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新刊『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』について

7/2、僕の新しい本『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』が、スタンド・ブックスという出版社から発売されます。そのことについて。

僕の住む街、石神井公園にあり、初めてのエッセイ集『酒場っ子』を出してくれたスタンド・ブックスは、数年前に酒がきっかけで縁ができ、いまやそこにデスクをひとつ間借りして仕事場にさせてもらっているという、公私ともにお世話になりまくっている出版社だ。

代表の森山裕之さんもまた石神井在住で、日々近隣の酒場や銭湯情報を交換するのはもちろん、スーパーでもやたらと出くわすことが多い、確実に地元でいちばんよく会う人。

そんな森山さんから「またパリッコさんと本を一緒に作りたい」と言ってもらったのは、もう1年以上前だったと思う。

森山さんは僕をやたらと過大評価してくれているようで、「パリッコさんの文章は酒好きだけにとどまらず、もっと多くの人の心に届くと思います。だから次は、酒というテーマに絞らない本はどうでしょう?」というようなことを、初めから言ってくれていたと記憶している。

ところが僕にはそんな自信はない。一応専門性があるからこそ、僕ではなく「酒」を好きな人の一部が応援してくれているだけであって、それをとっぱらってしまったら何も残らないような気がする。なので、声をかけてもらったことはありがたいけれど、「なるほど〜、確かにそういうのもありなのかもしれませんね。いや〜でも、う〜ん……」などと、煮えきらない返事をくり返してしまっていた。

その間、新型コロナウイルスの影響による世の中の状況はどんどん深刻になってゆき、酒場にも気軽に行けなくなった。そこで、もとから好きだった「思いついても誰もやろうとは思わないバカらしいことをとりあえずやってみる」という行為を、以前にも増し、ひたすら記事として発表し続けているうちに、ひとつひとつはバカらしいけど、その集合体に妙なパワーのようなものがあるんじゃないか? と思えるようになってきた。

最初から、森山さんには僕よりもずっと先が見えていたのだろう。どんな状況であっても僕たちの日常には、息抜きや、くすりと笑える小さなおかしみのようなものが必要なのだと。

ある日、ふと、自分のやっていることは、「暮しの手帖」ならぬ「暮しの自由帖」と言えるのではないか? なんて思い浮かび、森山さんに伝えた。すると「そのキーワード、まさにですね!」という返事をもらえ、そこからはとんとん拍子に、発売日やらそこに至るまでのスケジュールやらが決まっていった。

当初タイトルは「暮しの自由帖」以外にないような気がしていたんだけど、なんども打ち合わせを重ねるなかで、森山さんが編集長をつとめる WEBメディア「QJWeb」に寄稿したひとつの原稿のタイトル『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』に決まった。本のタイトルを決めるのって本当にものすごく難しい作業で、絶対に途中で何が正解かわからなくなってくるんだけど、今はこれ以外になかったと思える。

タイトルが決まると、それまでなかった表紙のイメージが突然浮かんできた。僕は、永井博さんやわたせせいぞうさんに代表される、80's感とリゾート感あふれるイラストに、昔から妙に胸をざわつかせてしまうところがあった。そんな世界観と「スーパーマーケット」というキーワードを融合させてみるのはどうだろう? 思いついた時、もう、お願いするのは、大好きなイラストレーター、ボブ a.k.a えんちゃんさん以外にいないと思った。それまで本のデザインは、もちろん意見は出しつつも、基本的に編集さんやデザイナーさんにおまかせすることが多かったんだけど、今回はちょっと強引に「こういうのが良くないですか!?」と、自分の意見を通してもらってしまった気がする。

えんちゃんさんは快諾してくれ、短い期間で、想像をはるかに超えた素晴らしいイラストを描いてくれた。デザイナーの戸塚さんは、確かなプロの仕事でそれ最高の形にしてくれた。正直、この表紙を眺め、本棚に飾るためだけにこの本を買っても損はしないと思う。そしてそして、おそれおおくもあの山田詠美さん、ライムスター宇多丸さんに、恐縮すぎる帯コメントまでいただいてしまった。

タイトルに「酒」「飲」「酔」「晩酌」、どの文字も入っていない初めての本。僕の大好きな、夏! リゾート! な世界観を、表紙で全力で表現しきれた本。ずっとファンだったけど、場末の酒場がお似合いの僕と交わることはないだろうと思っていたボブ a.k.a えんちゃんさんに、装画をお願いできた本。すべてが流れのなかで決まっていったことだけど、スズキナオさんとの共著も含め、11冊目の本という新たな節目に、なんだかふさわしいものになったなと思います。

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よかったら気にかけて〜。


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