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小沢健二東大900番講堂講義 渋谷追講義について

10月2日に渋谷LINE CUBEで行われた、小沢健二さんのライブ「小沢健二 東大900番講堂講義・追講義+Rock Band Set」にいきました。

今回は講演タイトルにあるように、前半2時間超が「講義」、後半1時間弱が「ライブ」でした。

講義の内容


教科書を用いて進んでいきました。

教科書

小沢健二さん自身が興味を持っていること、考えていることが点々と展開されていきました。2時間の講義として、結局のところなにが伝えたかったのかというのを、わかりやすく説明できるような内容ではありませんでした。小沢健二さんの頭の中を覗く、というのが、適切な説明だと思います。

どんな話があったか?

・情報がたくさん増えた話。広告の話。
・デジタル以前の1960年から情報が増え続けているということ。
・現代が「情報イナフ」であるということ。
・A/D変換、D/A変換の話
・プラトン「国家」について
・イデア論について
・小沢健二自身の創作について
 自分の心象みたいなものを、エイヤっと形にして決めつける。「限られた手段を限られたものと意識しながら用い 驕り 隙間に落ちてしまうもの 隙間にひそむもの を感じつつ」自分のつくったものが、何かしらの関係性で、タイミングで、その人にとって重要なものになればいいな、という感じで思っているらしい。あと、創っているときには、これで完璧だ!これ絶対良い、みたいに思うことは無いらしい。いいなとはもちろん思っているけど。
・液晶画面の仕組みは、実はめちゃアナログだという話
・スマホの画面で表現できる色は、実はめちゃ限られているという話
・ラテン語のフレーズ「分割して統治せよ」の話
・栄養成分主義の話
 肉とか魚をプロテインとしてメニューに記載している事例。栄養成分主義は、新鮮さという観点を忘れてしまうという話。
・プラセボの話
 砂糖玉を患者に渡して、「これはただの砂糖玉ですが、プラセボ効果というものがありまして、効くと思って飲めば、効果がでることがあるらしいですよ」と説明する。この場合でも、患者に効き目が表れるという話。
・第一線の科学者と人類学者のステートメントの類似について
・宇宙線によって、デジタルの0/1が反転してしまうことがあるという話
・鑑識と科学について
・ゲノム解析について、昔は「神の領域」と言っていたが、今は「シボレー」と言っている話 資金調達、人間らしさ
・科学者と人類学者の話
・ジャガード織の話
・計画された古さの話
など

扱っているテーマが、陰謀論や懐古的な話に着地しがちなものばかりだったのですが、小沢健二さんの話し方でそのような印象を持つことはありませんでした。基本的に、社会というか人間っておもしろいよね~に着地していて、ご自身の興味を変にわかりやすくすることなく、伝えていたように思います。このような話の進め方は、話の中でも出た「わかりやすくすることで抜け落ちるものもある」的な考えに下支えされているのだと感じ、考えていることと、実践に一貫性があるなと思いました。また、基本的に論文を引用しながら話を進めていたので、納得感がありました。

あと、教科書のデザインがすごく良かったです。普通にグラフィックとして見てて楽しいことに加えて、透けて見えるページを前のページに重ねることで一次体験に二次情報を重ねたり戻したりできるという仕組みや、ページを破くという体験組み込むなど、アイデア的な面でも面白かったです。

新曲「ノイズ」について

曲を要所に挟みながら講義は進んでいきました。「ノイズ」という新曲と、「アルペジオ」と「いちょう並木」を行ったり来たりするやつ、流動体について、そしてもう一度「ノイズ」が披露されました。演奏はクラシックギター一本で、ギターの音はサラウンドで音がぐるんぐるん廻っていました。

新曲「ノイズ」にあった歌詞
・この感覚なら子どもの頃からある
・レモンパンのようにメロンパンのように
・ノイズが僕を変えてゆく(サビ)
・ゆっくりした瞬間
・本当の傷をつける

デジタルの0/1は、宇宙線や細かな衝撃(ノイズ)によって数値が反転してしまうことがあるらしいです。小沢健二さんは講義で、デジタルというものを「現代に良いか悪いかは別としてたくさんあるもの」である一方で、「分割してわかりやすくすることで、抜け落ちるものもでてくる」ものであると捉え、不確実で曖昧な「アナログ」と対比していました。「アナログ」のどういうところについてどのように考えているのかというのは、今回の講義で説明に時間を割いていた部分なので、細かなニュアンスをそぎおとしてしまうことを懼れ、説明はしないことにします。

僕の感想としては、ノイズという言葉と恋、魔法、運命、UFOといったこれまで歌詞で使われてきた言葉がリンクするように思えました。

ライブの内容

1高い塔
2運命、というかUFOに
3ローラースケート・パーク
4強い気持ち・強い愛
5フクロウの声が聞こえる
6薫る(学業と労働)
7彗星
8ノイズ

特に
2運命、というかUFOにをきいているときに、さっき講義できいた小沢健二さんの考えていることが、曲とリンクしているように思え、そしてさらに他の観客もなんとなくそう思っているような感じがして。割とむずかしめの歌詞を、多くの人がよくわかりながら楽しんで口ずさんでいる、という状況が、人間の営みとしてあまりにもすごいことであると思えてきました。あと、個人的に思い入れがあることも加わって、目が潤んできました。
3ローラースケートパークは、めちゃ良い曲なので、泣きました。
4強い気持ち・強い愛は、もうめちゃくちゃに泣きました。はじまってからもう、感極まっているんですけど、1番サビ前でもう一回、一番最初からやりなおすし、みんなで歌おう!と煽ってくるので、みんなハンズアップしてノリノリ、そして体感半分以上の人が歌って、もう涙をふく人もいて、「強い気持ち~強い愛~」の大合唱。ありえない熱狂。こんなことがありえるのか、というか集団の可能性というか人間の可能性というか、そんな感じのレベルで感動してしまってもうびしょびしょでした。

セトリ的に濃密で、めちゃ良かったです。最後に「ノイズ」のバンドバージョンで締めくくられました。

全体の感想

やりたい放題やっているな、という印象で、もう、自分の思っていることを、自分の伝えたいままに伝える、というような。受講する側としては、整った、わかりやすくまとめられたものを聞いて、活用しやすい、現実に当てはめやすい知識を持って帰ったほうが、便利だし、有益なように思える。講義内容自体も、考えていることが高度であったし、色々な話にとんで、結局なにが言いたかった?というようなかんじ。誰かに話そうにも、なんとなく話せず、まとめられず。

ただ、伝わってくるものがなかったかというと、そうではない。大いに価値がある時間だったと思っている。きれいにわかることはできないが、伝わってくるものはたくさんあった。そして、様々なトピックに通底するような何かが、だんだんと感じられてきて、そしてそれが小沢健二の音楽とリンクする。ハイコンテクストな歌詞が、わかる。なんとなくわかる。「小沢健二」がなんとなくわかる。それは、一言であらわせることはできなくて、もやもやとした曖昧なもの。講義中で示された自身の関心が、小沢健二と受講者との関係として体現されているようにも思える。

非常にわかりにくく、何にお金を払っているかわからないが、終わった後に思ったのは、来てよかったということ。こういうよくわからない、曖昧であることを伝え、それを受け取り、それでいい、と思えるような人がこんなに活躍していて、そして、それを好きな人がこんなにもいるのだという事実を目の前にして、自分の中でどこか、他律的にしないといけないと思っていたことが、無理してやる必要もないのだと思えるような。

受講者が参加できるdiscodeがあるのですが、そこで興味深い、洞察に満ちた感想を呼んでいると、やはり多くの人に何かしら感じさせる、思わせる、考えさせるものだったのだと思いました。

一方でやはり、音楽というか表現はすばらしく、フリッパーズより前から蓄積されてきた、やってきたことの大きさというものは、計り知れない。伝えることだけでなく、技量が明らかにすごいというのは、ここも、改めて実感することだった。


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