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絵本『飛べない鳥のかけるん』【統合失調症のリカバリーストーリー】

こんにちは!パパゲーノ代表のやすまさ(@yasumasa1995)です。
パパゲーノが企画・編集した統合失調症当事者の語りを題材にした絵本飛べない鳥のかけるんをご紹介します。

絵本『飛べない鳥のかけるん』とは?

絵本『飛べない鳥のかけるん』とは、統合失調症当事者である「かけるん」さん、「片岡洋子(ペンネーム:kaede)」さん、「株式会社パパゲーノ」が共同で制作した、統合失調症のリカバリーストーリーをテーマにした絵本です。Amazonで紙の絵本と電子書籍を両方とも購入いただけます。

「リカバリーストーリー」とは?
辛い体験をした人や精神疾患等を経験した人が自分が生き方を主体的に追求する物語

「かけるん」さんによる統合失調症当事者としての体験を綴った自費出版の書籍『あなたには生きていてほしい』を原作として、飛べない鳥を主人公に、精神疾患と向き合う様子を表現しています。

製作費・印刷費を集めるために2022年5月28日からクラウドファンディングの募集を開始し、「65名」の支援により390,500円の資金を集め、2022年6月30日に終了しています。

かけるんさんの統合失調症のリカバリーストーリー

絵本『飛べない鳥のかけるん』の題材となった、かけるんさんが統合失調症を発症し、辛い体験をされてから自分の生き方を主体的に追求しリカバリーに向かう物語をご紹介します。

(制作:グラフィックレコーダー ももこさん)

Q.統合失調症について、かけるんさんはどんな症状だったのですか?

「いつも電話が鳴るように感じて振り向いてしまう」「自分の悪口を言われている気がする」「スパイやストーカーに狙われている感覚」などの幻聴、幻覚を経験していました。
「そんなこと起こるはずはない」「これは幻覚だ」ということが最初はわかっているのですが、あまりにもリアルで、それが続くので、しんどくなってきました。

流石にこれはまずいぞと思って医療機関を受診。統合失調症と診断されて閉鎖病棟に入院しました。牢獄のような部屋に入れられてすごくショックでした。
そこから入退院を6〜7回ほど繰り返し、「自分は何をしているんだろう?」と、世の中に置いていかれる感覚、自分を責める気持ちで苦しかったです。

現在は症状は落ち着いてきていて、週に1回の通院と投薬は続けています。

「統合失調症」とは?
現実との接触の喪失、幻覚、妄想、まとまりのない発語および行動、感情の平板化、認知障害、ならびに職業的および社会的機能障害を特徴とする。
通常、症状は青年期または成人期早期に始まる。
治療は薬物療法、認知療法、心理社会的リハビリテーションから成る。
早期発見および早期治療が長期的機能の改善につながる。

統合失調症 - 08. 精神障害 - MSDマニュアル プロフェッショナル版

Q.かけるんさんがリカバリーに向かうきっかけになったことは何ですか?

転機となったのは閉鎖病棟で入院中にノートに自分のことを書き殴り始めたこと。過去、現在、未来について自問自答して、こういう人もいるんだと知ってほしいという気持ちを抱くようになりました。まだ自分は回復したわけではないけれど、「回復への道のり」を残していきたいと。人にはみんな、その人なりの生き方があると思うので、それも否定しないで。

あとは、ピアサポートの活動と、リカバリーカレッジの活動が、大きくその後を変えました。

「リカバリーカレッジ」とは?
2009年イギリスのサウスウエストロンドン発祥。当事者と支援者が共にリカバリーやメンタルヘルスについて学び合う場所のこと。日本でも各地域で活動が広がってきている。

Q.「リカバリーカレッジ」ではどのようなことをされているのですか?

リカバリーカレッジは、リカバリーしたい方が、前進していくためのコミュニティで看護師、精神保健福祉士などの専門職と、精神疾患当事者とが一緒に勉強しています。みんなで学んで、それを生かしつつ生きるというのがコンセプトになっています。

友達に誘われて長崎大学へ行きリカバリーカレッジの講座を知って学び始めました。そのあと運営に関わったのはリカバリーカレッジふくおかのラボ(月1の勉強会)がとても新鮮で、ちらっとでた運営の話を聞いて参加しようと思いました。

現在は、リカバリーカレッジ佐賀と福岡の運営をしています。
Zoomでのオンライン講座の企画、制作をしたり、ミーティングの司会、書記、ホストなどをしています。地域を重んじているリカバリーカレッジもありますが、今はコロナの影響でZoomを使ったオンライン形式がほとんどです。全国各地、世界から参加する方もいるくらいオープンな場となっています。

Q.自費出版で書籍『あなたには生きていてほしい』を出版していますが、そのきっかけは何ですか?

病院で書きなぐった資料をもとに、退院してから本を作ろうと思って、文面にまとめました。出版社に送ったところ「本にしてみませんか」という話がきました。しかしながら、高額な費用がかかるとのことだったので「いつか、自費出版で自分で出そう」と思いました。

「NHK障害福祉賞」に原稿を2、3回応募して、入賞には届かずでしたが良いきっかけとなりました。
その後、友人に紹介していただいたイベントで、プロのナレーターさんが「あなたの原稿を読みます」というものがあり、原稿を書いて読んでもらいました。涙を流して「すごく良かった」と言ってくれた人がいました。

何人に届くかはわからないが、届くこともある。やっぱり本を書きたいなと書籍の制作を決心し、『あなたには生きていてほしい』という本を書きました。

Q.書籍『あなたには生きていてほしい』を自費出版する上で大変なことはありましたか?

お金の問題は大きかったです。たまたま政府の特別定額給付金の10万円をいただいたので、そのお金で自費出版で「300部」印刷することができました。

校正作業も大変でした。自分で書いた原稿をデータにして印刷会社に発注したので、「ミスは許されないぞ」と思って6、7回は原稿を見直しました。ほぼ全て自分1人で執筆から原稿データ作成、発注までやりました。

Q.絵本『飛べない鳥のかけるん』の企画をパパゲーノから提案されてどう思いましたか?

絵本は漫画のように、絵で視覚に訴えることができて文章だけよりわかりやすいのかなと思っています。文章だけの本では届かなかった人へ、統合失調症の体験談を見ていただける方が1人でも多くいたらと思いました。

Q.最後に、かけるんさんの本や絵本の読者さんに伝えたいことを教えてください。

生きてていけない人はいません。なんとか明日まで生き延びて、また明日のことを考えられればいいのかなと思っています。実際僕もそうでした。病気って辛いけれど、乗り越えた先に違う自分が見えてくる。一日一日を大切にして、一歩一歩を大切に生きていければと思います。

絵本『飛べない鳥のかけるん』の制作秘話

絵本の制作秘話について、原作者のかけるんさんと、イラストレーターの片岡洋子(kaede)さんにインタビューした内容をご紹介します。

Q.絵本を制作する中でこだわった部分は何ですか?

片岡洋子(kaede)さん:
絵本にすることで文字が削られる分、内容が薄くならないようにどうストーリーを伝えるかにかなりこだわっていました。1番こだわっていたのは虹色の羽の部分で、絵にするのにとても時間がかかりました。

かけるんさん:
ストーリーとしてかけるんがハッピーエンドになるというのが譲れないところでした。また、「飛べないこと」への葛藤をうまく表現することにこだわりました。
飛べない鳥のかけるんのその後、どうなったのかをぜひ見てほしいです。

Q.絵本『飛べない鳥のかけるん』を制作する上で大変だったことは何ですか?

片岡洋子(kaede)さん:
統合失調症の理解を深められるような絵をどう表現するのかが難しかったです。特に虹色の羽。iPadのFrescoで描いているのですが、どういうペンを使って描くか何度も悩みながら描き直して完成させました。TikTokやInstagramで制作過程の動画も公開しているので、悩んでいる様子を楽しんでいただけたらと思います。

かけるんさん:
絵本というのは絵をベースに、文章量はかなり削って表現する必要があります。文章を削って、鳥を主人公にして、統合失調症のリカバリーストーリーを読者に伝わるようにできるよう工夫するのが大変でした。
また、自分一人で作っていないため意見をぶつけ合って制作するのが良いところでもあり、引っかかる部分もありというところでした。

Q.絵本を読んだ方からの感想

片岡洋子(kaede)さん:
「良いと思った」「心に届く感じ」というニュアンスのことを言ってもらえました。こういった仕事は本当にやりがいがあるなと感じています。

かけるんさん:
「絵なので見やすい」「ストーリーがわかりやすい」「絵が細部まで描かれていて綺麗」という話をいただいています。小説の方が具体的な話はわかるが、絵本だけでも内容がわかるようになっています。「絵本を読み聞かせに使いたい」という声もいただきました。

リカバリーカレッジの本場イギリスにて、イースト・ロンドン大学に在学中の田中庸介さんからも以下の感想コメントをいただいております。

とても素敵な内容で「もっとこの内容を社会に広めてほしい」と感じました。かけるんさんの経験に胸を打たれたことに加え、僕自身のテーマとして持っている「相手をひとりの人として尊重すること」が書かれており、同じ想いを持つ方と出会えているんだと感慨深い気持ちになりました。
まだまだメンタルヘルスや精神疾患に対する社会からの見られ方は根深いですが、このような発信から少しずつでも状況が改善していくといいなと思いました。そして、かけるんさんが自分らしく生きる姿が周りに希望を与えており、周りからもかけるんさんが希望をもらっている素晴らしい相互関係が描かれているのがとても素敵でした。
読ませて頂き、本当にありがとうございました!

イースト・ロンドン大学 田中庸介さん

絵本『飛べない鳥のかけるん』のその後の活用

絵本完成後、クラウドファンディング支援者様にお渡しするだけでなく、福祉施設、医療機関、学校、自治体など様々な施設に寄贈して、統合失調症の理解を広めるために活用いただいております。

かけるんさんがお住まいの佐賀県唐津市の「唐津市障がい者支援センターりんく」にも、『あなたには生きていてほしい』の本と『飛べない鳥のかけるん』の絵本を5冊ずつ寄贈させていただきました。

唐津市障がい者支援センターりんくに置かれている
絵本『飛べない鳥のかけるん』と書籍『あなたには生きていてほしい』

また、イラストを描いた片岡洋子(kaede)さんのお住まいの長崎県大村市の市長 園田 裕史様からもご支援いただき、大村市へ絵本を寄贈させていただきました。

左から長崎県大村市市長 園田 裕史様、片岡洋子(kaede)様、夫のはるのぱせり様

絵本『飛べない鳥のかけるん』のグッズ

絵本『飛べない鳥のかけるん』の挿絵のグッズをオンラインで販売しています。Tシャツやクリアファイル、エコバッグ、トートバックなどがありますので、ぜひ以下のオンラインショップをご確認いただけると嬉しいです。

絵本『飛べない鳥のかけるん』のNFTコレクション

絵本『飛べない鳥のかけるん』のイラストについて、NFTマーケットプレイスOpenSeaにてKakerun the Flightless Birdという名前でNFTコレクションを作成し、NFT1点あたり0.01ETH(2022年7月時点で日本円で1,500円程度)にて先着順で販売しています。

【Kakerun the Flightless Bird】
https://opensea.io/collection/kakerun-the-flightless-bird

絵本『飛べない鳥のかけるん』の制作チームについて

『飛べない鳥のかけるん』は統合失調症当事者のかけるんさんの体験談をもとに、同じく統合失調症当事者でイラストレーターの片岡洋子(kaede)さんと、株式会社パパゲーノが共同で制作しました。

かけるんさん

佐賀県出身。統合失調症で閉鎖病棟に入院中に書き殴っていたノートをもとに、自身の体験を綴った書籍『あなたには生きていてほしい』を自費出版。300部を印刷し自ら配布。リカバリーカレッジふくおか、さがの運営に携わっている。

片岡洋子(kaede)さん

「kaede」というペンネームで、個人で挿絵、肖像画などの仕事をしているイラストレーター。被爆2世という立場から反戦の祈りを込め絵と詩を描く。就労継続支援B型事業所を利用しながら長崎大学などで、(夫と共に)ピアサポート関連の精力的に活動。

株式会社パパゲーノ

「生きててよかった」と誰もが実感できる社会を目指して、精神疾患・メンタルヘルス不調を経験した当事者によるNFTプロジェクト「100 Papageno Story」を運営。その他にも、精神疾患のスティグマ解消やピアサポートの促進に向けた活動を多岐に渡り展開。

参考リンク
絵本『飛べない鳥のかけるん』のAmazon販売ページ
『飛べない鳥のかけるん』の虹色の羽へのこだわりとは?|Podcast番組パパゲーノの秘密基地
統合失調症当事者による体験を「絵本」で届けたい! - CAMPFIRE (キャンプファイヤー)
『飛べない鳥のかけるん』のグッズ|SUZURI(スズリ)
『飛べない鳥のかけるん』のNFTコレクション|OpenSea