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ハゲを笑うな!

中学生だろうか。

2人の少年が2階から見下ろして、楽しそうに話をしている。

僕は近くで、コーヒーを飲んでいたものだから、話し声が自然と聞こえてくる。

どうやら、1階を歩く人々の髪型を見て、笑っているようだった。

覗き込んでみると、河童のような髪型をしたおじさんが歩いていた。

彼らは、ハゲを馬鹿にして、笑っていたのだ。

(笑っているのも今のうちだぞ。君たちももうじきハゲる)

と、僕は心の中で思っていた。

そういえば・・・最近Youtubeで聞いた昭和の人気番組「月光仮面」の主題歌の歌詞が脳裏に浮かぶ。

どこかの誰かは しらないけれど
誰もがみんな知っている
月光仮面の おじさん
正義の味方よ 良い人よ

月光仮面(月光仮面は誰でしょう)

「月光仮面」は1958年~1959年にテレビで放送されていた覆面主人公ヒーローである。

特に、主題歌『月光仮面は誰でしょう』は、子どもたちの圧倒的な支持を受け、平均視聴率は40%、最高視聴率は67.8%(東京地区)を記録したという驚異の人気番組であった。

僕がこの歌を聞いて驚いたのは、ヒーローが

「おじさん」

という点である。

近年のアニメはヒーローと言えば、若い少年や少女である。

それに対して、月光仮面は「おじさん」がヒーローなのである。

つまり、高度経済成長の始まったころは「おじさん」が、かっこよく、そしてたくましく、強いというイメージだったのだろう。

そういえば、上野博正氏が書いていた随筆にこう書いていた。

現在の老人が若者ぶるように、昔の若者には随分老人ぶった者が多かった。それは、老いてからの現実的生活を思い煩うというわけではなく、人生や社会に対する身の処し方や構え方として、達観しているかのように振舞うことだった。

上野博正氏の言葉

たしかに、おじさんは、若者よりも人生経験が多い分、達観しているはずである。
それだから、尊敬されるべきものである。

そうならば、おじさんの「ハゲ」た頭は、馬鹿にできるものではなく、達観したヘアースタイルとして崇められてもいいはずである。

現代の価値観は、人間の中身の「経験」よりも、「美」を尊重する傾向に変わってしまったように思える。

そんなことを考えていると、ハゲを笑う少年よりも、いつかハゲたいと思う少年の方が、健全のように思えている。

「美」を尊重する世界では、年を取ることは辛いことであり、内面的な成長が、おろそかになってしまいそうである。

僕のくだらないぼやきなのかもしれないが、
「経験」を尊重する世界の方が、天国へと召されるその瞬間まで、自分を成長させることができ、人生が幸せであるように思える。

だから、僕はハゲを笑わない。
なぜなら、おじさんは、ヒーローだから。

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