こえてくるような野次だった。

 1人が大きく振りかぶり、布巾で丸めたボールを投げる。

 フォークを握ったもう1人が、盛大に空振りした。

「決まった! 伝家の宝刀フォークだぁぁああ! 試合終了ぉぉおおお!」
すると、なぜかピッチャー役とバッター役が抱き合う。今から甲子園の土でも持って帰りそうな勢いで、涙していた。

 はあ……。いつものことなのだ。

「ちょっと二人とも! 今日は調理部野球部はしないっていったでしょ!なんで野球してるかな。ピッチャー肘になっちゃうよ」
「今日はオムレツを作るっていったでしょ。あと、からあげ!」
「うん。だから、作るのを待ってる」

 ピッチャー役はスプーンを握り、バッター役はフォークを握る。よだれを垂らしながら、キラんと目を光らせた。

 そうなのだ。この二人は調理部なのに、食べ専つまりは食べる専門なのだ。作るのは、もっぱら私である。

 たまには料理を作ってよって思うんだけど、そう言いながら作りはじめてしまう私もどうかと思う。

 気がついた時には、フライパンにオリーブオイルを入れて、冷や飯を投入していた。

 軽く炒めて、ケチャップをぐるぐる……。白飯が赤く染まっていく。

 振りたいけど、野球肘だからね。箸でかき混ぜて、とりあえずライスは終了。

 次は卵。いっぱい、卵を割って、ボールの中へ。塩と砂糖を入れる。醤油をちょっとたらすのが我が家流。フライパンを少し振りながら、薄く焼いていく。

「半熟がいい?」
「半熟プリーズ!」

 ふわふわになってきたところで、火を止め、布団をしくみたいにライスに載せた。

 赤いライスに、黄金色の卵。まさに黄金比……って違うか。

「ふおおおおお! おいしそう!!」
「卵、とっとろだぁ!」
「……で、からあげは?」

第3章(誉田龍一)

 その声が響いた瞬間、いきなりわたしの目の前に4人の男が現れた。
そう、いきなり。

 全員、普通の男だ。何んの変哲も無い。おじさんもいれば、知り合いもいる。

「からあげ……なんですけど」
わたしの声に答えて、みながうなづいた。

「唐揚げでっせ」
初めの男は言った、いや、歌った。

「屋根より高い♫」
わたしは首をかしげるしかない。

「どこが唐揚げなんやねん」
次の男はにやりとした。

「これなんか、いかがでしょうか」
男はPCをわたしに見せた。わけの分からないチャートが並ぶ。

「この銘柄、今売ったら濡れ手に泡でもうかりまっせ」
「それは、空売り……うちの欲しいんは唐揚げ」
次の男は紳士服を見せた。

「この男性用スーツは洗濯機で丸洗いできます」
「あのな丸洗いじゃなくて、丸焼きでもないねん。唐揚げっ!」
そして最後の知り合いの男は、いきなり逆立ちした。

「こうちゃん、何してんの」
友達のコウタが逆立ちしたまま言う。

「なんか串揚げみたいやろ」
「どこがや」
わたしはアホらしくなって、出て行こうとした。

その時、4人が同時に叫んだ。

「待て」
コウタが、わたしを見た。

「よう、見てみ」
「はあ」
「最初は、何や」
「何やって、屋根より高いんやから、鯉のぼりやろ」
「次は」
「株やろ。空売りやから。よう知らんけど」
「そうや、こういうのなんていうか知ってるか」
「女子高校生が知るかい」
「仕手戦いうねん。で、次は、男物の洋服や、なんて言う?」
「メンズ……」
「イタリア語なら、オム」
「あっ」
 わたしは思わず声をあげていた。

「で、最後、連れの俺がひっくり返って」
「レツ」
「鯉、仕手、オム、レツ」
「恋してオムレツ!」
「ええ、唐揚げやろ」
「やるやん」

わたしは、にやつくしかなかった。
ちょっと涙ぐみながら。

           終わり


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3月16日(土)16:00から、京都 木屋町「パームトーン」で開催された「fm GIG ミステリ研究会第5回定例会〜ショートショートバトルVol.2」で執筆された作品を、こちらで公開します。

顧問:我孫子武丸
参加作家陣:今村昌弘、水沢秋生、木下昌輝、最東対地、川越宗一、尼野ゆたか、延野正行、誉田龍一、円城寺正市、遠野九重

司会:冴沢鐘己、曽我未知子、井上哲也

上記12名の作家が、東軍・西軍に分かれてリレー形式で、同じタイトル(今回は「恋してオムレツ」)の作品を即興で書き上げました。

また、それぞれの作家には当日観客からお題が与えられ、そのワードを組み込む必要があります。

当日のライブ感あふれる様子はこちらをご覧ください。

※「恋してオムレツ」は、もともとはこんな曲です。



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