俳句の構造分析

NHK俳句は、井上弘美さんの回も好きで、ハキハキとして、切符の良いという言葉が似合う感性がさわやかな時間を演出してくれる。

短歌はことをうたい、俳句はものを詠む。七七がない分、季語が重いのだ、と。俳句における対比は、あくまで名詞によって生み出すべきであり、だからこそ、動詞をつかわないと成立しない散文的な表現は原則としては、忌避される。

仕立て屋の 窓のトルソー 夕時雨

今日の一席は、そんな選者の価値観をまさしく体現する一句で、街角をさっと写生するシンプルなこと言葉から、チラッと動かす視線や足早に通り過ぎる足の動きが見える。きっと仕立て屋の手捌きはテキパキとしている。なぜその動きが見えるのか。トルソーである。永遠に静止する動かない身体。それが窓の向こうに、手の触れられないあちらに置かれている。助詞として二回重ねられる「の」の音と、トルソーの押韻も効いている。

ピカソより ゴッホのブルー 夕時雨

これもふたつのものを対比する、「より」と、最低限の言葉で価値基準の軸をそっと置く。

しぐるるや 地下へと降りる 版画展

銅版画のエッチングの一本一本の線、版画そのものの陰影的な、陰鬱な感じ。そこに重なる地下へ降りるという行為。

季語の持つ陰影を、ふたつの名詞プラスひとつの動詞、とか、みっつの名詞プラス助詞、を使って浮き彫りにする。絵画的な一句の出来上がりだ。

なるほど、と思いながら、雪女について考える。

雪女の死のにおい、あるいは報われない人生におけるひと夜の夢の感じ。これを二つの名詞を組み合わせることで浮かび上がらせる。

燐寸。文庫本。煙草。パッと浮かんだのはこういうアイテムだった。川端康成みたいな世界観だな。もう少し現代的なものが良いかもしれない。

選者の価値観を考えると、当然、ユーモアの感じ、漫画的な、ちょっとシュールな感じに着地したい。煙草は煙草でも、アイコスとか、電子タバコとか。

加熱式 煙草の煙 雪女

や、なんか、惜しいところまで来てると思うんだけど。なんか、いまひとつ、あと一歩なのである。

(ようへい)



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