見出し画像

職人気質

蕎麦をたぐる。改めてそういう季節かな。
「せいろ」が似合う季節になってきた。

丘の上に二軒の蕎麦屋さん。
そのうちの一軒。

テーブル席が3つ、小上がり席が2つ。小さなお店です。すぐいっぱいになってしまうので、だいたい開店にあわせて行く。

この近くにある、もう一軒の蕎麦屋さんの方が美味しいという人もいる。曰く。この店は練りわさびではないと。でも、僕は、申し訳ないけれど、その蕎麦は、本を読んで打った蕎麦だなというのが感想。奥さんは、もっと直感的に、ただ残念な顔をする。

確かに、僕らが行くお蕎麦屋さんは練りわさびだが、それを客単価を押さえるためのやさしさだと思っている。

ここは街のお蕎麦屋さん。カレーうどんも出すし、天丼も出す。その上で、「更級」「せいろ」「田舎蕎麦」どの蕎麦も美味しく食べさせてくれる。

これ、生半な技芸ではない。
蕎麦を専門にして「更級」の香りを感じさせるのより、数段高いハードルをクリアしている。

あっさりの「京うどん」も美味しいし、けんちん蕎麦みたいな「野趣」みたいなものもある。どれも美味しい。カレーうどんだって、たぶん、ここでしか味わえないレベルのもの。でも、そのカレーうどんを頼まなければ、その存在が全く感じられないほど、狭い店内なのに見事にカレーの臭いはしない。そこが凄い。

これだけのメニューを揃えて、維持して、しかも、それぞれの美味しさを際立たせている…こういう奇跡をなんでもないようにやってのける。

僕らは感心するしかない。

蕎麦は、いわゆる「翁系」ということになる。店内には高橋邦弘氏の大きな写真が掲げてあって、お客さんが「これは誰ですか」と尋ねると、客あしらいをしている奥さんが「はい、師匠の写真です」と応えていらっしゃる。

初心を忘れないようにしているんだなと思う。

そういうわけで、僕らはまた長い坂を登っていく。

この記事が参加している募集

おいしいお店

#創作大賞2024

書いてみる

締切: