ピッチャーはストレートが速くないとねぇ 変化球が生きねえんだよ

私は野球経験がない。
友達と遊びで野球めいたことをしたことはあるし、小さい頃から野球ゲーム(というかパワプロ)をちょくちょくやっていたが、それらの経験をギュッとして「野球経験2か月」くらいを認定してもらえるかどうか・・・。

それでも野球漫画は好きで結構な数の作品を読んできた。野球の試合自体はなんとなく飽きちゃって最初から最後まで観られたことがないが、野球漫画はどれだけ長くても読めてしまう。確か囲碁将棋の情熱スリーポイントにニューヨークの二人がゲストで来た回で、屋敷さんが同じことを言っていた。

で、タイトルは私がこよなく愛する野球漫画『ストッパー毒島』で、主人公・毒島大広が剛速球を立て続けに投げた後に自身の決め球「ブスジマ・チェンジ」を投げた際のモノローグとして登場する名言である。
もともと作者のハロルド作石先生の漫画『ゴリラーマン』が家にあって、存在を認知してはいたが、先生の作品にのめり込んだのは漫画『BECK』が大流行してからだった。

BECKが流行った当時、私はロック好きな中学生で、まだギターもベースも始める前だった。ちょうどその頃はBEAT CRUSADERS(以下、ビークル)にハマっていて、「どうやらビークルのヒダカトオルが深夜アニメの音楽を担当しているらしいぞ」という噂を耳にし、さっそく夜更かししてそのアニメを観てみることにした。それが『BECK』のアニメだった。
今にして思えば主人公のコユキが天才すぎて「やっぱ才能の世界じゃん、バンドは聴くだけでいいな」ってなっておかしくない漫画だったが、当時まだ自分の可能性を信じまくっていた私は「超カッコいい!オレも高校入ったらバンドやるぞ!」と心に決めたものだ。おかげで今も趣味でバンド組んでベース弾けているから、この時まだ純粋な子どもでよかった。

ここまでアニメ『BECK』が面白いと原作の漫画も読みたくなるのが人間なので、私も例にもれず『BECK』についてリサーチを始めた。すると、作者がハロルド作石、代表作『ゴリラーマン』、『ストッパー毒島』・・・『ゴリラーマン』!?あの、兄の部屋の本棚に雑に置かれている、ゴリラ顔の男のドアップが表紙の漫画を描いている人が『BECK』描いてるの!?画風が全然違うじゃん!

そうしてゴリラーマン・ショック、略してリーマン・ショックにあてられた私は、とりあえず『ゴリラーマン』を読んでみることにした。
どう見ても高校生には見えない謎の男・池戸貞治(通称・ゴリラーマン)が白武高校に転校し、そこの不良生徒・藤本らと過ごす学園ドラマを描いた作品である。
このゴリラーマン、めちゃくちゃケンカが強くて、スポーツも万能、親兄弟が全員同じ顔、前の学校では車いすに乗っていた等々、とにかく謎が多い男なのだが、その謎がなかなか解けない。というのも、ゴリラーマンが一言もしゃべらないのだ。どれだけ痛い目に遭っても声を発さないし、国語の授業で当てられて教科書を読むように指示されても立ち上がったまま授業が終わるまで無言を貫く徹底ぶりである。
ゴリラーマン含め周囲を取り巻く登場人物が不良たちなのでケンカのシーンも多いが、ハロルド先生のセンスが光るギャグシーンが秀逸で、そのシリアスとギャグのバランスがとても良い作品である。
この物語は一体どんな結末を迎えるのか、ゴリラーマンは何者なのか、果たして言葉を発するときは来るのか。そんなことを考えつつ、ぜひぜひ手に取ってお楽しみいただきたい作品である。


・・・いや、ちがう。忘れていたが、今回の主題は『ゴリラーマン』でもなければ実は『ストッパー毒島』ですらない。というかハロルド作石先生についてでもない。

大前提として、私はひねくれている。大衆から猛烈に支持されているものを敬遠し、なんとなく「知る人ぞ知る」みたいなラインを探って攻めていくような生き方をずっとしている。
そのせいで同世代の8割が通ってきた『ONEPIECE』、『NARUTO』、『BLEACH』はひとつも知らないし、めちゃくちゃ世間でもてはやされているバンドの曲を後追いでチェックするのもなんか嫌で、いぶし銀なラインみたいなのを押さえて通ぶろうとしてきた。
結果的にGRAPEVINEとかMO’SOME TONEBENDERが好きになったし、漫画やアニメも街を歩けば自然と話題が耳に入ってくるレベルの人気作品じゃなくても面白いものがたくさんあると知ることが出来たのでその点には後悔していないが、世間で広く認知されているものを避けてきたことについてはやや後悔が残る生き方だったかなと思う。だって、良いものは良いんだもの。

ひねくれた私は変化球にばっかり意識が行って、ストレートはダサいと思ってないがしろにしてきた。しかし、表題のとおり、ストレートに力があるからこそ変化球が生きるのであり、変化球の醍醐味を知るためにはストレートに向き合う必要があるのだと毒島が教えてくれていた。それにもかかわらず、私は変化球のことばかり考えて、気づけばおじさんになっていた・・・。

「いや、今からでも遅くない!三十路からストレートを探る旅に出よう!」

そう心に決めて、私は近所のGEOに行き、Mr.Childrenのベストアルバムを借りることにした。ミスチルこそ、バンド好きの私が長年避けていた世間のど真ん中を行く剛速球であると思ったからだ。

しかし、ミスチルくらいキャリアが長いともうベストだけでも種類が多い。どれ借りようかなぁ・・・と思いながらアルバムを手に取り品定めのために裏面を見るも、さすがはミスチル。知ってる曲しかなくて逆に困惑する(ミスチルのベストアルバムだから当然だが)。
最終的に、我々世代が青春を投影し、「早く大学生になりたい!」と思わせてくれた名作ドラマ『オレンジデイズ』の主題歌である「Sign」が収録されている2001-2005のベスト<micro>と、ミスチルの曲の中で唯一私がカラオケで歌う「フェイク」が収録されている2005-2010のベスト<macro>を借りることにした。

帰宅して聴いてみた・・・いやいやいや、ミスチルめちゃくちゃ良いな!

聴くまですっかり忘れていたが「youthful days」がめちゃくちゃ最高だった!そういえば「youthful days」が主題歌のドラマ『アンティーク 〜西洋骨董洋菓子店〜』も2001年リアルタイムで観ていたなぁと思いだした。

「胸の鐘の音を鳴らしてよ 壊れるほどの抱擁とキスで」
(作詞作曲:桜井和寿 2001年 「youthful days」より)

このサビの部分の高揚感がすさまじ過ぎて、キー高くて出ないとしても全力で歌ってしまう破壊力。ここ数日ずっと「youthful days」をリピートしている。そりゃこんだけ速いストレート持ってたら売れるわ、ミスチル。感服いたしました。すいませんでした。

結局のところ、ストレートだろうが変化球だろうが、良い球は良い。しかし、実戦で使うにはその球自体の力だけではなく投球の組み立ても重要だ。
変化球ばかり追求してないで、ストレートについてもちゃんと勉強しておかないと本当の変化球の魅力すら見落としてしまうかもしれない。

遅れてきたストレート研究はまだ始まったばかりだが、これからも今まで避けてきた様々なジャンルのストレートを追い求めていきたい。
・・・飽きるまで。

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