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【一部内容紹介】ISW ロシアによる攻勢戦役評価 2015 ET 19.01.2024 “2024年のウクライナ軍事戦略:アクティブ・ディフェンス構想は有益なのか?”

[*記事サムネイル画像:フィナンシャル・タイムズ紙記事写真より]


米国当局者がキーウにそうするよう強く勧めていると報じられているように、ウクライナが2024年の1年間を防衛作戦にのみ専念することになれば、ウクライナにおいて、戦闘を遂行する場所、戦闘のテンポ、作戦面で戦闘に必要な条件を、ロシア軍が決めることが可能になる。

Russian Offensive Campaign Assessment, January 19, 2024, ISW

フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は1月19日付で「“アクティブ・ディフェンス”:ウクライナの2024年生き残り計画はどうなるのか(’Active defense’: how Ukraine plans to survive 2024)」を掲載しました。

https://www.ft.com/content/d2f3b209-22a1-4fb1-bdfe-0ccf7fb0e5fa

この記事によると、複数の米国当局者はウクライナにもっと「控えめな」作戦上のアプローチを推奨しているとのことです。「控えめな」アプローチとは、現状領土の保持に重点を置き、それによって、2025年に行われるであろう反転攻勢に必要な物資と戦力を2024年につくりあげるというものになります。報道によると、米国当局者は、そうするための方法として、「アクティブ・ディフェンス」戦略をウクライナがとるように勧めているとのことです。

アクティブ・ディフェンスとは何か、ということについて、ISWは米国軍事ドクトリンの定義を引用し、「交戦地域もしくは交戦地点を敵側に与えないようにするために、限定的な攻勢行動と反撃を行うこと」と説明しています。また、ウクライナ当局者も、ロシア軍が局地的攻勢を進めている地点で、アクティブ・ディフェンスをウクライナ軍が実施していると述べています。

しかし、ISWは「戦域の各所でアクティブ・ディフェンスを行う場合、定期的かつ広範なウクライナ側の反撃行動が要求されることになり、その結果、ウクライナ軍にかなりの規模の攻勢能力を投じる必要性が、結局は生じる」と指摘します。

米国当局者は、ウクライナ軍が戦域全体でアクティブ・ディフェンスを実行しつつ、機会を伺いながらロシア軍防衛の弱みにつけ込むことが、今でもできるものと確信していると、FT記事は報じています。この見方に対して、「限定的で機会主義的な反撃は、とりわけ適切なリソースが配分されていない場合、必ず生じるリソース消耗分に見合った結果を残せない可能性が高い」と、ISWは危惧を示しています。

また、戦域全体で防衛態勢をとることは、ロシア軍に「戦略的主導権」を譲り渡す結果になり、その場合、ロシア軍は自らが好むタイミングで攻撃を仕掛けられるようになるとも、ISWは指摘し、そうなった場合、「『アクティブ・ディフェンス』を遂行する期間に生み出す想定であったわずかなリソースを、ウクライナは使い果たさざるを得なくなる」と述べています。

米国が推奨しているとされる「アクティブ・ディフェンス」戦略に関するISWの見解は以下になります。

2025年になるまでウクライナが「アクティブ・ディフェンス」を行った場合、少なくとも1年間、もしかするとそれ以上の期間、ロシア軍に戦域全体での主導権を譲り渡すことになり、その期間、どの程度の規模の攻勢をいつ、どこで起こすのかを、ロシア軍統帥部が決められるようになる。戦域全体での主導権を保持する期間が長くなることはまた、どれほどのリソースをウクライナ・ロシア両軍が負担せねばならないのかの決定権を、ロシア軍統帥部がかなりの部分、握ることになるだろう。その結果、ロシア軍統帥部は、将来のウクライナ反転攻勢にとって死活的重要性を有するウクライナ軍の作戦能力を制約し、低下させる意図で、ウクライナ戦域全体で様々な強度の作戦を次々と遂行できる作戦上の好機を十分過ぎるほどに手に入れることになる。

Russian Offensive Campaign Assessment, January 19, 2024, ISW

また、ISWは、防衛態勢を採ることが、必ずしもウクライナ軍の各種リソースの節約につながるとは限らず、将来の反転攻勢用に予備戦力を拡張できることにつながるとは限らないと主張します。一般的に防御態勢のほうが損失が少ないと考えられていますが、ISWは、「攻勢作戦はほとんどの戦争と同様に、防衛作戦よりも物資とマンパワーが要求されることになるが、ロシア・ウクライナ両軍ともに、多くの場合、防衛時においても甚大な損失を被っている」と指摘しています。

なお、「防衛作戦が、将来の反転攻勢に必要なリソースをウクライナが集積することを保証しないのと同様に、攻勢作戦は、ロシアによる継続的な装備蓄積と作戦予備戦力造成の取り組みを必ずしも妨げるものではない」ともISWは指摘します。ウクライナ側が防衛主体の態勢をとることで、ロシア側が戦域全体での主導権を握ることができる場合、ロシアは攻勢の強度をあげることもできれば、強度を下げて、戦力造成及び軍需産業の動員に努めることもできます。1年かそれ以上の期間、ロシアに戦略的主導権を譲り渡すことは、ロシアに戦力造成と攻勢遂行のどちらかを自由に選ばせることになり、一方でウクライナは防御作戦のなかで、将来の攻勢のために集めているリソースを消費してしまうことになるのです。

実際にロシア軍はウクライナ軍を消耗させる攻勢の取り組みを進めている模様で、ウクライナ陸軍のフィティオ報道官は1月19日に、クプヤンシクからバフムートに至る東部戦線全域での動きが活発になっている述べ、クプヤンシク〜リマン方面とバフムート方面でのロシア軍の攻撃が激化していることを伝えています。

https://armyinform.com.ua/2024/01/19/na-lymano-kupyanskomu-napryamku-znyshheno-13-tankiv-ta-14-bmp-rosiyan/
https://suspilne.media/664674-zelenskij-zaklikav-do-povnoi-dii-sankcij-rosia-hoce-vitisniti-bijciv-zsu-z-kupanskogo-lisu-695-den-vijni-onlajn/?anchor=live_1705666201&utm_source=copylink&utm_medium=ps

このウクライナ軍当局者の発言以外にも、ウクライナ人軍事評論家、ロシア軍事ブロガーからも、ウクライナ東部でのロシア軍攻勢もしくはその準備に関する情報が伝えられています。

FT紙記事でも、匿名のウクライナ当局者の話として、ロシアが2024年夏にドネツィク・ルハンシク・ヘルソン・ザポリージャ4州の全土占領を目指す大規模攻勢を計画していることを伝えています。

規模は別として、このようなロシア軍攻勢は「防衛任務遂行でウクライナが貴重かつ限られたリソースを消費することを強要するという目的において、ロシア軍の大きな地理的前進を必要としない」とISWは指摘します。そして、ロシア軍攻勢を食い止めようとする取り組みのなかで、「ウクライナは物資と兵力を節約することができなくなる可能性が高い」という見解をISWは示しています。

このような点からみても、米国当局者が勧めているとされる防衛中心の戦略は、ウクライナにとって利益になるとは限らない可能性があります。

ISWの評価は以下になります。

米国当局者の一部がはっきりと勧めているような戦略的防衛態勢にウクライナが移行した場合、同国は継続的なロシア軍の攻撃を食い止めようとする取り組みのために、自軍の反転攻勢用に保持しておこうとしたリソースを消費してしまうという危機に陥ることになるだろう。戦争においては、主導権を握っている側が有利なのが一般的だ。そして、絶対に必要な期間以上に長く、ウクライナがロシアにこの優位性を譲るべきだと提案することは、賢明なこととはいえない。

Russian Offensive Campaign Assessment, January 19, 2024, ISW

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