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遅れてきた青春

 志保は高校に入り、サッカー部のマネージャーに入部した。姉が高校サッカーが好きで、一緒にTVで見ていたことや、姉が買ったサッカーマガジンを斜め読みしており、志保にとってサッカーは身近な存在。それに同じ県に、高校卒業後Jリーグに入団することが決まっている、志保の好きな選手がいる。もしかして会えたりして!?というミーハー心と漫画にありそうな部員とマネージャーの恋愛を妄想し、期待に胸を膨らませていた。

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 徐々に部活に慣れ、志保は自分の妄想が全く実現されることはないことが分かった。部員とマネージャーの距離感が遠い!人見知りの部員が多い!和気藹々なイメージを想像していたのに、先輩の部員に声などかけられない。志保は落胆したが、マネの先輩達は面白く、あだ名で呼び合い、同学年のマネたちと共に、マネの部室は笑いが絶えなかった。サッカーの練習を見るのも楽しいし、部活中にバレずにダイエットをするか、などくだらない遊びをマネ達で考えたり、マネの仕事自体も楽しかった。
 ファンであった選手とまさかのインターハイ予選で当たるという奇跡も、一年生の私たちは参加しなくて良いと言われ愕然としたり、部員との恋愛も皆無で妄想は叶わないが、志保はこの部活に入って良かった、と思った。
 ちなみに志保が3年生になったときには、マネと部員たちの距離が縮まり、後輩マネと後輩部員が付き合うという、志保の妄想が実現した。しかし、志保は部員との距離が縮んで、部員たちに女扱いされなくなった。可愛い後輩マネを見て、結局は女らしさだよなぁ、とため息をついた。

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 志保は、理系クラス。進学校の理系クラス。真面目な生徒ばかり。その中で髪の毛を染め、見た目がギャルの志保は異物。しかもクラス40人の中で、女子は5名という逆ハーレム状態。しかし、志保はいつもふざけていて、みんなの笑いをとり、クラスの盛り上げ役、いやいじられ役だった。女子と話すのが苦手な男子たちも、はじめはギャルの志保を避けていたが、徐々に気軽に話しかけてきてくれるようになった。志保は、クラスでも女子としてみてもらえていない。あーぁ、クラスでも思い描いていた、青春の代名詞、恋愛はなさそう、志保は残念に思うが、友達と認めてもらえているし、無口なやつに限って面白い。恋愛だけが青春じゃない!この友達たちと過ごす日常も青春だ!と自分を慰めた。

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 部活引退の時には、部員たちから寄せ書きが書かれたミニサッカーボールをもらった。感謝の言葉より「先輩、最高に面白かったです!」「毎回次は何色の髪になるのか楽しみでした。」「先輩はサッカー部の華でした?」などふざけた内容が多くて、苦笑した。華でした、で終わってよ。?つけないでよ!まぁ、心のこもっていないメッセージよりは、マシか。

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 卒業式終了後、毎年恒例のサッカー部の胴上げが始まった。マネは胴上げされない。志保は笑って見ていた。すると、志保に声がかかる。志保は制服を着ており、かなりミニスカート。それにも関わらず、後輩たちが胴上げをしようとする。こいつら、なめているなと思いつつ、志保はここで拒否するのもノリが悪い、仕方ないと諦めて、スカートの下にハーフパンツを履く。ちなみに胴上げされたのは、志保だけで他のマネは、されなかった。もう、後輩たちにまで女扱いされていない。でも初めての胴上げだったし、許してやる!「重いって言ったやつは誰!?」と言って、後輩たちを笑わせる。

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 卒業式も終わり、春休みに入り、最後に志保の同級生の部員対後輩部員たちで、練習試合をすることになった。志保は参加したが、もう新しい後輩のマネ達がいる。志保はもうお客様だ。ゆっくり観戦する。お、今のセンタリング良いね!うわぁ、この子、こんなに上達したのか、頑張っていたもんね。などマネの時はスコアをつけたり、飲み物やテーピングなどでゆっくり試合を観ることは出来なかったので、楽しんで観戦した。今日で完全に終わりか。想像していた高校生活じゃなかったけど、うん、楽しかった。

 試合が終わり、解散となったが、同級生の部員たちは、帰らない。今残っているメンバーは、理系クラスのメンバーで仲が良いため、志保もそこに混ざる。
「今日で終わりかぁ。早かったなぁ。」
「俺は結局うまくなれなかったから、今日でサッカーとはお別れだなぁ。」
それぞれが感慨深く、話している。
「志保、キャッチボールしようぜ。」
志保とクラスも一緒で、志保をいじり、教室や部活で笑いをとっていた、山田が言う。良いネタを振ってくれるため、志保はありがたいと思い、自然とクラスで1番仲良い存在になっていた。でも山田のいじりのせいで後輩にも女扱いされなくなった気もするが……
山田はしんみりしてきた雰囲気を変えようとしているのだろう。
「いいよ。でも私、小学生の時ソフトボールやっていたから、普通にうまいよ?」
山田は、最初は軽く投げていたが、志保がきちんと取る上に、しっかり投げ返すため、投げる球が早くなってきた。しかし、志保は余裕だ。すると、高いフライを投げてきた。レフトを守っていた志保は、フライなんて朝飯前だ。しっかりキャッチする。
「甘いね。これくらい余裕だよ。」
「じゃぁ、これならどうだ!?」
大分前に投げられたフライ。志保は慌てて前に走り出す。ギリギリキャッチしたが、勢いがつき、転んでしまう。みんなが笑う。
「今のは卑怯だよー。」
「ごめん、ごめん。あまりにうまいからさぁ。怪我してない?」
山田はそう言いながら、志保を立たせるために手を差し伸べる。志保はその手を掴み、立ち上がる。すると山田が耳元で、
「そういう志保の一生懸命な姿にみんな助けられたよ。ありがとうな。そういうところ、好きだよ。」
え?しかし山田は何もなかったように、志保に背を向けて、歩き出す。
「さぁて、最後に志保がオチで締めてくれたし、帰ろうか。」
山田は、帰り支度をはじめ、みんなも志保の怪我がないか確認してありがとう、と言って去っていく。なんだ、やっぱりいつもの冗談か。

  ***
 その2日後、山田から電話がきた。
「返事は?」
「なんの話?」
「お前さぁ……俺が2回も言えるやつじゃないって志保なら、分かっているだろう?」
山田が笑う。
え?今さら?青春がくるのが遅いよ!と志保は心の中で笑った。

【あとがきという名の言い訳(笑)】
この話は実話が多いどころか、ほぼ実話で、フィクション部分と噛み合わなくて、すごく困りました。でも何度か修正してみたけど、思いっきり変えないと無理で、でも実話部分は削りたくない…もういい、とりあえずこれであげる!とちょいやけになりました(笑)いつかこれをベースに違う話にすれば良いか、と開き直ってます。
ちなみに私の好きな選手とインターハイで当たったのも事実。奇跡を見事に回避する私の凶運…結果は7-0で負け。全国優勝が当たり前の高校だったから、7点だけ?と思い、相手は2軍だったのでは、と密かに疑っている(笑)

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