【ノベルゲーム】寝苦しい夜

1. 寝苦しい夜だった。

やけに気になる音のせいで、目が冴える。
聞き慣れた音。冷蔵庫を開け、閉める音。それが何度も繰り返されている。
夢だと思いたい。だって自分は一人暮らしだから。
いやでもこの音、まだ続いているし、夢じゃないよね?
冷蔵庫があるのは、この寝室からアコーディオンカーテンを隔てた隣、台所。
どうしたものか。

2. 寝室の電気をつける

枕元近くの照明リモコンを手に取り、寝室の電気をつけた――が、一瞬点滅して消えてしまう。
その後はもう点く気配すらない。
音はいまだにバタン、バタンと続いている。

3. スマホで音を録ってみる

スマホを取り出し、動画モードで画面は真っ暗のまま録画してみる。
数十秒ぐらい録音して、止める。

4. アコーディオンカーテンを開ける

呼吸を整えてタイミングを計る。
開けて、閉じている、ように聞こえている。どうせなら、開いた瞬間をおさえたい。
閉まって、開いて、閉まって、開いて、今だ!
布団の中で点けたスマホライトを掲げながらダッシュでアコーディオンカーテンへ――そして!

5. スマホを動画撮影モードにして近づく

スマホを動画モードに構えながら、布団から出る。
なんとなく音を立てないように、忍び足でアコーディオンカーテンへと近づく。
冷蔵庫を開け閉めする音はまだ聞こえている。
息をひそめて、閉まって、開いて、閉まって、開いて、今だ!

6. いったん聞き返してみる

あれ?
失敗した?
冷蔵庫開け閉めの音が聞こえない。というか、さっきまであれほどウザく聞こえていた本物の方の音も止んでいる。
やっぱり気の所為だったのかな。

7. バッとアコーディオンカーテンを開いた

眼の前で、冷蔵庫の扉が閉じた。
冷蔵庫の扉は、向こう側に開くタイプだったので、中は全く見えなかったのだけど、それでも見えてしまった。
冷蔵庫の内側から冷蔵庫の扉に四本の指がかかっていたのが。

8. もう一度、最初から聞き直す

おかしいな……真っ暗な動画を最初から再生し直す。
やっぱり冷蔵庫の扉の音など入っていない。
入っているのは多分、自分の荒い息遣いだけ。
それにしてもこんな荒いの、恥ずかしいな、と思って再生を止めた――のに、荒い息遣いはまだ聞こえる。しかも、すぐ背後から。

9. もう寝てしまおう

布団に戻ると、さっきまで寝苦しかったのが嘘のようだ。
ああ、布団の中が冷たいからだ――冷たい?
なんで、と布団をめくろうとしたそのとき、布団の中で、自分の手のひらに何かが触れた。
やけに冷たいそれは、自分の指と指の隙間に素早く入り込んできて、手をぎゅっと握った。頭の中に、恋人つなぎという文字が浮かぶ――じゃなくて!

10. 外へ

外へ出たい。一刻も早くここを出たい。
幸い玄関は台所の向こう、ダッシュで走り、まずはドアの鍵を――回す前に、ガチャリと勝手に鍵が開いた。

11. 振り返る

きっと気のせい!
勢いよく振り返ったそこへ、やけに生暖かい、生臭い、息のようなものが、顔へとかかった。

12. 全力で振りほどく

うわああああああああああっ!
これが自分のものかと思うほど大きな声を出しながら、握られた手を全力で振り回す。しかしそうやって振り回せることで、一つの確信が生まれる。
自分の手をつかんでいるこの手は、やけに軽い。
本当に手なのか?
そんな考えが頭をよぎった瞬間、指と指の間から手がするりと抜けた感触。その直後、凄まじい速度でソレが腕を登ってきた。

13. 全力で蹴りをぶち込む

そこに手があるということは、このあたりに体が、と思えるあたりを無茶苦茶に蹴る、が、その足には布団以外何もぶつかることもなく、空振りを繰り返す。
それだけならば勘違いで済む。だが、手にはまだ、しっかりと握られている感触。

14. そして

ようこそ、パラグラフ14へ。
そう聞いただけでニヤリとした方、よくもまあこんな古いネタをご存知ですね。おみそれいたしました。
――ともあれ、ご存知の方も、そうでない方も、パラグラフ14と言ったら答えは一つです。
そう、あなたは死にました。

<fin.>

15. 勢いよくドアを開ける

もしも扉の向こうに誰かがいたとしても!
そのくらいの気持ちで勢いよくドアを開いた。

背筋が凍りついた。
目には見えないけどそこに誰か、というよりは何かが、居るのを感じる。
ジジジ。
共用廊下の電気がフッと消えた。
それなのに、そこには「廊下の明かりがついていたときの景色」が、人型に残っている。
それは、ゆっくりと手を伸ばしてきた――のに、足が震えて動けない。

16. とっさに鍵を閉める

とっさに鍵を閉める。
だがすぐに鍵が開く。
こちらも鍵を閉め返し、そのまま鍵を押さえ続けた。
そんな自分の手に、誰かが手を添えた。白い、細い指の手。自分の手よりも明らかに小さいのに、その肘が、視界には入らない。異様な長さ。
そんな手が、二つ、三つと次々に背後から伸びてきて、自分の手の上からドアノブを押さえる。
そのうちに伸びてきた手の一つが、自分の口を塞いだ。

17. スマホで撮影してやる!

握られていない方の手でスマホを探す――だが、そっちの手まで何かに握りしめられた。
どうなって――考える間もなく、右手と左手がまったくの逆方向へと引っ張られて痛い痛い痛い痛いっ!

18. まさか、ここを読むなんて

ああ、ズルをしましたね?
このパラグラフへは立ち入ることができないはずなのに。
悪い人ですね。


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