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パリはうんことオシャレな大人が同居する街だった 01

もう20年も前、2か月パリに滞在した。
毎日なんの予定もなく、お金もなく、ただひたすらに街を歩いて、歩いて、人と話をしたり、美術館へ通ったりしていた。

私が育った時代は”個性偏重”、”女子高生の商品化”、”恐るべき子供たち”って感じで、同年齢がシリアルキラーだったり、街を歩いていると「いくら?」って聞いてくるサラリーマンがいたり、突き抜けたファッションが個性だと信じていたり…そういう感じの時代だった。

まだ日本が元気だったとも言えるし、すでに日本が貧乏になりかけていたとも言える。

私は、こう見えてひたすら真面目な学校生活を送っていて、優等生として日々ギリギリまで努力した結果、精神が疲労しすぎていた。

委員会をかけもちし、記者のようなことをして、バレエをやって、部活もやって、成績はよく、早く死にたい、私はダメな人間だからと思って…大学に入って……燃え尽きた。

そんなわけで、大学の夏休みと大学祭の時期は、必ず旅行に出ることにした。
若さと、なけなしの容姿を売る日雇いバイトをして…ミニスカートを履いて車やゲームを宣伝したりするやつ。それで稼いだお金をもって”何もしない”をしに旅へ出るのは楽しかった。

中でもフランスはお気に入りで、あんなに”何もしない”を楽しめる場所はほかにないと思った。

街並みは華やかで美しく、ナンパしてきた相手が私をほめたたえる傍らで、モネが好きならこの画家もオススメなんて言ってくれて、カフェにいたらバラの花が”あちらのお客様からです”って来るんだから。

モテたことのないパリッパリの喪女がさ、別に気飾りもしてない、ジーンズとTシャツとスニーカーで歩いているだけで「世界一きれいだよ」なんて言われるんだから、もう異世界転生よ。

ただ、私はそのころ男性に恋したことのないLGBTQsの、LよりのBだったため、ナンパされても誰かとセックスした経験もないし、ありとあらゆる手続き(コンビニでものを買う程度でもよ)にナンパをいったん挟むので、1か月滞在しているだけで(うぜー…)と思うようになったんだけど。

じゃあ、そんな地味な滞在で、何がそんなに素敵だったかというと”大人”。
フランスには、パリには、憧れる大人が、カフェに、美術館に、ホテルに、教会に、オペラ座に、道端にいた。

温室カフェでこないだ行ったバカンスの話をする婦人たち

フランス語もろくにできない、貧乏で、ヒマだけはあって、コミュニケーション能力が極端に低い私が、チラ見と盗み聞きで見つめたフランスのかっこいい大人…

いまフランスに行ったら、まず間違いなく「マダム」と呼び掛けてもらえて、言い逃れができないほど、じゅうぶんな”大人”になった私は、彼女たちに少しはおいつけたんだろうか。


旅行費用をカンパしたい人、大歓迎

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