見出し画像

ブーツの長い話

ブーツが好きだ。

生まれて初めて買ったのは、やや角張り尖った爪先の黒いショートブーツと、幅広な四角い爪先で茶色のマットなレザーの、16cmくらいの丈のショートブーツ。どちらもイタリア旅行の時に見つけた、変わったデザインだった。大学生の頃は、少し変わった感じのするものが好きだったね、そういえば。

その後しばらくは、ブーツと言えばすなわちショートブーツのことだった。洋服業界で働いていた時期にも、ショートブーツしか買わなかった。

なぜか。
当時日本で売られていたロングブーツが、私にはまったく履けなかったのだ。私の脚のふくらはぎ外周がブーツの外周より大きいから。「今度こそは行けるかも」と淡い期待を抱いては、デパートの靴売り場で何度も玉砕した。そのうちすっかり諦めて、ショートブーツ専門家として生きていくことにした。

時は過ぎて、パリで生活し始めて2-3年目の秋。
デパートで1足のロングブーツに出会う。

艶なしの茶色いレザーで、スクエア・トゥーの膝丈。膝丈である時点で、通常なら私の視野から消し去るところなのだが、ちょっと変わったディティールに興味を惹かれた。

内側と外側の両サイドが、ジッパーで全開できるようなのだ。すべてのジッパーを完全に開くと、剥いたバナナの皮みたいにデローンとしなる。この構造なら、私のふくらはぎを突破できるのではないか...!?

画像1

興奮を抑えきれず、試着希望を申し出た。ジッパーを全開にして、両サイド同時にゆっくり引き上げると... 履けたー!私の脚を覆えるロングブーツが、この世にも存在したとは!!!もちろん一緒に家まで来てもらうことにした。

履けたとは言え、最初の頃は革が硬くて、夜になると鬱血して気絶しそうだった。買って10年目くらいにソールを貼り替えてもらい、今ではブーツキーパー無しでは自立しないくらいに革もしなやかに。

この1足との出会い以後、ロングブーツへの恐怖はやわらいだ。さらに数年後には、昔なら完全に無視していたであろう、ふくらはぎで止まる丈のブーツにまで手を出すようになった。思うに、要は日本のブーツの作りが細かったんだよね、ヨーロッパのブランドのはだいたい履けたもん。

ここ数年はロングブーツにスカートまたはワンピースを合わせるのが大好きで、10月から4月までのの7ヶ月間はブーツを愛用している。

そして、20代の頃にあれほどコンプレックスだったふくらはぎは、今では少なからずスッキリしたように思う(当社比)。スニーカーでよく歩く生活になったからかもしれない。

この記事が参加している募集

買ってよかったもの

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?