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ウォーキングシミュレータとしてのOuter Wildsと断片的なストーリーテリング

2019年5月に発売されたアドベンチャーゲーム『Outer Wilds』は海外では発売当初から批評家の評価は高く、数多くの賞にノミネートされていたが、日本での知名度はいささか低かった。

2020年4月、個人ゲーム開発者のもっぴん氏がTwitterで絶賛し、これにつられてWebメディア「ねとらぼ」副編集長の池谷勇人(てっけん)氏がOuter WildsにドハマリしてTwitterで布教を始めたことをきっかけに日本でもOuter Wildsの知名度が向上した。筆者ももっぴん氏とてっけん氏につられて買ってプレイした人間の一人である。

Outer Wildsのゲーム内容は上記のてっけん氏のツイートの通りだが、22分で超新星爆発が起きる銀河の中で、主人公は死に戻りをしながら銀河系を旅して超新星爆発の謎を突き止めなくてはいけない。最初はわけもわからず数々の惑星を探索して古代人の遺跡を巡るが、プレイを進めて真相に近づくにつれ、話のあまりのスケールの大きさに圧倒されることだろう。

『Outer Wilds』はウォーキング・シミュレーター?

Outer Wildsはその独自性の高さゆえか、本作のジャンルが一体なんなのかプレイした人に聞いてもはっきりしないだろう(公式ではオープンワールドミステリーということになっている)。しかし、筆者は本作がミステリーやアドベンチャーゲームの系譜よりも、ウォーキング・シミュレーターと呼ばれるFPSのサブジャンルが源流だと考えている。

ウォーキング・シミュレーターとは、無人のロケーションで過去への回想や追想をベースにしてプレイヤーにストーリーを伝えようとする一人称視点のゲームのことだ。もっと簡単に言うと、FPSから銃と人間をとっぱらってメモと音声ログだけ残したようなゲームのことである。

しかし、Outer Wildsは宇宙のタイムループ系オープンワールドSFにしたり、相関図システムを用意することでウォーキングシミュレータが抱えていた問題を解決している面がある。ウォーキング・シミュレーターが一体何で、それのどういった問題が解決されたのかを説明するために、まずはウォーキング・シミュレーターの歴史を紹介しよう。FPSマニアがブチギレるざっくばらんとした紹介となるが、そこはご容赦願いたい。

環境ストーリーテリングは「人間を描かないことこそが最もリアルな人間の描き方である」という思想

ウォーキング・シミュレーターで用いられるストーリーテリングは90年代半ばのPCの能力の制限から編み出されたものだ。Looking Glass Studios(以下、LGSと表記)が1992年に『Ultima Underworld』という一人称視点のRPGを作った。まだFPSという用語も生まれていない時代(Wolfenstein 3Dと発売が一か月違いで、DOOMは本作の1年後)にFPSのRPGとして作られた本作は、当時のPC向けRPGマニアから未来的だとウケてそこそこヒットした。しかし、あまりにマニア向けの内容としてパブリッシャーから不評だったため1993年の二作目でシリーズは打ち切りとなった。

また、プロデューサーのウォーレン・スペクター(Warren Spector)氏は「人間の描き方」に納得がいかなかった。プレイヤーは人間に話しかけると会話文として文字を読み、会話に分岐がある場合は2~3つの選択肢から選ぶRPGらしい一般的なものである。しかし、Ultima Underworldが当時としてはかなり先進的なシミュレーション志向のシステムということもあって、なおさら人間との会話の仕方の旧来のゲームっぽさに納得がいかなかった。

そこで、LGSが1994年にリリースした『System Shock』では「プレイヤーを興ざめさせず、没入感を維持するために、ゲーム的な都合の要素を一切入れない」ことを目標に、発想を逆転して「プレイヤーを人間と一切会話させない」というストーリーテリングを行った。プレイヤーは悪の人工知能「SHODAN」によって船員が皆殺しにされた宇宙基地から脱出しなければいけないのだが、基地のあちこちに散らばる、すでに死んでしまった人々の書類やメール、ボイスログを拾い集めることで宇宙基地の過去を想像したり謎解きのヒントとして活用したりできる。一応生きている人間から音声メールが届くこともあるが、最初から最後までゲームプレイ中に生きている人間と直接対面することはない。なお、メモや音声ログだけでなく周囲にある死体や備品など総合的に含めて「環境ストーリーテリング」と呼ぶ場合もある。

この手法にたいそう影響を受けたのがケン・レヴィン(Ken Levine)氏。レヴィン氏はLGSからの独立後に立ち上げたIrrational Gamesで1999年に『System Shock 2』の制作を指揮した。同作の売り上げは芳しくなかったが、サバイバルホラーの傑作の一つとしての評価を確立した。その後しばらくして、同作のノウハウをふんだんに活かした後継作『BioShock』は2007年に発売されて全世界で大ヒットし、ストーリー重視型一人プレイ用FPSとして金字塔となる実績を残した。

おそらく「ボイスログ芸」とも呼ぶべき手法が一般のゲーマー層にも認知され始めたのは『BioShock』がきっかけだろう。BioShockの舞台となる海底都市ラプチャーは主人公が訪れた時点で既にほとんどの住人の理性が崩壊するか死に絶えている有様の崩壊模様だが、各所に配置されたボイスレコーダーからかつて人がまともに住んでいて、人々が勤勉に働いてそこそこ幸せそうだった様子を伺い知れる。また、本作でもSystem Shockシリーズと同様に「まともに会話ができる状態の人間」とゲームプレイ中に遭遇することはない。ほとんどの登場人物は無線越しにしか話しかけてこないし、主人公の目の前に現れる人間は理性を失って人を襲うことしか考えているような奴しかない。

また、ベセスダが発売したオープンワールドRPG『The Elder Scrolls (Oblivion, Skyrim)』『Fallout(3, 4, 76)』もメモや音声ログを活用していることで知られている。特に2018年にベセスダが発売したFallout 76はNPC0人のオープンワールドRPGという無茶苦茶なことをやって見事に失敗してしまったのだが、オープンワールド版ウォーキング・シミュレーターとでも表現すべき寂寥感が筆者はけっこう好きだった。

低コストゲームとしてのウォーキング・シミュレーターの発達

ウォーキング・シミュレーターの概念が生まれだしたのは2010年前後である。まず、PCゲームになじみ深い国々では90年代からFPSのMOD制作(ゲームを改造してマップやアイテムを追加する創作行為)が盛んに行われていた。FPSを始めとしたPCゲームではゲーム開発会社がプレイヤーにMOD用ツールを配布することが珍しくなかった。

とはいえ、FPSが高度化するにつれて多くのMOD制作がぶちあたった問題が「FPSで満足に遊べるMODを作るのって難しくない?」ということだった。FPSでオリジナリティのあるMODを作ろうとすると、銃撃戦に適した立体的な構造のマップデザイン、自分でデザインした武器、敵キャラクターの行動スクリプト、ステージ上のストーリーや演出などが欠かせない。ただ、ゲームをプレイしているだけの一介のプレイヤーが全てを担うには荷が重すぎた。

そこで、技量の高くないMOD製作者は「敵キャラクターを登場させず、武器を使う必要をなくし、独自に設計した建物の空間でストーリー・演出を見せる」という手法を多用した。しかし、技量不足の言い訳のように見えるストーリーテリングでも商業レベルのものを作れることを発見した人々がいた。ちなみに、ウォーキング・シミュレーター初期代表作の『Dear Esther』と『The Stanley Parable』は元々『Half-Life 2』のMODとして公開され、その反響の大きさゆえに商業化の道を歩んだ。

なお、2010年以降は誰でもインターネットでゲームを販売できる環境が整ったことで個人や小規模スタジオが自分でゲームを販売するインディーゲームのブームが発生したり、MOD(二次創作)から商業に鞍替えするにあたってUnityやUnreal Engineといった商業向けのゲームエンジン(ゲーム制作ソフト)に開発者が移行した。そうしてインディーゲームの隆盛とウォーキング・シミュレーターの流行が並行したのだ。

華々しいウォーキング・シミュレーターたち

筆者は『Dear Esther』をきちんとプレイしていない(買ったけどあまりプレイせずデータを紛失した)のだが、一応含めて簡単に説明させていただく。以下のラインナップは公式・非公式含めて日本語にも対応に対応したウォーキング・シミュレーターの代表作たちである。

・『Dear Esther』 (MOD版が2008年、商業版が2012年、リメイク版が2015年)

「ウォーキング・シミュレーター」の草分け役。妻の死の謎を追って男が無人島で徘徊したり独り言をナレーションとしてつぶやいたりすることで雰囲気でプレイヤーにストーリーを伝えようとした。リリース当初は画期的と評価された一方であいまいすぎるストーリーテリングに対する批判もあり、その後のリメイク版の評価も芳しくないため現在は「ジャンルの草分け的存在ではあるが、後継作と比べると完成度はやや低いタイトル」という扱い。かつてPLAYISMが日本語版を販売していたがすでに販売終了、リメイク版は日本語非対応のため2020年12月時点で日本語でのプレイは困難を極める。

・『The Stanley Parable』(MOD版が2011年、商業版が2013年)

「ナレーター芸」筆頭作品。本作はナレーターがつねに喋っているのだが、プレイヤーの行動に対してナレーターが口をはさんでくる。ナレーターに従うもよし、逆らうもよし、プレイヤーの行動次第でゲームの展開はどんどん変化する。FPSのメタフィクション芸ここに極まれり。ただ、ナレーター芸特化なのでドキュメントを読み集めて想像する要素はあまりない。リメイク版が2021年に発売予定。筆者は本作をプレイできていないが、同作の開発者による『The Beginner's Guide』や『Dr. Langeskov, The Tiger, and The Terribly Cursed Emerald: A Whirlwind Heist』はプレイして面白かったです。

・『Gone Home』(2013年)

BioShock 2(上記のケン・レヴィン氏は関わっていない)のDLC「Minerva's Den」の開発スタッフで構成されたスタジオ「Fullbright」が2013年にリリースした。それまでウォーキング・シミュレーターは抽象的だったり実験的・メタ的だったりするもののような扱いだったが、本作はウォーキング・シミュレーターで現実的な家族関係をきっちりと描いたことに価値がある。

主人公は海外旅行から久しぶりに家に帰って来たのだが、自分のいない間に家族はとある屋敷に引っ越していた。さらに、主人公が帰って来た日に家族は誰も屋敷にはいなかったのだ。主人公は自分にとって見知らぬ場所でありながら家族の痕跡にあふれた屋敷を探索して、自分のいない間に家族になにがあったのか、どうして無人なのか、屋敷の過去について探る。家のあちこちに妹の日記があったり、小説家である父親の編集部との手紙のやりとりを見て心がキリキリしたりする。

余談だが、本作はホラーゲームではないのに妙に無人の屋敷が怖かったものなので、バイオハザード7の舞台であるベイカー邸にも影響を与えた

また、本作のスタッフによる『TACOMA』(2017年)は無人の宇宙船に残された記録を、ARを通して立体的に観察するというよりゲームらしい作りになっており、オススメしやすい。以下のリンクは筆者のレビューです。

・『FIREWATCH』(2016年)

妻への介護疲れをきっかけに辞職し、アメリカの国立公園の森林監視員として一か月のアルバイトにいそしむ主人公ヘンリーは顔の見えない上司デリラと無線越しに会話することを楽しんでいた。しかし、とある日から公園内で不審な現象が生じるようになり……

80年代のエモいアメリカ、トゥーン調で描写されるドデカい森林公園、情緒あるいい音楽など様々な魅力はあるが、一番の魅力は上司デリラとの会話の選択肢を自分で選んで上司との絆を深めていくことだろう。デリラから無線越しに通話が来ることがあるものの、プレイヤーはモノを見つければ自分から報告したり会話の内容を変えることができる。会話を重ねるうちにプレイヤーはデリラへの愛着がわきつつも、ヘンリーには要介護の妻がいることを思い出して関係性にやきもきする。ただ、ウォーキング・シミュレーターらしく上司デリラは最初から最後までプレイヤーの前に姿を現さない。無線越しの顔が見えない相手だからこそ、プレイヤー(と主人公ヘンリー)の頭の中であそこまで魅力が引き出された人物となったのかもしれない。

のちに本作の開発スタジオはVALVEに吸収され、開発途中だった次回作『In the Valley of Gods』のスタッフが散り散りになって開発が凍結した。

・『フィンチ家の奇妙な屋敷でおきたこと』…原題:What Remains of Edith Finch(2017年)

ウォーキング・シミュレーターというよりは一人称視点のインタラクティブ映画短編集。一族全員が変死を遂げることで有名なフィンチ家の10人分の死の過程を一人称視点で追体験する。頑張れば2時間ぐらいで終わるので頑張ってください。環境ストーリーテリングはすごいがメモを読み漁る要素はあんましない。本作の驚きは飛び出す絵本を読むときに近いかな。ウォーキング・シミュレーターとしては珍しく操作すること自体が面白いゲーム。死がモチーフではありますが怖くはないです。

ウォーキング・シミュレーターの弱点と類似点

そういうわけで、2010年代はウォーキング・シミュレーターが小規模開発者たちの間でひとつのジャンルとして流行したことをわかっていただけたと思う。ただし、これは筆者の主観なのだが、2018年以降は目立った有名なウォーキング・シミュレーターがリリースされていないように感じる。

筆者が思うに、ウォーキング・シミュレーターのストーリーテリングとして定番の「無人の施設でメモや書類を読み漁ったりボイスログを聞きまくったり、人と直接会わずに無線音声を聞き流したりする環境」を違和感なく実現できるロケーション自体があんまりないのではないか。『PREY』(2017)が顕著だが、2010年代以降に作られたゲームで宇宙船の中のあちこちにボイスレコーダーが落ちている近未来SFは無理がある。ただ、メモとボイスログを収集するゲームプレイはウォーキング・シミュレーター以外のメジャーなジャンルにも受け継がれている。

また、ナレーター芸もThe Stanley Parableのチームがやってしまったというか、ウォーキング・シミュレーターではないもののメタフィクション芸を2015年のUndertaleと2017年のDoki-Doki Literature Club(DDLC、ドキドキ文芸部)でやりつくされた感じがあるのでやりづらい気もする。

そして、ウォーキング・シミュレーターはジャンル名が示す通りゲームプレイは基本的に歩くだけなので、メモやボイスログを上手く配置しないとプレイの手ごたえがなくてかなり退屈になる。なお、もともと皮肉でつけられた名前がジャンル名として定着したというのもある。ウォーキングシミュレーターって何?

そのほか、一人称視点のホラーゲームが隆盛して低予算ゲームの新たな定番となったことも無視できない。小島監督が手掛けたホラーゲーム『P.T.』(2014年)は短い内容ながら全世界のゲーマーに衝撃を与え、低予算でP.T.のような一人称視点の短編ホラーゲームを作る開発者やスタジオが続出した(もっとも有名なのは『Layers of Fear』や『Observer_』で知られる「Bloober Team」だろう)。2010年代で最も影響のあるゲームの一つとも言える。

また、ホラーゲームはもっぱら主人公が脅威に対抗するための武力を持たず、無人の不気味な施設を探索したりひたすら逃げ続けたりするなど消極的なゲームプレイが求められる。これはウォーキング・シミュレーターの「武器も持たずに無人の施設をひたすら探索する」ゲーム体験とよく似ており、似たようなゲームシステムながらプレイヤーの興味をより引きやすいとして一人称視点のホラーゲームに軍配が上がったのかもしれない。

ある意味では、ウォーキング・シミュレーターは「銃を使わないFPSで、どのようにプレイヤーに体験を提供するのか」を試行錯誤してきた歴史であり、特に断片的な情報から舞台の背景を想像することに特化させた実験的な取り組みではあったものの、インディーゲームがメジャー化・商業化する中で他のジャンルに吸収されつつあるように思える。

Outer Wildsは星々に散らばる古代人の痕跡を辿る

話が長くなり過ぎたので、本筋に戻ろう。

Outer  Wildsは22分で超新星爆発が起きる銀河の中で、ループの謎を解明するために銀河の星々を飛び回ることになる。説明だけ聞くと全然ウォーキング・シミュレーターらしくないかもしれない。

じゃあ、なんでOuter Wildsがウォーキング・シミュレーターっぽいのかというと、主人公が追いかけるのはとうの昔に滅んでしまった古代人や古代文明の遺跡だから(今の文明の友人・知人は出てくるのですが、あまりメインではない)。すでに死んでしまった人達が残した建物や遺物、文献で会話を読み漁ることで真相に迫りつつ、古代人が成し遂げようとした行為に記憶を追想する。このストーリーテリングの手法とプレイ感覚が非常にウォーキング・シミュレーターっぽいのだが、抽象的・内省的・心情的でなくゴリゴリの宇宙SFのストーリーが展開されるのが新鮮だった。

また、宇宙をロケーションにすることでゲームのロケーションを豊富に用意できている。銀河には砂時計のように星から星へ砂が流れている双子星、水流で島が大気圏外へ吹き飛ばされてしまう星、時間の経過ごとに地面が崩壊してブラックホールに吸い込まれる星などがあり、どれもぜひ自分で訪れてゲームで歩いて環境を体験してほしい。人知を超える環境がシミュレーションされて、それを一人称視点で体験できるのは本当に面白い。

プレイヤーの動きに遊びを取り入れているのも珍しい。惑星間の移動は宇宙船のオートパイロットでひとっとびなので、長距離移動(惑星間移動)のわずらわしさを解消しながら短距離移動(惑星内移動)のアスレチック感を両立できている。

さらに、人によって攻略ルートがぜんぜん違うゲームである。最終的には一つのゴール(真実)にたどり着くよう設計されているが、あなたが最初にどの惑星へ行くのか、その惑星でどんなヒントを見つけて次の行動への手がかりを見出すのかが全く異なる。自分でプレイした後に実況プレイなどを見ると、マジで全然違う順番なのでビビることまちがいなし。パズルがあまり存在しないため、一つのパズルが解けなくて詰むことも生じにくくなっている。

また、22分でループするのがミソだ。主人公はタイムループで次の周に引き継げるのは知識だけであるため、あらゆる行為がすべて22分以内で完結するタスクなのだ。この事実に気が付くと結構気が楽になる。

Outer Wildsで画期的だった物語の読み解きを補助する相関図

ウォーキング・シミュレーターはメモやボイスログなど断片的な情報から全体を想像するのが楽しみ方なのだが、途中でプレイを長期間やめてしまったりメモを読んでも登場人物の名前が覚えられなかったりするとプレイヤーの頭の中でストーリーの全体像が把握できなくなってしまう。

そこで、Outer Wildsは古代人に関する情報を見つけ次第、ゲーム側が自動的に相関図を作ってくれる。また、この相関図を見ることで現在分かっていないことや次に行動すべき、探索すべき場所や事柄を教えてくれる(古代人の名前は出てくるが、プレイヤーが覚える必要はない)。相関図を埋めて広げること自体がプレイヤーの意欲につながるので、非常によい。開発者インタビューによると最初はなかったらしい。もしプレイヤーが全て手書きのメモをとらないといけないようなゲームだったら諦めていたと思う。

それも本作のゲームプレイがパズルに依存していないからこそ、プレイヤーの手元に情報を蓄積して推理を促すようなゲームプレイが実現できたのでしょう。ゲーム側がパズルのヒントや答えを一々教えてくれたら意味ないですからね。

ウォーキング・シミュレーターと個人的な展望

筆者はVRゲームに対して大きな関心を抱いている。なにせVRメディアを起点としてゲームライターを始めたぐらいであり、VRゲームは一人称視点のストーリーテリングの手法が多いに活用できるからだ。

そこで、筆者がもしVRゲームを作る機会に恵まれたなら、Outer Wildsのように壮大な探検と断片的な情報の収集によるストーリーの想像ができるVRゲームを作りたいと考えている。

実際、Outer WildsのVR化MODはあるのだが、Outer Wildsの操作感がかなり独特で人を選んだり、とっつきにくさでゲームが面白くなる前に諦めてしまう人が多い。つまり、プレイヤーへの親切さが通常のビデオゲーム以上に求められるVRゲームでOuter Wildsをそのまんま作ったらかなり人を選ぶものになってしまう。それに、VRで無重力を体験するのはめちゃくちゃ酔う(なぜならプレイヤーの現実は重力があるから)。多くのプレイヤーから人気を得るにはユーザーフレンドリーな設計も欠かせない。

そうなると、プレイヤーがあまり動かずとも多層的な時間や場所を瞬時に移動して、散りばめられた伏線から全体像を想像していくような推理ゲームという案に自然と落ち着く。ただし、ゲームプレイがプレイヤー一人だけの作業では心もとなく、一人称視点の無人のストーリーテリングに関心の薄いプレイヤーの関心を逃してしまう。そのため、プレイヤーのUIと相棒を兼ねるようなキャラクターと何かを探るようなものがいいんじゃないかと思っている。プレイヤーよりも他者への共感や感情移入を目的とした「第三者の視点」はVRゲームでないがしろにされがちであり、『ASTRO BOT'S RESCUE MISSION』から『LAST  LABYRINTH』まで、VRの三人称視点のゲームはまだまだ伸びしろがあるはずだから。

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