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ミドリさんの神話

どこか、確かアフリカ大陸の国の一つ。エチオピアあたりの部族にまつわる神話だよ。ある王族の、兄妹の話なのだけれどね。
この二人は幼少の頃から特殊な環境におかれていた。それは失脚させられた前王の子達だったからだ。世にも残酷な運命!彼らはなんと毒虫でいっぱいの大きなツボの中で育てられた。その棘が刺さると大人でも、王宮の外まで聞こえる叫び声をあげるほどの痛毒をもつ、赤黒い大きなトゲトゲの芋虫だ。彼らは生きるため、痛みを克服するために、ふた通りの成長をみせたという。兄は毒虫の棘に耐えられるような分厚く醜い皮膚、強靭な精神と筋肉だ。でもその代償に、彼は人の感じる様な痛みが全くわからなくなってしまった。一方、か弱い妹は毒虫になるべく触れぬよう、いつも全神経を集中させて暮らさねばならなかった。毒虫のいない、わずかな床につま先で立ち、自分の力をできる限り抜いてその柔肌を棘に任せた。ついに彼女は全身に力をいれることが出来なくなってしまった。小さな声、細いからだ。そして他の誰よりも繊細な神経を手に入れた。
全く正反対の二人の兄妹。兄は妹が触れるのを感じず、妹はそばで兄が身じろぎするだけで恐怖した。でも一つだけ共通することが。そう、彼らは二人とも芋虫が大嫌いな大人になったんだよ。

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