鍵のはなし

合鍵をもらっていつでも彼の家に入れるようになったことに惚気ける女が電車にいた。僕はわかるようでわからない気持ちが肥大した。合鍵はあくまで本物じゃなくて管理会社に頼んだものでもなく要は正式なものでなく、ただ家主が持つ鍵を鍵屋に一定時間預けて数千円と引き換えに手に入れるレプリカだ。そこにある心配りも愛だ恋だもすべて贋作に思えてならなくなった。醜い考え方かもしれないが、そんなことはしないように生きていたい。そう思った22時の電車だった。

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