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ストローについて

 先週末は珍しく何も予定をいれていなかったので引きこもって布団の虫をする心積りだったのだが、あまりにも天気が良かったので出ないわけにはいかないという心境になって会うタイミングを失っていた友達のひとりにお伺いを立ててみることにした。
 快諾をくれた中村くん(仮名)は大学で学科とサークルが同じだったことで知り合った友達だ。中村くんのいいところは物事に対する感想に絶対うそをつかないところで、かっこいいと思うものはストレートに褒めるしダサいと思うものはボッコボコに貶す。知り合って最初の頃は褒めているところをあまり見ることがなかったのでなんだかいやなやつだなあと思っていた。なまじ本人のセンスが素晴らしいところが憎いのである。閑話休題。
 台湾に旅行してからというもの台湾の家庭料理に傾倒しているわたしは大久保の飯糰(台湾式おにぎり)のお店を待ち合わせ場所に指定させてもらって、ぎっちり具の詰まった飯糰を食べながら近況報告を交わしたのちにだらだらと歩き始めた。
 GoogleMAPのレビューによると日本語が通じないことになっている台湾食堂が次の目的地だったが生憎の臨時閉店で、とりあえず喉だけでも潤すために早稲田のルノアールに入った。わたしは喫茶店は綺麗で席の間取りが広いことを重視しているが、この点においてルノアールは100点満点かつ都内はどこにでもあるので大好きだ。ドトールやタリーズに比べると飲み物単体では割高だが、お絞りとお冷に加えて暖かいお茶まで出してくれるのでむしろ安いと感じる。他のチェーンに比べると客層に男性や年配の方が多いので、平日の昼間などに行くと商談が聴こえてきたりするのも面白い。
 午後にコーヒーを飲むと徹夜が確定する体質なのでわたしはアイスレモンティーを頼んだ。ところでルノアールのストローは砂利の混ざったコンクリのような見た目をしていてあまり美しくはないのだが、テクスチャはかなりプラスチックに近い何かで他店の紙ストローと比べると飲みやすい。中村くんに言わせるとマクドナルドの紙ストローは全然ダメらしい。中村くんは貶すときに罵詈雑言はつかわないはずなので、かなり丁寧な日本語でクソミソに言っていたと思う。わたしも紙ストローはあまり好きではない理由があって、そもそも素材がなんであれストローを潰さずに飲むことができないのだ。ストローを噛む人がいるのは知っているが誓って歯を立てているのではなく、飲んでいたら自然に潰れてくる。プラスチックならともかく、ふやけて潰れた紙越しに吸い上げる飲み物の味を想像してほしい。
 この話を中村くんにしたら意味がわからないという顔をされたので、吸い上げるときの動作をひとつひとつ言語化してみることになった。
 舌先が歯の裏についた状態で舌と上顎のあいだにストローを挟む。こうするとストローの入口付近は舌肉で密閉された状態になり、蓋になっている舌肉を弁のように開閉することで水分を吸い上げている。ポンプの理屈に近いかもしれない。
 これを何回も繰り返すうちにストローが舌肉に潰されていくわけだ。中村くんによれば、ストローが潰れない世間一般的な飲み方はまず吸い上げる時にストローに舌がつかないらしい。これを真似してみたけどぜんぜんうまくできなかった。わたしは舌の筋肉で吸い上げているが、中村くんおよび多くの人々は呼吸の力で吸い上げているという違いがわかった。25年ストローを吸ってきたが初めて正しいと思われる飲み方を知った。別に潰れてても吸えるから問題はないけれど、普通のふにゃふにゃ紙ストローにも対応できるようにアップデートしていきたい気持ちが生まれた。マクドナルドで飲む氷まみれのオレンジジュースもなかなかおいしいのだ。
 この日は最終的には飯田橋まで歩き、新宿まで電車に乗って駅で解散した。家に帰って椎名ちゃんにストローの飲み方を聞いてみたらやっぱり舌は使わないらしかった。


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