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20代そこそこの折り②

オレは友人に、いまの何だろ? まさかフェラーリ250? 当時、まだフェラーリがフェラリーと呼ばれていて、マニアでも見たことも乗ったことも触ったこともないような、そして日本に存在するのかどうかもわからない時代で、まして一般には、フェラーリなんて知られているわけもなく、いや外車というもの自体がひどく非日常のものであった。
Uターン禁止だったにも関わらず、オレは迷いもなく車を反転させ、その車のあったあたりの中古車屋へ、タイヤを鳴かせながら戻っていった。
かすかな街灯の明かりに映し出されたその車の前で、オレたちは無言で立ちつくしていた。
この車は一体なんだ?
何て言う車なんだ? 
赤い小ぶりのそのスポーツカーはダッシュボード周りはまるでフェラーリ250そのものだし、丸いふたつのテールランプもそれっぽい。でも違う、これはフェラーリじゃない。
ランボルギーニ・ミウラのようにフロントフードに黒い樹脂でラジエターの熱抜きのスリットが開けられ、スタイルはフィアットクーペを大胆にスマートにしたような姿態。
しかし、まだまだ青いふたりの知識では、その車の正体を解き明かすことは出来なかった。
翌日から二人の調査が始まった。車関係の本を調べまくり、それが“シムカ”というフランスの車であることがようやく判明したのは数日経ってからのことであった。
シムカというのは、主にフィアットのライセンス生産をフランス国内でしていた会社でフィアットの850をベースにしたシムカ1000というセダン、及びそれをベースにシムカ1000クーペという車を生産するようになった。
 中でも1000セダンは五木寛之さんの本にも登場してくるのでなじみのある人もいるかもしれないが、その1000をベースにした1000ラリーは、現在でもマニアにはよだれ物である。 
後に1000クーペをベースに排気量を1200ccにスープアップし、空冷のリアエンジンを水冷にし、フロントにラジェターを持ってきたシムカ1200Sクーペを発表するのだが、それがこの赤い小ぶりな車の正体であったのだった。

※このテキストは、かつて第一興商の音楽ファンサイト「ROOTS MUSIC」に連載されていた文章に、大幅に加筆修正したものです。


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