データドリブン人事戦略②-運用イメージと落とし穴

前回の記事でデータドリブンとは何か、運用する上でのポイントは何になるかを書きました。今回はデータドリブンな人事とはどんなものか実例を用いながら運用イメージを書いて見たいと思います。

今回の記事も「データ・ドリブン人事戦略 データ主導の人事機能を組織経営に活かす (Japanese) Tankobon Hardcover – June 19, 2019」が元になっています。Amazonで買えるのでぜひ。

Google中間管理職の検証の事例

これは有名な事例になりましたが、当初Googleの創設者たちは中間管理職の役割は重要ではないと考えていたので、これらの役職を2001年に廃止しました。後でこの考えが誤っていることが明らかになり、中間管理職を復活しましたが、社内では懐疑的でした。
Googleはデータを使ってマネージャーの価値の定量化を試みます。
チームのパフォーマンス、従業員のエンゲージメント、従業員の離職、生産性に大きな影響を与えていることを統計的に証明するに至りました。
レポートはこちらです。
結果として良いマネージャーと悪いマネージャーがいるだけで中間管理職自体が悪いのではないという結果が出ました。
この後Googleは良いマネージャー像の研究を続けます。その後10種類の良いマネージャーに必要な特性をまとめます。
詳細については今後記事化しますが、重要なのは定性的な仮説を社内の合意形成のために定量的な検証をしたところにあります。これこそがデータドリブン人事戦略では必要な部分になります。
では人事のデータはどのようなデータを取ることができるでしょうか?

どんなデータが取れるか?

1構造化データ、4非構造化データによる分析

テキスト分析:
大量な非構造化テキストデータから価値を抽出するプロセスです。
eメール、アンケートの回答、求人応募、業績評価ファイル、SNS投稿などが含まれます。
テキスト分析は特に従業員理解を深めることに役立ちます。優秀なCS担当者やマネージャーの特定に役立ちます。スタッフのエンゲージメントレベルの分析にも役立ちます。

予測分析(構造化):
過去のデータに基づいた将来の結果予測にデータ、統計モデリング、機械学習を使うものです。
人事的には退職可能性といったリスクの発生の可能性を把握することに使える機能です。
例えば、Googleは入社から4年以内に昇進しない営業担当者は会社を辞める可能性が高いことを確認しました。

画像分析:
画像から情報・意味・洞察を抽出するプロセスはパターン認識に依存しています。従来これは人間の目による分析が主流でしたが、画像の内容を理解し
認識できるレベルになったので、現在ではセキュリティを目的とした顔認識やSNS投稿された自社ブランドや製品の認識の分析などに活用されています。

ビデオ分析:
画像とほぼ同じですが、より行動を測定し追跡することが可能です。
行動分析をし異常行動や疑わしい行動をリアルタイムで警告することも可能になります。

感情分析:
テキストから主観的な意見や感情を抽出するのに役立つため、テキスト分析と密接に関連しています。
会社のインセンティブプログラム変更の提案や組織の全体的な状況に対して個人と組織の態度がポジティブかネガティブか、またはニュートラルかを理解することができます。

では、これらのデータをどのように分析するのでしょうか?

主要なHRアナリティクス

能力分析:
従業員のスキルや専門知識にを測るものです。
ビジネスに必要とされる能力やコアコンピテンシーを特定するタレントマネジメントシステムになります。また一度必要とされる能力が明確になれば、現在のスタッフを分析し、ギャップがあるかどうかを確認することができます。

企業文化分析:
作りたい文化の変化の追跡をする、実際の文化がどのように変化しているかを理解する、好ましくない文化発生の早期兆候を捉えるシステムを構築する、企業文化に合わない人材を採用していないことを確認するなどが含まれます。

コンピテンシー獲得分析:
組織の成功に欠かせない重要なコンピテンシーを特定し、どれほど効果的にそれらの能力をもった人材を惹きつけているかを測定します。

キャパシティ分析:
業務オペレーション効率上、有効に働くことができている従業員がどれだけ会社にいるかを検証します。アドミニ業務に時間を取られ収益性の高い仕事を十分にこなせないや従業員個々の業務負荷が大きすぎないかを検証します。

従業員の離職分析:
従業員は最も重要で、しばしば最も高価な資産になります。その人材を雇い、訓練し、経営に資するまでには時間と費用がかかりますが、仮に従業員が退職しているならば投資が失われることになります。
また高い離職率は既存メンバーの混乱をきたし、モチベーションと生産性の低下を招きます。
健全な離職レベルを特定し「残念」な離職を減らすことが必要になります。

採用チャネル分析:
会社の従業員として適切でない人材は他者の混乱を招いたり、その人材のパフォーマンスを他の従業員がカバーする必要性が生じさせます。またこれは他の従業員の離職を誘発する要因に繋がります。
優秀な従業員をどこから採用したのか、どのような採用チャネルが効果的であるかを見極めるプロセスになります。

リーダーシップ分析:
特定部門、組織全体であろうとリーダーシップ不足は金銭的なコストになります。リーダーシップの大部分は主観的なものになりますが、善・悪・醜で多角的に分解して明らかにするプロセスになります。優秀なリーダーは特定の人格特性や特徴を示す傾向にあります。

従業員パフォーマンス分析:
良いパフォーマーの特定や、パフォーマンス向上支援を必要としている従業員を特定します。

以下では具体的にどのようにデータドリブン人事を導入をしていったかを事例を見ながら考えたいと思います。

データドリブン採用

Xerox(ゼロックス)は150のカスタマーケアセンターで働く約4.5万人の従業員の中から、業績がよくかつ仕事への定着が高い従業員を見つけました。
結果、採用マネージャーが採用基準にしていたコールセンターの勤務経験が定着率や生産性に影響を与えないことがわかりました。
また逆に候補者がオフィスから近い場所に住んでいるかが、定着率に関連する強い指標であることがわかりました。

Xeroxは応募申請者の事実情報と共にアセスメントのスコアを分析し、各応募情報に交通信号を見立てた、緑は雇用を勧める候補者、赤は避けるべき候補者、オレンジ色は真ん中の3段階によるオンライン評価をしながら採用をしています。

データドリブン従業員エンゲージメント

2015年のデロイトの調査によると87%のビジネスリーダーが従業員のエンゲージメントと定着について大いに留意していることが明らかになりました。
エンゲージメントに関わる項目には大きく3点あります。
①従業員満足度の促進
②従業員の忠誠心と定着度の測定と改善
③データに基づく報酬と福利厚生の向上

これのうち②について今回の記事では触れます。
従業員のロイヤリティ(忠誠心)と定着率、顧客維持との間に関連性が証明されています。
多くの企業にとって誰がいつ離職しようとしているかを予測できることは、従業員の定着施策を行う上で最も知りたいところではないでしょうか?
Googleは2009年に自社の従業員アンケートや社内レビューからアルゴリズムを開発しました。
その結果として「十分な仕事を任されていないと感じる」という不満が人々に離職を決意させる最大の理由の1つであることを突き止めました。
実際、離職理由の多くはキャリアアップの機会に恵まれないことであり、必ずしも昇給が従業員定着の改善策にはならないことがわかっています。

データドリブン人事戦略の落とし穴

これまでデータドリブン人事戦略のよさについて書いてきましたが、当然良い面もあれば悪い面もあるというのが世の常です。
データドリブン人事戦略で気をつけないといけない点はどこになるのかを、最後に書いていきます。
ポイントになるのは透明性と信頼性です。

透明性
最近になって様々なサービスにおいてデータの利用の同意をするようになり、データが追跡されることにも慣れた世の中になりましたが、それでも何のデータをどんな目的に使うのかを示すことが重要になります。

人事も同様に、会社の従業員に関するデータを収集するための明確なビジネス上の理由を持たなければなりません。

そしてパフォーマンスの改善が目的であり、監視が目的でないことを伝える必要があります。

前回の記事でも書きましたがすベては戦略から始まります。
何をするためにデータを集めるのかから決めなければなりません。
そしてデータ収集のタイミングでは何のデータを何の目的のために使うのか従業員に伝達し、時によっては対話を通じてデータ利用の透明性を保つ必要があります。

信頼性
前回の記事ですべては戦略から始まるのところに、データを持つこと自体がリスクになるということを書きました。
人事の場合多くは個人情報になります。
潜在的な盗難や漏洩のリスクのある個人データは、会社や従業員にとってのセキュリティ上のリスクと考えなければなりません。

匿名化は1つの強力な方法です。分析目的を達成するために特定のデータを収集する必要がないと判断した場合、個人識別する値を匿名化してしまうことで、漏洩のリスクを最小限に抑えることができます。

その他にもデータの暗号化、データ利用の違反を検知して阻止するためのシステムの整備、情報漏洩を許すことがないようスタッフをトレーニングするなど、他にも様々な方法があります。

信頼性から直接売上を生み出すことはないかもしれませんが、不正利用があった場合に社内で協力を得られなくなったり、会社の評判を落としてしまうことになります。
人事担当はこれらの問題をしっかり留意する必要があります。

まとめ
かなり長くなってしまいましたが、データドリブン人事戦略をまとめてみました。
もちろん事例の中にはIoTデバイスを用いたものなど最新のものもありました。でも根本的なところは変わらず、何を人事として達成したいのかを明確にして、そのためにいろんな人に説明しながら協力を得て改善をしていく、その上でデータが活きるような印象を受けました。どんなデータが必要なのか、どんな人が働く会社を作るのか考えることから始めて見ると良いかもしれませんね。長いのに最後まで読んでいただいた方ありがとうございました!

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