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「奇特な病院」涙こらえて科

※連作短編小説ですが、1話でも完結します。

第9外来:涙こらえて科(担当医 剣持猛)

「泣くな」
 なぜ泣いて悪い?涙は誰かを攻撃したりしない。
 それでも「泣くな」と言われるし、自分でもここで泣いたらおかしいと思って、泣くのを我慢する。涙はこらえるもの。そんな風に思い込んではいませんか?
 それでもどうしても涙の流れる出来事は起こって、悔しくて、あるいは、人を想って涙を流す。涙をこらえても頑張らなくちゃいけない場面がやってくる。
 患者さんの中には、大事な人を亡くされて、ここに訪れる人も多い。
 子供の前では心配させるから、泣けない。
 弱ってるところを誰かに見せることが恥ずかしい。
 それならば、一人で泣けばいい。
 トイレやお風呂で泣けば、水が洗い流してくれる。
 そして、「泣けた」と思うことがどれほど大切か。
 自分のために泣いていい。ドラマを見て泣いていい。寂しくて泣いていい。
 涙をこらえたからって勲章はもらえない。
 就職面接で、言われたことが悔しくて泣いてしまっても、合格した人の話を聞いたことがある。
 あれは、だめ。これは、だめ。
 そんなことは誰にもわからない。
 一番は、自分が抱えすぎていないか。
 なぜ、涙をこらえる必要があるのか。
 よく考えて欲しい。
「私が泣き出したら、すべてが終わりのような気がして、どうしても涙をこらえてしまいます」
 なぜそう思うのか。
 泣いただけで、終わることあるのか。
 結構人生って何が起こっても死なない限り、続いていくものだけどな。
 私の話をしよう。
 年のせいか、テレビを見ていて、頑張ってる人を見ると、すぐ涙が溢れる。そういうとき、昔なら、そっと涙を拭い、後ろを向いた。だれにも見られないように。
 だけど、なぜ自分の中から湧き上がる感情をこらえることが必要なのだろうと考えてからは、堂々と涙を流すようになった。
 席を離れることもなく、思う存分泣きなさい。
 泣くことはきっといいことだ。
 隠すのは、そばにいる人にかっこつけているからかもしれない。
 泣きわめく人は別の科に行ってください。
 ここは、人の目を気にして、泣くことを怖がり、涙をこらえて頑張っている人のための科です。

 お大事に。

(第10科 話が脱線する科です)

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