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メジャーでよく聞くDFAって何? 〜山口俊はどうなるのか〜

こんにちは、pasta(@pasta_lgm)です。

先日、日本人メジャーリーガーの山口俊がトロント・ブルージェイズからDFAになったと発表され、日本で話題になりました。

日本では"事実上の戦力外通告"と訳されることが多いDFAですが、厳密に言えば戦力外通告ではありません(確かに似たようなニュアンスは含まれています)。しかし、DFAとはどういうことですか?と聞かれてもそれを端的に説明できる言葉が見つからないのも事実です。今回は、この日本では聞き馴染みのないDFAについて解説していこうと思います。

DFAについてお話する前に

DFAについて説明する前に、MLBのシステムについて説明します。

アメリカのプロリーグの階層は上記の図のようになっており、メジャーリーグの試合に出場するには、26人枠(アクティブ・ロースター)40人枠(40人ロースター)という2つの枠に登録される必要があります。
26人枠は簡単に説明するとベンチ入りメンバーのことです。メジャーリーグの試合に出場するためには、この26人枠に入らなければなりません。26人枠は日本の1軍に近いと言えるでしょう。
そして、その26人枠に入るためにはまず40人枠に登録される必要があります。40人枠は日本の支配下枠に近いかもしれません。
ちなみに40人枠に入る契約のことをメジャー契約と呼びます。

ここで、40人枠の残りの14人について説明します。
残りの14人は主に2パターンあります。

1.若手有望選手(プロスペクト)
MLBでは年に1回(12月ごろ)、ルール・ファイブ・ドラフトというものが行われます(現在日本でも議論されている現役ドラフトのようなものです)。
これは入団して4,5年経過してもメジャーに昇格していない他球団の選手を指名して獲得できるもので、プロスペクトの飼い殺しを防止する制度として一定の効果を上げています。
なので各球団はルール・ファイブ・ドラフトまでに自チームのプロスペクトを他球団に獲得されないようメジャー契約を結び、40人枠に入れるわけです。(ルール・ファイブ・ドラフトの対象はマイナー選手なのでメジャー契約を結べば対象外になる)

(補足)
40人枠に入れながらマイナーでプレーさせる権利(言い換えるならば26人枠に入れなくてもよい権利)を球団側が各選手につき原則3年分保有しています(マイナーオプション)。マイナーオプションを行使してマイナーに降格させると、10日間はメジャーに昇格させることができません。
マイナーオプションは年内であれば、何回行使しても1年分という扱いになります。

・2020年に選手Aを1回マイナーだけ降格させた→マイナーオプション1年分
・2020年に選手Bを5回メジャー昇格させ、5回マイナー降格を行った→この場合でもマイナーオプション1年分

つまり、40人枠に入りながらも26人枠に入っていない選手は、マイナーオプションを行使されたプロスペクトが大半になります。
マイナーオプションが残っていても5年間MLBでプレーすると消失します。

2.けが人
医師により試合出場が困難だと診断された選手はIL(Injured List、2018年まではDL:Disabled Listと呼ばれていた)というリストに入ります。
ILには10-day、15-day、60-dayの3種類があり、10-day-ILと15-day-ILに入れられた選手は、40人枠から外さないという条件でマイナーオプションが無くても26人枠から外せるので、別の選手を26人枠に加えることができます。また、復帰まで数ヶ月要する60-day-ILの重傷者は40人枠からも外すことができるので、新たな選手とメジャー契約を結ぶことが可能です。
ILに入れられた選手はその日数分、26人枠に登録することができません。

40人枠と26人枠について理解していただけたでしょうか?

DFAとは

ここからが本題です。
DFAとはDesignated for assignmentの略で、40人枠から外されることを意味します。
DFAは、何らかの事情で40人枠を空けなければならないという時に行われます。

よくある例
・マイナーで活躍している40人枠外の選手とメジャー契約を結びたいが、40人枠に空きがないので空きを作るためにDFA
・FAの選手とメジャー契約を結びたいが、40人枠に空きがないので空きを作るためにDFA
・トレード等で他球団からメジャー契約の選手を獲得したいが、40人枠に空きがないので空きを作るためにDFA
・怪我が回復したのでILの選手を復帰させたいが、40人枠に空きがないので空きを作るためにDFA
(補足)
マイナーオプションがない選手を26人枠から外す場合、40人枠に入れながらマイナーでプレーさせることができないため、40人枠から外す(つまりDFAする)必要があります

今回の山口は、トレード等で他球団からメジャー契約の選手を獲得したいが、40人枠に空きがないので空きを作るためにDFAに該当します。

DFAされるとどうなるの?

DFAされた選手は以下のようになります。
①7日間以内に他球団にトレード
②メジャー契約での保有権を放棄することを宣言し(アウトライト・ウェイバーにかける)、7日間以内に他球団が獲得を希望すればそのチームへ移籍する(クレーム)
クレームの最優先は同一リーグ、その次に勝率が低いチームが優先です。トレードやクレームで移籍する場合は、移籍後のチームで40人枠に入ることになります。
7日以内に上記のどちらも行われなかった場合にはじめて、保有している球団は選手をマイナー降格(アウトライト)させることができます。(解雇することも可能)
ちなみに、メジャーで3年間プレーした選手と過去にアウトライトされた経験のある選手は、マイナー降格を命じられた際に拒否してFAになることができます。

・他球団から獲得の希望があった場合
・本人がマイナー行きを拒否してFAを選択した場合
を除くと、マイナー降格になることが多いです。

今回山口がDFAになったのは、ボストン・レッドソックスからDFAされたJoel Payampsという選手を、ブルージェイズがクレームして獲得し、その選手を40人枠に登録するためです。

まとめ

ざっくり説明すると以下の通りです。

NPBに置き換えると、
”支配下選手に対する育成契約前提の戦力外通告"(俗に言う育成落ち)
と説明すればしっくりくるかもしれません。

もう少し詳しく説明すると、
・支配下契約(40人枠)を破棄します。
・改めて育成契約(マイナー降格)を結びたいのですが、他の球団から支配下契約のオファーがあればそちらが優先してください
・どこからもオファーがなければそのまま育成契約(マイナー降格)を結びましょう

というような感じになります。

日本で言う戦力外通告はアメリカだと解雇(リリース)に近いニュアンスです。
DFAにはそのまま解雇されるパターンもありますし、育成落ち自体"支配下としてはいりません"というニュアンスも多かれ少なかれ含まれているため、事実上の戦力外通告という表現は正しいわけではありませんが、あながち間違いでもないと思います。

山口はどうなるのか

トレードやクレームされた場合、給料は移籍後の球団が負担することになりますが、山口の今年の給料は$3.2M(日本円で約3億3千万円)と相場を考えればかなり割高と言えます。今年は特に各球団補強に資金を投じることを躊躇しているため、獲得に名乗りをあげる球団が現れるのは正直考えにくいので、残念ながらマイナー降格が現実的なところでしょう。

山口自身がアメリカでの野球に関して強いこだわりがあればアメリカに残るかもしれません。仮にマイナー降格になったとしても、マイナーで結果を残せば再びメジャーに昇格できる可能性もあるからです。
山口の契約の詳細がわからないため確実ではありませんが、おそらくマイナー降格を拒否して自由契約になる権利を持っていると思われるので、本人にそのようなこだわりがない場合は、日本の球団からの獲得オファーがあれば契約する可能性は十分あります。

どちらにせよ、1週間ほどで動向がはっきりするはずです。

画像引用
https://www.mlb.com/player/shun-yamaguchi-685493

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